評価で追放された補給係、制度では最強でした
訓練場の壁に、今月の評価表が貼り出された。
隊員たちが順に確かめにくる。討伐ポイントの多い順に名前が並び、上から三人には朱の印がつく。今月の上位だ。その下に二十人ほどの名が続き、いちばん下の段に、誰も読まない一行がある。
私の名だ。ウェイン。職種の欄には「兵站」とあり、ポイントの欄には数字がない。代わりに「評価対象外」と小さく書かれている。
毎月そうだった。だから見慣れている。見慣れているはずだった。
ただ、今月だけ、その一行に引っかかった。
評価表には縦に列がある。討伐数。討伐ポイント。負傷率。出動回数。どれも討伐職を測る列だ。兵站の私には、当てはまる列が一つもない。だから私の行は、すべての列が空欄になる。空欄が並んだ先に、欄外として「評価対象外」と書かれる。
つまり私は、表の下にいるのではない。表の外にいる。
そんなことは前から知っていた。知っていたのに、今日になって、別の問いが浮かんだ。
――この表に列がないということは、私の仕事は、どこで測られているのだろう。
手帳を開いた。革表紙の、配属の日から使っている手帳だ。中には隊の出動記録が、私の字で書いてある。先月、隊は討伐依頼を十一件受けた。十一件すべてに、私が組んだ補給計画と、私が取った通行許可と、私が結んだ物資契約がついている。
その十一という数字は、評価表のどこにもない。
手帳を閉じた。考えても列は増えない。私は補給庫へ向かった。出発前の点検が残っている。
───
補給庫は、訓練場から渡り廊下を抜けた先にある。元は支部の余り物を置く部屋だった。私が配属されたとき、台帳もなく、何がどれだけあるのかを把握している者はいなかった。今は違う。棚ごとに番号を振り、消費の記録をつけ、どの依頼で何が減ったかを追えるようにした。
誰に頼まれたわけでもない。やらないと隊が動かないから、やった。それだけだ。
兵站には手順がある。依頼が来ると、まず地図で経路を引く。経路上の関所と区画を調べ、どの通行許可が要るかを洗い出す。許可は申請から発行まで日数がかかるから、出発の何日前に動くかを逆算する。携行食は人数と日数と消耗率から数える。多ければ荷が重く、少なければ現地で切れる。解毒薬と止血の備えは、討伐対象の種類で組み替える。物資は支部出入りの商会と契約して仕入れ、値は交渉する。
隊が依頼地に着いたとき、必要なものが必要なだけ揃っている。それは偶然ではない。私が逆算したからだ。だが逆算は表に出ない。隊員が見るのは、補給庫を素通りして、揃った装備を担いで出ていく朝だけだ。物資は自然に湧いているように見える。湧いてはいない。私が数えている。
棚を確認していると、ノエルが入ってきた。入隊して三月の新人だ。討伐ポイントは低い。評価表の下のほう、私の一つ上の段にいる。
「ウェインさん。明日の分、もう積んでありますよ」
「ありがとう。許可証は?」
「窓口でもらってきました。これです」
差し出された紙を確かめた。北区画の通行許可。発行者の欄に、隊の兵站責任者として私の名が記してある。隊が依頼地へ入るには、この許可がいる。許可を申請できるのは、登録された兵站責任者だけだ。私はそういう登録になっている。配属のとき、誰もやりたがらなかったので、私が引き受けた。
「ノエル」
「はい」
「君、評価表のいちばん下に、私の行があるの、見たことあるか?」
ノエルは少し考えてから言った。
「あります。でも、あれ、変ですよね」
「何が?」
「ウェインさんが許可を取って、補給を組まないと、隊は一件も依頼を受けに行けない。なのに、ウェインさんのポイントはゼロでもなくて、対象外なんです。ゼロなら、まだ表の上にいるのに」
私は手を止めた。
「君、数えてるのか?」
