市民たちの街
最近になってですが、執筆するのはだんだん苦ではなくなってきました
投稿の為の添削を行うのが苦になってきました
「無事生きていれば、疑問の答えも出るかもしれないし、あわよくば記憶の在処も分かるかもしれないぜ?」
「まあ、一回やってみよ? やりながら覚えよ? そういうボードゲーム的感覚でいこ?」
「腹減った!! ちょっくら大統領府に戻って贅の限りを尽くしたお料理をば食いたい!!」
「お前いつまでいんだよ!! さっさとどっか行けよ!! 大統領、もう帰るからね!」
「あ、これ。餞別ね。大事に使おうね。んだらばさらば〜」
と、言った具合に。
大統領は、自分の言いたいことだけ好き放題言った後、満足そうに去っていった。そして、俺の方からの声は一切届いていなかったことは容易に想像できた……。
結局、一連の会話(というより一方的な発言)の中で有益な情報など何一つ手に入れることは出来なかった。この見知らぬ町で、これから何をすればいいかなど、会話の中で全く触れられなかったのだ。
ここですべきことは自分で考えろ、そう言わんばかりの放置っぷりであるが……裏を返せば、何をしてもいいと、自由を与えられたようにも思える。
餞別……。
俺はその後、大統領が去り際に残していった巾着袋の中身を確認した。中に詰まっていたのは見たことの無い金貨……まあ、お金の種類に詳しい訳でもないけど。
金貨は全部で10枚。勿論これがどれほどの価値があるかは全く分からない。まさか、この十枚ぽっちのコインで生き残れと言う訳じゃないだろうな……。まあ、所謂RPGで言う王様の『準備費用』みたいなものなんだろう……。
しかし、やはり俺の『目的』は依然はっきりしないままだ。俺にどうしろと言うんだ……。
……まあ、ヤツの思惑なんてこの際どうだっていい。それよりも俺は、もっとずっと深刻な危機に直面していた。
「やべえ……餓死する……」
大統領の手により異世界に放り出された俺はその後、あっという間に1日を浪費。そしていきなり死の淵に立ちかけていたのであった。
とにかく歩いてばかりで汗をかいたので、とりあえず服を着替えてリフレッシュしたい。同時に腹が減ったので飯を食いたい。同上で眠いので早く寝てしまいたい。
それらの願いが一つも叶わない世界、異世界。ワオ! 俺の想像以上にシビアなワールドですね!!
実を言うと、昨晩は野宿でした。1日だけ飯を抜くことにし、人気がなくなった広場のベンチで、横になって眠ってしまいました。
そして翌朝目を覚ました俺は、なけなしの軍資金が幾ばくか無くなっていることに気づいたのでした……。
「なんだよこれ……治安悪すぎだろ……。ていうか、これ今所持金幾らなんだよ……」
巾着袋の中には、金貨が5枚。丁度半分盗られた、と。
それにしても、どうして巾着袋ごと盗まなかったのだろう。まあ、よく分からん酔狂のお陰で、結果的には首の皮一枚繋がった訳なのだが……。
分からないことは山積みになっていくそんな世界の中、俺が二日間掛けてようやく確信に至ることができたのは、二度と野宿なんかしちゃいけませんという事実のみだった。
◆
今日はしっかりこの街を探索しよう。腹を鳴らしながら、力を振り絞り、商店街らしき場所へ足を運んだ。
そう。昨日の俺の悪かった所は、持ち前のコミュニケーション障害スキルが邪魔をして、聞き込みや散策を怠ったことだ。(コミュ障に関しては、記憶云々ではなく本能的になんとなく理解していた。哀しい気分になった)ある意味、それがベンチでさっさと就寝→スリに遭遇、という流れを作り出したとも言っても過言ではない。
商店街は活気に溢れており、あちこちの露店が客寄せを行っていた。多くの店が屋台のような木造りの小さな店を構えていて、綺麗に道の向こうまでずらりと整列している。
まあ、そんなことよりだ。こういう時、まず必要な物はなんなんだろう。俺はその場で少し思案した。
武器……か?
