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引き籠もりのニート

とりあえず区切りいい所まで更新してしまいました

 不躾な受付嬢の質問攻めから解放されてからは、ただ時間を浪費していた。

 恐らくはチェックアウトまでそう時間もない。荷物は小銭の入った巾着袋しかないので、特に荷造りをすることもなかった。

 とりあえず、シーツの皺を伸ばすことを始めとする、最低限のマナーに則った後処理を行っているうち、ノックの音が聞こえた。

 ふっと壁を見上げる。壁時計の文字盤は丁度5時を告げていた。


「精算でございます」


 鳩時計の代わりに現れたのは相変わらず素敵な笑顔を提供してくれる、ホテルマンの少年……ピタリア(恐らくは)だった。色々間違っているが、ある意味とても関心な教育をされている。


「くつろげてございましたか?」


「ええ、とても……」


 愛想笑いを浮かべながら巾着の紐を解く。

 ……欲を言うなら、もう少し娯楽が欲しかったがね。卓球をしたいとまでは言わないが、せめて部屋に木組みの脳トレパズルくらいあったら嬉しかったな。


「退屈でしたでございましょう?」


「え?」


「無理もないのでございます。従業員もまだ3名。施設のランクもまだ高くはありませんのでございますから……」


「へえ、そうなんですか……」


 何言ってんだか全然分からん。

 ただ、娯楽に欠ける自覚はあったのか。それなら何かしら対策を講じてくれればいいのにな……。

 まあ、既に出る店のことなど心底興味がなかったので、俺は適当な相づちを打ちながら、巾着から2枚の金貨を取り出した。


「おっと、つまらない話をしてしまったでございますね。精算でございました」


 精算。これが済んだらまたあの街に放り出される訳か。次こそしっかり生きていかなくちゃいかん訳だが果たしてな……。

 ぼんやりとこの先の運命を憂いながら、俺は2枚の金貨を差し出す。


「お世話になりました。んじゃ、これで……」


「お会計の方が、32Gでございます」


「…………は?」


 顔を上げると、少年が変わらない笑顔のままでニコニコと佇んでいる。


 聞き間違え、だよな。俺の耳にはこの人畜無害なスマイルを振り撒く少年が、法外な値段を言い放ったように……。


「32Gでございますよ」


「…………」


 聞き間違いではなかった。彼はむしろ、念を押すようにして32Gを請求している。柔らかな微笑みに細める両目。しかし僅かな間から覗く瞳は確かに俺の目を見据えていた。


「どうか、なさいましてございますか?」


「ど、どうかしたじゃないだろ……」


 勘違い……? いや、悪意があっての発言なのは明らかだ。俺は思わず語調を強めずにはいられなかった。 


「契約の時に確認した筈だろ!? 俺は2G払えばいいって! チェックアウト予定時間の17時までなら、追加料金は掛からないってよ! その30Gって、どう考えても追加の料金だよな!?」


「2G払えばいい……?」


 はて、とピタリアは首を傾げた。心底疑問に思うように、オーバーで、癇に障る動き方だ。


「契約の際に、『2Gを払えばいい』などというような確認は一つもしちゃいませんねえ。確かに『新たに追加料金が掛からない』とは言ったが……おっと、言ったのでございます」


 こいつは……本当に何を言っているんだ?

 2Gを払えばいいとは言っていないが、新たに追加料金が掛からないとだけは言った……? 

 なんだよ、それって……それじゃあ……。


 俺が契約の確認をした時点で、既に俺の支払いは『32G』だと決まっていたみたいな言い草じゃないか…………。


「…………」


「あれ?」


 俺は、無言でピタリアの脇を通り抜けた。馬鹿馬鹿しい。話にならない。

 ここは、1泊して規定のチェックアウト時間に至るまでの利用なら、2Gで利用できる。俺は確かに確認したんだ。それなら、1泊しかしていない俺が2Gを払って出て行くことに何ら問題はないんだ。

 俺は握りしめていた2枚の金貨を部屋の隅に放り投げる。

 

「あれあれ、それは何の真似でございますか? そのクソの役にも立たない小銭をどうしていま不法投棄したのでございますか?」


「俺は確かに1泊分の料金は払ったからな。じゃあな。二度と来ねーよこんな店は」


 冷たく吐き捨てた俺は、一切の躊躇もないまま、ドアノブに手を掛けた。


「ドアに触れましたね?」


 その時、咎めるような声が飛んだが、構わずにドアノブを回す。


「ぶふっ!」


 瞬間、背後から確かに聞こえたのは、吹き出すような笑い声。それは、今まで見せつけられてきた『笑い』とは違う……明らかな嘲りを感じる、気分の悪い『嗤い』。


「クク……それでは、契約違反と見做し……当店は『正当な』自衛手段を行使させてもらうでございます……」


 そして、意味深で物騒なセリフが続く。だが既に俺は扉を開ききっていた。もし取り押さえるよな真似をするのなら、全力で逃げてやろうと思ったし、大統領のヤツに事情を説明すればなんとかなる……俺は最後までそう楽観視していた。





 そう、全てはピタリアの言う通りだった。


 俺は重大な契約違反を犯していたし、ドアに手を掛けた時点で逃げる間もなく『詰み』だったのだ。

 

 



「……見ろよ。また一人来たぜ」


「…………え?」


 

 次の瞬間。俺はある『声』を耳にしていた。

 ピタリアではない。耳に飛び込んできたのは、もっと低い、別の人間の声。


 視界に飛び込んできた光景は、鮨詰めの部屋。十数人の男女が、窮屈そうに身を寄せ合いながら……ある者は座り込んだり、ある者は死んだように倒れ込んだりしている。


 開いた扉の先は、205号室前の廊下の角などではなかった。


 自分に起こった出来事を理解できず、ただクローゼットの扉に手を掛けたままで呆然と室内を眺めている俺をまた、彼らは退屈そうに眺めていた。

やはり長編は書いているうちにやりたいことが分からなくなってくる感はありますね


ちょっと、とりあえず進めることだけ考えて書き散らしている状態なので、ここまでの正直な感想など頂けると非常に参考になります。よろしくお願い致します。

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