ノエルは帳面を出した。隅に、細かい数字が並んでいた。先月の出動十一件。今月のここまでで七件。すべてに私の名が付いている。
「気持ち悪くて。数が合わないのが」
私は何も言わなかった。同じことを、私も今朝考えていた。だが、考えたところで列は増えない。表は変わらない。それが制度というものだ。
───
その三日後だった。
グレン隊長に呼ばれたのは、訓練場ではなく、隊長室だった。机の上に評価表の写しと、規約の冊子が置いてあった。
「ウェイン。単刀直入に言う」
グレンは討伐隊『鉄環』の隊長だ。剣の腕は本物で、支部の討伐ランキングを三年で上位に押し上げた。私はこの人の指揮を疑ったことがない。数字の上で、この人は正しく強い。
去年の冬、隊が山中で予定外の上位個体と遭遇したことがある。撤退も突破も難しい局面で、グレンは隊を分けず、火力を一点に集めて退路を一つだけこじ開けた。判断は速く、死者は出なかった。指揮官としての腕は、誰が見ても本物だった。
あのとき隊が予定より三日長く山に留まって保ったのは、私が日数に余裕を持たせて携行食を積んでいたからだ。だがそれは報告に残らない。残るのは、グレンが上位個体から隊を生還させたという、討伐側の記録だけだ。私の三日分は、どの列にも入らない。
「お前を隊から外す」
「理由を伺えますか?」
「規約だ」
グレンは冊子を開き、指で叩いた。
――討伐隊規約 第19条(隊員資格)
――隊員は、四半期ごとの討伐貢献度評価において、基準値を満たさなければならない。基準値に満たない隊員は、隊長の判断により隊員資格を停止できる。
「お前の討伐貢献度は0だ。基準値は1,200。三年間、お前のポイントは一度も計上されていない。規約上、俺はお前を外せる。私情じゃない。数字だ」
私情ではない、と彼は言った。その通りだった。彼は感情で私を切るのではない。規約と数字で切る。だから正しく聞こえる。聞いている私にも、正しく聞こえた。
「補給は誰でもできる。お前は運がよかっただけだ。欠員に滑り込んだ。だが隊は討伐で評価される。討伐しない人間に、隊員の枠は割けない」
「俺は私怨でこれを言ってるんじゃない」とグレンは続けた。「隊の枠には限りがある。新しい討伐職を入れたい。お前を残せば、その枠が一つ埋まったままだ。隊を強くするには、討伐できる人間を入れるしかない。これは隊長の責任だ」
筋は通っていた。彼の立場で、彼の見ている表の上では、これ以上ないほど正しい判断だった。隊を討伐ポイントで測るなら、討伐ポイントゼロの私は、枠の無駄でしかない。
「兵站の引き継ぎは、どうしますか?」
「誰かに登録し直させる。お前がやってた書類仕事だろう。新人にでもやらせて、後で支部に届けを出せば済む」
グレンは討伐の条項なら頭に入っている。隊員の評価も、出動の規定も、即座に引ける。三年で隊を上位に押し上げた男だ。規約を知らないわけではない。ただ、兵站責任者の登録だけは、討伐の合間に片づく事務としか見ていなかった。彼が読み込んだのは、自分が指揮する討伐の頁だ。後方支援の頁は、私が引き受けていたから、開く必要がなかった。
そして私もそのとき、彼の認識を疑わなかった。その登録が規約のどこと、どうつながっているのか、私自身、知らなかったからだ。
配属のとき、同じことを言われた。補給は誰でもできる、と。あのときと同じ言葉だった。
「わかりました」
私はそう答えた。ほかに言うことがなかった。不公平だと言ってもよかった。十一件の依頼の話をしてもよかった。だが、それを言ったところで、評価表に兵站の列は生えない。第19条は討伐貢献度しか見ていない。見ていないものについて訴えるのは、時間の無駄だ。
私は隊長室を出た。
そのとき私は、自分がただ職を失ったと思っていた。三年いた隊を、数字の足りなさで追い出された。それだけのことだと。