昨晩のことを考えれば、この世界には盗人のような悪人が蔓延っていることは確かだ。自分の身を守るために必要な物に思えるし、RPGなどでも何より先に必要なのは敵を倒し、金を稼ぐための武器だ。
しかし、RPGと決定的に違うのは、俺というプレイヤーは俺の生身そのものを使っているということだ。当然腹は減るし、このままなら餓死する予感もする。というか、満足に武器なんて振れる程の体力も無いように思える。
「……ローグライクだったら、一番大事なのは食料だよな……」
自分に言い聞かせるように、己の欲望に素直になることにした。とりあえず、陳列棚一杯に果物を並べた露店に向かう。店の看板には『食料屋』と書かれている。何かネーミングセンスが微妙な店だ。
「いらっしゃいませ!! 聖職者様!!」
そうそう。そう言えばどうやらこの世界の共通言語は日本語らしい。服装や容姿を見た感じでは、様々な国籍の人々が様々な文化を共有し、境界無く平和に暮らしているような感じに見えるのだが……。とうとう大日本帝国が天下を統一したのかしら。
「いらっしゃいませ!! 聖職者様!!」
ボーっとしていたら、催促するように再び元気注入される。……てか、聖職者様って何だ?
「あの……このバナナって幾らします?」
しかし些細な疑問より圧倒的な空腹が勝っていた俺は、陳列された商品の一つを手に取って言った。
「1000Gでございます!」
通貨は『ゴールド』か……。なんかありきたりだな。そんなキラキラ輝いてるからゴールド、みたいな、ドラゴンを探しに行く冒険的な発想を大真面目に採用している国がこの世に存在するとは。
「えと……これで足ります……?」
ともかくと、俺は恐る恐る手持ちの金貨を手のひらに全て並べてみせた。すると、店主は少し困った顔をして言う。
「聖職者様、すみません。お金が足りないようです」
ええ……。バナナ一房すら買えないの……? 日本国だったら100円ちょいくらいで買えるよね……。
「えっと……じゃあ、こっちのリンゴは?」
「1000Gでございます!」
「じゃあ、こっちのブドウなんてどうでしょう?」
「1000Gでございます!」
「変化球で意外とメロン!!」
「1000Gでございます!!」
「全部同じじゃねえか!!!」
何だこの店!? え!? 俺に対する嫌がらせだと思っていいのかなこれ!? 観光者だから甘く見られてるの!? 聖職者様って蔑称かもしかして!?
「あの……ちなみに幾ら足りてないんですか?」
「あと、金貨5枚分足りていません」
ああっ、もう野宿した昨日の俺と追い剥ぎ死ね!! てか俺の全財産、フルーツ一個分と同価値だったの!? 大統領のヤツもシケた餞別を寄越しやがって!! みんなして俺を小馬鹿にして楽しいかチクショー!!
止むを得ず、心の中でこの世の全てを呪いながら店を後にする。この時点ですっかりメンタルをやられた俺だったが、何しろ命が懸かっているので、負けずに別の店へ訪れる。
次は武器屋だ。いや、武器屋かどうかは分からないが、武器をやたらディスプレイしている店があったのだ。
……看板にはちらっと『食料』の文字が見えたような気がしたのだが、見て見ぬ振りをして店の前に立つ。
「いらっしゃいませ!! 聖職者様!!」
「あの……この金貨でどの商品が買えますかね……」
「聖職者様、すみません。その金額では当店で買える商品はないようです」
あ、もう詰んだ。詰んだわこれ。この流水のような流れ見覚えあるもん。デジャヴだもん。
「おう……うう……ちな、ちなみに……これは幾らなんですか?」
この店の中で一番安そうな短剣を、震える指を抑えながら差す。
「すみません、聖職者様。こちらは商品ではございません」
「じゃあ、こっちの盾なんかは……」
「すみません、聖職者様。こちらは商品ではございません」
「じゃあもう奇を衒ってその指輪!! アンタが今つけてる指輪が実は商品という抱腹絶倒なオチで……」
「すみません、聖職者様。こちらは商品ではございません」
「ですよね!!!!!」
あひゃひゃひゃひゃひゃ!! 武器屋が武器を売ってくれないでござるの巻!!! チクショー! こっちがリンゴ一個買えない人間だって分かった途端に手のひら返しかコノヤロー!
「じゃ、じゃあ!! もう、おまっ……! ここは何を売ってんだよーっ!! 何を売ってるってんだよーっ! 言ってみろっ! 言ってみやがれってんだ!」
ブラボー! 空腹と人間不信から俺は悪質なクレーマーに進化した! ドーパミン巡りまくりで周りの冷めた目が一周回って気持ち良くなってくるぜ!
