王様たちの語らい、続き
「そういえばローディス殿たちの寝室はどのようにしましょう? 一応、二部屋はご用意してはいましたが」
ローディス殿が気さくなあまり、あれからそのまま雑談に花を咲かせたりして夕食も一緒に過ごしたが、夜も遅いのでアドが寝室の話題を持ち出す。
「ああそうだね、使わせてもらうのは一部屋でいいかな。ファイとノアで一部屋与えて目を離すのは……もしもがあるといけないからここでは避けた方がいいだろう」
「そ、そうですか」
ファイという鳥型の者とノアという女性姿の人は夫婦だと雑談の中で聞いていたのだが、二人きりにするにはとてもまずい間柄にあるらしい。
夫婦仲が悪いわけでも愛が無いわけでもないらしいが、ファイの言動にノア殿が機嫌を損ねやすく、すぐ手が出てていつも何かしらの損害が出ると聞いた。
よくそんな危ない夫婦関係をそのままにしているものだなと思ったが、彼らの伴侶は生涯ひとりでどうしようもないという。それでも緩衝材役がいたからなんとかなっていたらしい。
それがコウだとは聞いたときはこれからの心配もしたが、ローディス殿でも止められるからそのことは気にしなくてもいいとのことだった……。
「そういえば、お宅のお嬢さんの方はあれでいいのかい? 聞いていた話では男女で寝室を共にするのは人にとってはあまり外聞の良くないものだと認識していたのだけど」
「いや、あの。止めても、聞かないんですよね」
このローディス殿の問いかけにはこんな事情がある。
ヘンリー君が城を経ったその日の翌日からになるのだろうか、ミリアはコウの過ごす部屋に押し掛けてそのまま朝までいるようなのだった。
その室内はコウが鍵をかけているので誰も開けることが叶わず、中でどうしているか、起き出してくるまで一切わからない。
だがふと、目の前のこの人は風と会話が出来ると言うからひょっとして中の様子を知れているんだろうかと思い付く。それゆえの質問か、と。
「ローディス殿は、二人がどう過ごしているのかわかりますか。聞いてるんですか」
「まあねえ。風から聞いた話だとコウは元の姿に戻ってて、それにお嬢さんがくっついて寝ているようだよ」
「……やはり一緒に寝てるんですか」
隣にいるアドからの呆れた目線が痛い。
なんでこう育ったのか、本当にうちの娘は気品や嗜みとか恥じらい等とは程遠い。
他国の幼姫等はもう少し……いや、ああだからのこの今かもしれないと思うと……うむむ、悩ましい。
「ふふ、アドバイスするまでもなくお嬢さんは押しが強い子だったようだねえ」
「アドバイス、ですか?」
ローディス殿が笑んで洩らした言葉に首を傾げる。
「二人がこれからも仲良くいられるようにと思ってね。コウもお嬢さんをそこそこ気にかけているようだから口出しをしてみたのだよ」
ローディス殿は彼と娘が仲良くあることに好意的でいてくれるらしい。
私は思いきって訊ねてみた。
「ローディス殿、例えば、なのですが……。あの子達が結ばれるとかはどうお思いですか?」
「まあコウに決まった相手は居ないからね。無いとは言い切れないよねえ」
「反対は、なさらないんですか」
その答えに些か肩の力が抜けたが、明確な答えが欲しくて再度問いかけてしまう。
「人と番った竜神族の事例は過去にあるからね、反対は今更だと私は思っているよ。……でもそうだね、混血竜神族だと初めての事例になるのか。……何も無ければ良いな」
思案顔でぽつりと呟かれた言葉には、未来を案じるような響きが含まれていたように感じた。
──この時の言葉が、二人がどうなるのではなくその後、その先のことを見据えてのものだったと知るのはまだずっと先の話。