歪んだ愛の果てに
死にたいほどに彼のことを愛してしまった。それはあなたにも可能性があるかも知れない
あなたには愛する人が居ますか?守るものはありますか?
「もう、どうでもいい…」私は力いっぱいにアクセルペダルを踏み込んだ。エンジンは悲鳴を上げながら、回転数を増す。ネオンがちらつく中、寸での所で思い止まった。死のうと思えば、死ねたのに…。
遡ること一時間前…私は二年付き合った彼氏と居た。正式には居合わせたが相応しいだろう。偶然立ち寄った喫茶店で彼の浮気現場を目撃してしまったのだ。背後からなに食わぬ顔で彼の肩をポンと叩き、大胆にも浮気相手の隣に座ってみせた。「どういうこと?」作り笑いで怒りを隠しながら、問い詰めた。すると、予期せぬ言葉が彼の口から飛び出した。「咲希、お前とはもう付き合えない。別れてくれないか?」その言葉を聞いて私は言い返すことも出来ず、その場を後にした。二年間付き合った彼と、将来は約束されたものと信じていたのに一気にドン底へ突き落とされ一滴の涙さえ流れなかった。来年私は29歳。世間でいう結婚適齢期を越えたか越えないかの瀬戸際。〈もう恋なんて出来ない。誰も信じられない。生きてるのがイヤだ。死にたい〉そう思って、深夜に車を走らせたが私には無理だった。〈あんなに愛していたのに〉脱け殻になったように遠くを見つめる。確かに私は美人じゃないし、料理もあまり得意じゃない。彼とは不釣り合いだとうすうす感じてはいた。でも、彼を大事に思う気持ち、愛する想いは誰にも負けないつもりだった。なのにどうして…
部屋に飾られた彼との思い出。その一つ一つが〈嘘〉だったなんて。思い出を捨てることも、忘れることも出来ず仕事も手につかない。私が勤めるスーパーでは今が一番忙しい時期。少しのミスも許されない。なのに、私は上の空でミスの連続…。こんなに引きずるなんて思いもしなかった。ただ思うことは〈会いたい…〉あんなに傷付いたのに、あんなに酷いこと言われたのに、彼に会いたい…
気が付くと彼のアパートの前に来ていた。古ぼけた二階の角部屋が彼の部屋だ。私はストーカーまがいの行動に躊躇しながらも、カーテン越しに見える部屋の明かりを確認した。次の日も。また次の日も。気付けばそれが私の日課になっていた。試しに非通知で彼の携帯に掛けてみる。聞き覚えのある着信音がアパートの薄い壁を通して外に漏れる。〈良かった。番号は変えてないみたい〉私は胸を撫で下ろすと自宅へ戻った。こんなことしても彼は喜ばないし、私も先に進めない。そんなことはわかっている。でも、でも彼の側に居たい。どんな手段でも。増幅していく歪んだ愛に私は溺れていった。
まずは序章です。これから意外な展開が。