それが、私の読み違いだった。
───
補給庫を片付けていると、ノエルが来た。
「外されたって、本当ですか?」
「本当だ」
「おかしいですよ。だって――」
「おかしくない。規約通りだ。私の討伐貢献度はゼロで、基準に足りない。隊長は規約を正しく使った。それだけだ」
私は淡々と棚を空にした。私物は少ない。手帳と、台帳の控えと、許可証の控えだけだ。
ノエルは帳面を抱えて、しばらく黙っていた。それから言った。
「でも、わたしの数字は残ります」
「数字?」
「ウェインさんが成立させた依頼の数。先月十一件、今月七件。これ、誰が引き継ぐんですか? 隊長、補給は誰でもできるって言うけど、誰が許可を取るんですか?」
私は手を止めた。
許可。
その単語が、今朝までとは違う重さで耳に入った。
北区画の通行許可。発行を申請できるのは、登録された兵站責任者だけ。私はそう登録されている。
では、私が隊を外れたら、その登録はどうなる。
私は規約を通読したことがなかった。配属のとき、言われるまま書類に署名しただけだ。第19条すら、さっき隊長に見せられて初めてちゃんと読んだ。
規約には、討伐の条項のほかに、別表というものがあったはずだ。署名のとき、めくった気がする。読まなかった。
「ノエル。支部に行く。規約の全文がある」
───
ギルド支部の登録窓口に、規約の正本が置いてある。閲覧を申し出ると、査定官のハーシュが冊子を出してくれた。表紙の擦り切れた、分厚い冊子だった。
別表は、本文の後ろにあった。誰も開いた跡のない頁だった。
――別表2(後方支援に関する登録事項)
――各討伐隊は、兵站責任者を1名、支部に登録しなければならない。兵站責任者は、通行許可の申請、補給契約の締結、後方支援計画の提出を行う権限と義務を有する。
私の名が、そこにあった。『鉄環』の兵站責任者。登録日は三年前。
そして、その下に、私が一度も読まなかった条項があった。
――第6条(討伐依頼の受注要件)
――支部は、別表2に基づく兵站責任者が登録されていない隊に対し、新規の討伐依頼を割り当てない。
私はその一行を、二度読んだ。
「ハーシュさん。これは、どういう意味ですか?」
ハーシュは老眼鏡を上げて、頁を覗き込んだ。
「ああ、それね。兵站責任者がいない隊には、依頼を回せない。当たり前だろう。補給の責任者がいない隊を依頼地に送って、補給が切れて全滅されたら、支部の責任問題になる。だから登録を義務づけてる。古い条項だよ」
「私が、『鉄環』の兵站責任者として登録されています」
「そうだね。三年前から」
「私は今日、『鉄環』を外れました。隊員資格を停止されました」
ハーシュの手が止まった。
「隊員資格を……停止? 誰が?」
「隊長です。第19条で」
ハーシュは眉を寄せて、別の頁をめくった。
――第19条 ただし書き
――隊員資格を停止された者は、別表2に基づく登録職を同時に失う。
「これだ。隊員資格を失うと、兵站責任者の登録も自動で外れる。連動してる。……つまり今、『鉄環』には登録された兵站責任者がいない」
ハーシュは私を見た。それから、第6条の頁をもう一度見た。
「兵站責任者のいない隊には、新規依頼を割り当てない。――『鉄環』は今、依頼を受けられない」
私は三つの条項を頭の中で並べた。第19条は討伐貢献度を測る。私はそこでゼロだった。別表2は兵站責任者を登録させる。私はそこに一人で載っていた。第6条は、その責任者がいない隊から依頼を取り上げる。
三つは別々の頁にあった。討伐の頁、後方支援の頁、受注の頁。隊長は討伐の頁しか読まない。私は後方支援の頁しか読まなかった。受注の頁は、たぶん誰も読まない。三つを一度に読む人間がいなかったから、三つがつながっていることに、誰も気づかなかった。
