静寂のクラクション
東京に戻る白井と咲希。静かに時計は時を刻む…
「また来てくなんしょ」「はい、是非」白井さんが帰る日が来た。母親は深々と頭を下げ、白井さんを見送った。その横で私は白井さんとアイコンタクトを取り一緒に見送った。
昨夜の晩…
私は石楠花の間に白井さんと居た。地元でも入手困難な地酒「乙女の涙」を二人で酌み交わし、旅の話や仕事のことを話した。
そして雪崩れ込むように私は白井さんに身体を預け、初めて一つになった。
「東京に戻ったら、連絡するよ」「うん。私も、もうすぐ有給休暇が終わるから、東京に戻ったら連絡します」
アドレスは交換し、身体を許したものの、白井さんの口から「付き合って下さい」との言葉はなかった。それでも私はいいと思ったし、頭の片隅で元彼のことが気になってはいた。
白井さんが東京に帰ってからの私はまた脱け殻のようになっていた。交錯する二つの想い。〈白井さんに悪いな〉と思いつつも、元彼と重ねてしまう自分…本当の想いが何処にあるのか分からなくなっていた。
そして私も東京に帰る日がやって来た。「いつでも戻ってこらんしょよ」優しい母親の言葉。その横で無口な父親が目を細め頷く。「いろいろ、ありがとうね。また帰るから」父親も母親も目を潤ませ私を見送ってくれた。
帰りの新幹線の中、ぼんやりと窓の外を眺めていると、一通のメールが届いた。〈白井です。今日帰ってくるんだよね?東京に戻ったら連絡下さい〉早速、白井さんからお誘いのメールが届いた。私は〈今新幹線の中です。着いたらメールします〉とだけ返した。
東京に着いて自分のアパートに着くと、お気に入りの服に着替え髪を直した。「さてと…」私は携帯を取り出し白井さんにメールをした。〈東京に着きました。どうすればいいですか?〉と。メイクを直してる途中で、白井さんからの返事は届いた。〈七時頃には仕事が終わるから、その頃迎えに行くよ〉時計を見ると、針は六時半を指していた。白井さんと離れて数日だが、とても長い時間に思えた。「まだかな…」切ないけど、この待っている時間も悪くない。一秒づつ刻む時計をただひたすら眺めた。
「ファンファン~」アパートの外に聞き慣れない車のクラクションがこだました。カーテンを開けると、高級車の横で白井さんが手を振っていた。私はアパートの階段を駆け降り、白井さんのもとへ向かった。「久しぶりだね。じゃ、車に乗って」気品漂う本皮シートに鎮座すると、白井はゆっくりとアクセルペダルを踏み込んだ。「今日は君に言っておかないと、いけないことがあるんだ…」テールランプが眩く光る中、白井さんは神妙な面持ちで呟いた。私はイヤな予感を感じながらも黙って、白井さんの方に顔を向けた。
白井の口から思いもよらない言葉が…次回衝撃の展開があなたを誘う