第1話:野兎狩り
モグウルは一族の中で一番の快足だった。
狩りで鹿を狙うとき、一族の他の男たちはみな、岩や草むらなどの物陰に伏せ、息を殺して近づき矢を射放つのだが、モグウルは逃げる鹿に走って追いつき、腕を獲物の首に巻きつけて槍を突き刺した。
モグウルの狩りの姿を目の当たりにした事のある男たちは、彼に畏れと賛嘆の意を込めて囁き合った。
あいつはライオンの子だと。
私はそんなモグウルの唯一無二の親友だった。
モグウルは自尊心の強い男で、女にもてる事もあり、一族の目上の男たちの間ではすこぶる評判が悪かったが、私とモグウルが同じ日に生まれたということもあり、物覚えのつく頃には絶えず二人でつるんで遊んでいた記憶があった。
一〇歳の頃の話だ。
私とモグウルは早く大人の仲間入りがしたいと思っていた。
狩りに連れていってほしいと大人たちにせがんだが聞き入れてはもらえなかった。
私には兄があり、あるとき私は、兄が鹿革を馴らしてつくった石投げ器を勝手に持ち出し、力を持て余していたモグウルを誘い、うさぎを狩りに出かけた。
野うさぎと言えど、二人だけで狩りをするのはこのときが初めてで、私はとても心が高鳴った。
村を出、山道をしばらくゆくと、野うさぎのよくいるちょっとした草地にでる。
私は石投げ器を握っている事で得意な気分になっており、うさぎを探すとき始終モグウルの前を歩いた。
私はうさぎを見つけると後ろのモグウルに目配せして腰をかがめた。
忍び足で草葉の陰から陰へ移動し、足元に落ちていた丸いしなやかな石を拾い上げて石投げ器に仕込んだ。
石投げ器を振り回し、狙いを定めて石を放った。
しかし勢いよく飛び出した石は的をわずかにはずれ、うさぎの鼻先で鈍い音を立てて地面をえぐった。
草を啄ばんでいたうさぎはすばやく首を上げ、草むらに跳びこんで姿を消してしまった。
私はそのあと2度3度同じ失敗を繰り返した。
モグウルは頭の後ろに手を組み、私の後を欠伸をしながらついてきた。
私がうさぎを逃すたびモグウルが嫌味を言うため、苛つきが増していた私はついモグウルを怒鳴りつけてしまった。
するとモグウルは侮蔑の目を私に向け
「つぎは俺がやる」
と言って早足で草むらを分け入って行った。
背丈の高い草むらを掻き分け、音を頼りに先をゆくモグウルを必死で追いかけていると、唐突にモグウルの草を分ける音が消えた。
私は不安に駈られて足を速めた途端、モグウルの固い背中に鼻をぶつけてしまった。
痛みに鼻を押さえていると、程なくモグウルの背中越しに映る一匹の灰色のうさぎに気がついた。
私は黙ったままでいるモグウルの腕先に石投げ器を押し付けた。
しかしモグウルはそれを無視し、うさぎに向かって猛然と走り出した。
足音にいち早く反応したうさぎは手近にあった草むらに飛び込み、モグウルも同じ場所に姿を消した。
草の激しく擦れ合う音が辺りに響きわたり、草むらの屋根が前後左右にへこみを作った。
騒ぎに驚いたらしく、すばしこい栗鼠やのろまなヤマアラシが数匹草むらを跳び出し向こうへ駆けて行った。
うさぎとモグウルが同時に跳びだし、私のほうへ向かってきた。
うさぎは敏捷だった。
うさぎはわたしの両足の間を抜け、モグウルは私を横に突き飛ばした。
私は地面に肩をしたたかに打ち付けたが、モグウルは私に見向きもせずに前かがみでうさぎを追っていた。
右に左に向きを変えるうさぎにモグウルの手は幾度も空を切った。
しかしモグウルの顔に焦りの色は浮かんでいなかった。
うさぎがまたしばらく直線を走り、そしてまたもや右に急激な角度をつけた瞬間、モグウルは側転するような形で、両足を頭より高く上げてひらりと舞って見せた。
モグウルはもんどりうって地面を横に転がった。
私は肩を抑えながら地面に横たわるモグウルの元へ歩み寄った。
声をかけると、モグウルは身動き一つせずに両手を頭上に掲げるような格好でじっとしていた。
その手にはひくひくと痙攣する灰色のうさぎががっしりと捕らえられていた。
モグウルは満面の笑みを浮かべ、逸る動悸をゆっくりと整えていた。
生まれて初めて書いたです〜。
小説書くのってこんなに難しいものだったんですねー。
舐めてかかってましたよ。
もうボロクソ言ってもらって結構なんで、批判とか感想とかください。よろ〜。