制度は、つながりを隠していたわけではない。全部書いてあった。ただ、別々の頁に書いてあっただけだ。読む人間が、自分に関係のある頁しか開かなかった。それだけのことだ。
───
私は椅子に座ったまま、しばらく動けなかった。
隊長は、私の討伐貢献度がゼロだから、隊から外した。それは正しかった。第19条は討伐貢献度しか見ていない。基準に満たない隊員を外す権限は、確かに隊長にある。
ただ、第19条のただし書きを、隊長は読んでいなかった。別表2を見たことがなかった。彼は討伐の条項しか読んでいない。私と同じだ。私たちは二人とも、自分に関係のある頁しか読んでこなかった。
彼は私を「外せる人間」として正しく外した。だが、私が「外すと隊が止まる人間」でもあることを、規約は別の頁に書いていた。誰も開かない頁に。
「ハーシュさん。再登録には、どれくらいかかりますか」
「新しい兵站責任者を立てるなら、別表2の登録申請が要る。申請から受理まで、審査が14日。それと――」
ハーシュは規約をめくった。
――別表2 登録要件
――兵站責任者として登録される者は、後方支援実務の経験証明、または支部の兵站資格試験の合格を要する。
「資格がいる。実務経験の証明か、試験の合格。『鉄環』で、それを持ってる隊員は」
「いません」
私は即答した。誰が資格を持っているかは、私がいちばん知っている。三年間、私一人がやってきた。実務経験を証明できるのは私だけだ。試験は年に二回しかなく、次は三月先だ。
「じゃあ『鉄環』は、最短でも、外から有資格者を引っぱってきて、審査14日を待たないと、一件も依頼を受けられない」
ハーシュはため息をついた。
「隊長は、それを知らずにあんたを外したのか」
「知らなかったと思います。私も、今日まで知りませんでした」
ハーシュは冊子を閉じた。
「無理もない。兵站責任者を切る隊なんて、聞いたことがない。どの隊も、補給の要だけは手放さない。手放したら動けなくなると、体で知ってるからだ。だからこの連動が実際に起きたことは、今まで一度もない。条文には書いてある。書いてあるが、起きたことのない事態を、わざわざ先回りして読む人間はいない。あんたの隊長が特別に怠けてたわけじゃない。誰も読まない頁を、誰も読まなかった。それだけだ」
その日の夕方、ノエルが私の下宿に来た。帳面を抱えていた。
「隊が、変なんです」
「何が?」
「今朝、新しい討伐依頼が支部から『鉄環』に来るはずだったのに、来なかったんです。隊長が問い合わせたら、割り当てを保留している、と。理由は説明されなかったそうです。隊はずっと訓練場で待機してます」
私は黙って聞いた。第6条が動き始めている。兵站責任者のいない隊に、支部は新規の依頼を割り当てない。『鉄環』は今、依頼を受けられない隊になっている。
「みんな、気づいてないんです」とノエルは言った。「ウェインさんを外したことと、依頼が止まったことが、つながってるって。討伐ポイントの低い補給係を一人外しただけで、隊が動けなくなるなんて、誰も結びつけてない」
「結びつかないよ。別表2を読んでいないからだ。私も、昨日まで読んでいなかった」
ノエルは少し迷ってから聞いた。
「ウェインさんは、これからどうするんですか?」
「自分の名義を、自分のものに戻す」
ノエルは意味がわからない顔をした。私もまだ、うまく説明できなかった。ただ、一つだけ決めていた。『鉄環』の兵站責任者には戻らない。戻れば、また同じ表の下に戻るだけだ。
ノエルが帰ったあと、私は窓の外を見た。明日、グレンが気づく。気づけば、彼はここに来る。感情ではなく、計算で。彼はそういう男だ。
───
翌朝、グレンが支部に来た。
