二つの想い
なかなか寝付けない夜、咲希は河原で黄昏ていた。そして…
元彼への想いと怒りが煮え切らないうちに、私は元彼とそっくりの白井さんに出会ってしまった。考えれば考えるほど、心のパズルピースはバラバラになっていく。
その日の夜、私はなかなか寝付けず夜風に当たろうと家の近くの河原に来ていた。「あ~。もう頭の中ぐちゃぐちゃ…」知らないうちに独り言を発していた。五分程、川の流れを眺めていると背後から声を掛けられた。「君はさっきの…」振り返ると白井さんだった。「あっ、先ほどは、どうも。白井さんですよね?」私は名前を知っているのに、わざと確認するかのように聞いてみた。「うん。君の名は?」「咲希です」「咲希ちゃんか。ここ…いい場所だね。所でこんな時間にどうしたんだい?」「なかなか寝付けなくって…」「はははぁ」白井さんは高らかに笑った。「何が可笑しいんですか?」私はムキになって言い返した。「いや、僕も寝付けなくってね……同じだ…」元彼とは別人だけど、何となく好意を抱いた。白井さんがいい人だから?それとも元彼に似てるから?分からない…… 帰りの道、同世代ということもあり、共通の話題に花が咲いた。「……ですよね」「そうそう、僕も思う」久々に人といっぱい喋って、いっぱい笑った。気が付くともう旅館の前に来ていた。「楽しかったですね」私は白井さんの顔を伺うと白井さんは切り出した。「咲希ちゃん、頼みがあるんだ」「何ですか?」「三日程、宿泊する予定なんだが明日はちょうどフリーでね。出来れば明日、観光案内をして欲しいんだけど駄目かな?実はこの街と旅館が気に入って何度か来ているんだけど、ゆっくり観光してる時間がなくてね。それに男の一人旅っていうのも寂しいもんなんだよ。どうかな?」密かに白井さんに好意を抱いていた私は二つ返事で了承した。「それじゃ、明日よろしく」「はい。おやすみなさい」「おやすみ」部屋に消えて行く白井さんを見送ると、私も自分の部屋へと戻った。
翌朝、朝食を済ませた白井さんはフロントで私を待っていた。「お待たせしました」「じゃ、行こうか」軽い足取りでまずは最寄りのバス停まで歩いた。「咲希ちゃんは、あの旅館の娘なんだよね」最初に話始めたのは白井さんだった。「そうです。本当は東京で働いてるんですけど、彼氏にフラれちゃって。それで今、恋の傷を癒す為に帰省してるんです」私はありのままを話した。「咲希ちゃんを振るなんて、酷いなぁ」私は作り笑いで白井に返した。「私…なんて」「いや、十分魅力的だよ」「白井さんにそう言ってもらえると嬉しいです」
一通り観光案内が終わる頃には、どちらからということもなく手を繋ぎ観光案内というよりはデートになっていた。
楽しい時間はあっという間に過ぎ、また昨日の河原に足を運んだ。「今日はありがとう。楽しかったよ」「私も」
日が沈むのを見届けると、私達は唇を重ねた。
動き出した二つのメロディ。果たして咲希は前に進めるのだろうか