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素性の知れぬ他人

3話目、書き直しました。ええ大分ね

キャラを記号化させることで前より個々が自己主張しないようにしてみました


と、ついつい一流シェフの素材へのこだわりみたいなスカしたことを書いてしまいましたが、何を隠そう僕はカップラーメンが好きです

「このふざけた状況はお前たちの仕業か?」


 私が声を張ると、その場の人間が一斉にこちらを向く。人々は広場の周辺で散り散りになっていたが、広場の中央には五、六人程の固まりができていた。

 その内の何人かは訝しがるような目でしばらく見つめると、何も言わずにその場を立ち去っていった。


 ……まあ、大方予想通りの反応か。

 とは言え自分の発言を少しだけ後悔しつつ、なんとなく『自分の身を包んでいる衣服』の袖を摘む。


 それは、口元まで布で覆われた真っ黒なローブ。その衣服からは肌が露出している部分が極端に少なく、顔ですら目元以外のほとんどが覆われている。

 正直言って自分でもどうしてこんな服を着ているかは謎だった。


「……お前、ただでさえそんな格好をしているのに、余計に怪しまれるような物言いをするものじゃないぞ……」


 と。不意に声を掛けられる。見れば、黒いトレンチコートに身を包んだ長身の男が私に歩み寄っていた。


「わざわざ不審に思われるような真似をすることもないだろうに……。一体どういうつもりだ?」


「……こんな格好だから、かな。どうせ疑われるだろうし、出で立ちについて説明するのも面倒だったんだ。だからいっそと、あんな風に言わせて貰った」


 そう返答しておくも、一応一歩だけ距離を置いた。


「ふむ……。それならばローブを脱げば話が早いんじゃないかと思うが……。まあいいさ」


 確かにその通りだ。

 が、互いの素性やこれから起きる事が分からない内は、迂闊に素性を明かすような真似は避けた方が賢明だと思ったのである。


 ……それはさておき、問題はこの目の前の男だ。他の人間が寄りつかぬ中、真っ直ぐ私の方に向かってきたこの男は……警戒に値する男ということも考えられる。


「ところで、どうやらお前で最後のようだぜ……」

 

 対して男の方は、至って涼しげな顔をしている。こんな私にもまるで平気な様子で接しているようだった。


「ここに集められた人間はお前で全員だ。恐らくはな……」


「私で最後?」


 その言葉には思わず問い返した。男は深く頷いて続ける。


「……お前も廃屋で目が覚めて、そこから出て来ただろう? 実は、俺たちも全く同じ状況だったんだ」


「そう……なのか」


「ということは……。ここに集められた人間の人数は、この廃村の家の数だけだと考えるのが自然だろう? 今、ここにある家の数は全部で十軒だ。つまり、集められたのは十人。そう考えて差し支えないんじゃないか?」


 もっともな分析だった。

 それは冷静に考えればすぐに分かりそうなことだ。しかし、周りが動揺を隠せずにいる中、その単純な分析が彼を一際平静を保っているように思わせる。


 素直に、頼りになる仲間に出会えたと安堵するべきなのだろうか、それとも……。

 思案を巡らせながら、私が黙りこくっていると、


「……俺は黒幕じゃないぞ」


 ぽつりと男は呟いた。


「そんなことは言っていない」


「目がそう言っていたのでね」


「……いや、そんなつもりは……」


 目つきを指摘され、思わず目線を泳がせてしまう。そんな狼狽えた様子を見て、彼は微かに笑みをこぼした。


「冗談だよ。だがまあ、ちょっと神経質過ぎやしないかね、とは思うけどな」


「…………」


 確かに、警戒はし過ぎて損は無いとは思いつつも、流石にやり過ぎだったかもしれない。見透かされたようで、ほんの少し恥ずかしい気持ちになった。


「……そりゃ俺だってこの状況には驚いているんだ。決して余裕かましている訳じゃないぜ。……ただ、狼狽しているだけなのも無意味かなとも思っているかな……」


「一つ尋ねたい。君には……なんというか、その……記憶があるのか?」


「記憶喪失か。残念ながら、俺にも記憶らしい記憶の一つもない。まるでここでついさっき産まれ落ちたような気分さ。はじめましてのお前たちに自己紹介したくとも……不躾なことに、名乗る名前すら覚えが無いときた」