「これでございます」
至って冷静な店主に見せられたのは、錠剤の詰まっているように見える、膨らんだ袋だった。
「……何これ」
「食料にございます。これ一袋で、一食分の効果があります」
「……幾ら?」
「1000Gでございます!!」
「ふえぇ……」
なんなんだこの、主に俺に厳しくてニューゲームな世界は。
◆
その後、商店街中の店を回ったが、とうとう俺が買える商品は見つからなかった。
そして、まともな商品を売ってくれやしなかった。
食料品をディスプレイしている店は、その商品を売ってくれたのだが、それ以外の店では例の錠剤ばかりを押し付けてくる。ホント何だこの国。薬漬けか。国家転覆は時間の問題だよ。
「そして俺の命の灯火が消えるのも時間の問題だ、ってね!! ヒャッハハハハハ!!!」
夜の広場に不気味な高笑いが響く。結局俺は例のベンチに戻ってきていたのだった。ああ、勿論学習済みだ。ここで寝たらいけないのは重々分かってる……いや最早、寝たら物理的に死ぬか。
そう分かっていても、意識は薄れる一方だった。というか、今日の疲労感は半端じゃなくてもう一歩も歩けん。
一応俺もただで死ぬつもりはなかった。商店街を後にしてからは、意を決して物乞いを行うことにした。道行く人々に声を掛け、食べ物を恵んでもらおうと試みたのだ。人間の尊厳とか何の腹の足しにもならん物は糞食らえだ。
ま、そこまでの鉄壁の意志を持ってして誰かれ構わず声を掛けても
「聖職者様の仰る意味が分かりません」
この一点張りだったんですけどね!!
いや……ホント……ホント何この国。もう怖いわ。情けは人の為ならずの精神が欠片もないのか。いや、情けは人の為ならずの意味が誤用のまま人々に伝わってる世界なのかもしれない。みんな本気で情けは人の為にならないと思ってるのかもしれない。ああ、だとしたら納得……。
「するかーいっ!!!! 納得するかーいっ!!!! チクショー!! みんな死ねぇーっ!!! アハハハハげほげっほっ!!! おえっ、ヤベッ俺が死ぬっ!!!」
ひとしきり絶叫し、ひとしきりむせ返ると、全てがどうでもよくなった。後に残ったのは疲労と空腹、そして強烈な眠気だった……。
「もういいや……。寝よ……。もうどうでもいいや……」
薄れていく意識は眠気からくるものなのか、それとも……。
最早俺にはそれを考える程の余裕すらなかった。ただ、その眠気に身を任せるしかなかったのだ。
死が足音を立てて歩み寄るのが聞こえてくる。じゃり、じゃりと砂を踏みしめながら、一歩一歩着実に……。
ああ、俺は今、人間の命の儚さを肌身に感じている。たった二日三日飲み食いできなかっただけでお迎えがやってくるなんて……。まあ、でも天国でも地獄でもこの飢えを忘れられるなら何でもいいや……。
そしてとうとう、待ち構えるスタイルを取ることにした俺の前で、足音はぴたりと止まった。
「もし……そこの貴方?」
ああ……死神ないし天使的な者の声だ。脳にぼんやりと声が反響した。
「こんな所で野たれ死んじまいございますくらいなら、私どもの宿に宿泊していきませんか?」
宿……か。
今日一日はまず食料だと、食べ物だけを求めてきた。しかし、冷静に考えたら宿を探せば食料問題も解決したんじゃなかったんだろうか……。
後悔よりも先に、俺は宿という言葉の響きの素晴らしさを改めて実感していた。
風呂に入って、服を着替えられて、温かいご飯が出てきて、ふかふかのベッドがあるんだろうな……。
「この街でまともな値段で宿や食料を探そうとしても埒があかねえのでございます。その点、私どもの宿はですね、この街でも一、二を争う早さで開店を行えたこともあるのでございまして……」
何やらぶつぶつと聞こえるが、俺の頭の中は真っ白なシーツの上にダイブしているビジョンで一杯だった。
「宿……。いきたい……」
故に、意識が途切れる寸前に俺が出来たのは……その寝言のような一言を絞り出すことだけだった。
投稿メンドくさ癖がでなければ、次回は早めに投稿できるはずなんです