 そう言えば……。


 今言われるまで無自覚だったが、確かに自分の名前すら思い出せない。時間の経過とともに、失われたものの名ばかりが明らかになっていく……。

 自分の中から人知れず奪われたものの存在に気づくその度に、私は心に穴が空くような虚無感に襲われた。


 顔に影を落とす私の顔を見てか、男は自嘲気味に笑った。


「怪しい言動の上に、自分の名前すら名乗らない。疑惑は募るばかりだよな」


「……いや、今度は別にそういうことを考えた訳じゃ……。あ、いや……今度は、というかその……」


「ハハ……だから冗談だって。どうやら記憶が無いのは俺たち十人共通らしいしな。つまり、自分の名前が思い出せないのも皆同じって訳だ。お前もそうなんだろう?」


「ん……。まあ……」


「……悲観するんじゃない」


 不意に節くれ立った手が肩に置かれた。


「俺たちは運命共同体って訳だ。この虚しさや苦しさを俺たちみんなが理解している。そう思えば、頼れる仲間が一度に九人も出来たことを喜べるんじゃないか?」


 その台詞に思わず噴き出しそうになった。


「ふっ……。ちょっと臭過ぎやしないか? それは励ましているつもりなのか?」


「ハハ。そんなに器用なこと、おじさんにはできないさ」


 蓄えた顎髭をくいくいと撫でる。

 何やら先ほどから年長者を演じたいようだが……何がおじさんだ。

 確かに大人びた真っ黒のトレンチコート姿に、大雑把に切り揃えられた短髪、そしてご自慢の顎髭……などという字面だけ見れば彼は渋い雰囲気を持つ中年男性だろう。


 しかし一度その彫りの深い中世的な顔立ちに目を向ければ、どちらかと言えばフレッシュなファッションモデルのような佇まいであることが分かるだろう。陰鬱な雰囲気ではなく、ニヒルな雰囲気を醸し出しているとでも言うべきだろうか。


「ふふ……。人の気持ちは器用に読み解くような真似事をするのにか?」


「おっと、気に障ったかい?」


「いや、そうじゃない……。だが、気遣いは無用だ。不安もあるが、それ以上に『ただ狼狽しているだけなのも無意味かな』なんて思っているよ」


「おっと……。最初の印象を見た限り、皮肉を言うようなタイプには思えなかったんだが……。意外と話せるヤツみたいでおじさん安心したよ……」


 くっくと笑う様子を見ていて、私は不意に気づく。廃屋の中で目覚めた時に満ちていた緊張感が、幾らか解れていることに。


「……ならおじさん。僭越ながら、気遣いの礼に若輩者から一つ忠告させてもらうよ」


 彼からは冷静さの裏に、他者を気にかけられる二面性を感じる。それは淡々と悪事を企む者が見せかけの善人を演じている訳ではないということも、なんとなく信じることができた。


 だからこそ、敢えて私は『こういう話』をするのだ。


「確かにこの虚しさ、苦しさを私たち十人は共有しているだろう。ただ、それが私たちが仲間である理由にはならないよ」


 瞬間、男の顔が強張る。


「油断するな……。腑抜けていたら九つの死体の一つになっていたなんて、洒落にならないぞ」


 馴れ合って事態が好転する訳ではない。しかし頼れる人間の手助けは必要だ。それならば、私が信用の証として彼に返せるのは、飾り気の無い純粋な警告こそ相応しいと思うのだ。


「ふむ……。俺たちは虚しさと苦しさを共有した、十人の敵同士かもしれない、か……。そりゃあそうか……。なんだ、お前は俺なんかよりずっと冷静じゃないか」


 私には記憶が無い。しかし、自分はユーモアに富んだ人間ではなかったのだろうなというのは薄々気づいてはいた。

 だとすれば、私なりの気遣いの礼というのはこういう形なのかもしれない。


「とにかく、これからの動きによく注意するべきだ……。私たちは何か意味があって集められた十人だということはほぼ間違いない……。それが今こうして一堂に会したということは……」


「あ、あの!!! みなさん、注目して下さい!!!!」


 突如私の後方で、か細い声が届く。私と男、両者揃って眉をひそめる。


「いよいよ何かが始まる……か」

若気の至りでつい僕はカップラーメンが好きですだなんて言いましたが、半ば嘘です

一平ちゃんが好きです。

感想、お待ちしておりますが、ペヤングの復活もより一層お待ちしております

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