窓口の前に、私はいた。自分の登録を別の形で立て直すために来ていた。『鉄環』の兵站責任者ではなくなった私は、もう一度、今度は独立した後方支援者として支部に登録し直すつもりだった。私の実務経験は、私個人のものだ。隊を外れても消えない。
グレンは私を見て、足を止めた。それから、窓口のハーシュに言った。
「『鉄環』の依頼割り当てが止まっていると、通達が来た。何かの手違いだろう。すぐ直してくれ」
「手違いじゃない」とハーシュは言った。「規約通りだ。兵站責任者が登録されていない隊には、依頼を回せない。第6条」
「兵站責任者?」
「あんたが昨日外した男だよ」
グレンは私を見た。私は何も言わなかった。
「替えはすぐ立つはずだ。誰かを兵站責任者に登録し直せばいい。届けを出すだけの話だろう。補給の事務なんて――」
「届けを出すだけ、ねえ」とハーシュが遮った。「なら聞くが、なぜ三年間、『鉄環』では兵站責任者が一人しかいなかった。届けを出すだけの簡単な仕事なら、何人も登録していたはずだ。いなかった。登録には資格がいるからだ。後方支援の実務経験か、兵站資格試験の合格。あんたの隊で、それを持っているのは、昨日あんたが外した男だけだ」
グレンは規約を出させた。別表2と、第19条のただし書きと、第6条を読んだ。読む時間は、長くなかった。彼は頭の悪い男ではない。三つの条項が連動していることを、すぐに理解した。
理解した上で、彼は私のほうを向いた。
「ウェイン。戻れ。登録だけでいい。隊員に戻せとは言わない。兵站責任者の登録だけ、やり直してくれればいい」
それは、彼にできる最も合理的な提案だった。私を隊員として認める必要はない。評価表に列を作る必要もない。ただ登録名義だけ戻せば、依頼は流れ出す。彼は数字を計算していた。隊を止めないための、最小のコストを。
私は少し考えた。
「断ります」
「なぜだ?」
「私が『鉄環』の兵站責任者に戻れば、また第19条のただし書きが私に効きます。隊員でない私を、隊の登録職には就けられない。別表2の登録職は、隊員資格とつながっています。私を兵站責任者にするには、私を隊員に戻すしかない。隊員に戻せば、四半期ごとに私の討伐貢献度がゼロで査定され、また基準に足りず、また外される。同じことの繰り返しです」
グレンはすぐには引かなかった。
「なら、別の人間に資格を取らせる」
「試験は年に二回。次は三月先です」とハーシュが言った。「実務経験の証明なら、後方支援の実績が一年分要る。『鉄環』には、その実績を持つ隊員はいない。ウェイン一人がやってきたからだ」
「一年……」
「その一年も、依頼を受けながらでないと積めません。だが依頼は、兵站責任者がいないと受けられない。受けるために必要な実績が、受けないと積めない。『鉄環』は今、その輪の外にいる」
グレンは黙った。
「それに」と私は続けた。「私はもう、別の登録をします。独立した後方支援者として。『鉄環』専属ではなく、支部に直接登録して、依頼ごとに隊と契約する形です。私の実務経験は私のものだ。隊を外れても消えない。私は私が測られる場所に、自分を登録し直すだけです」
───
ハーシュが手続きの書類を出した。私は署名した。今度は別表2ではなく、支部直属の後方支援者名簿に。私の名が、隊の欄外ではなく、支部の名簿の一行に記された。
その一行には、列があった。担当依頼数。成立件数。契約実績。私の仕事を測る列が、ちゃんとあった。
三年間、なかった列だ。
「『鉄環』は、どうなりますか?」とノエルが小声で聞いた。いつのまにか支部まで付いてきていた。
「有資格者を外から雇って、審査14日を待つ。それまで依頼は受けられない。あるいは」と私はグレンを見た。「独立した後方支援者と、依頼ごとに契約する。たとえば私と。ただしその場合、私は『鉄環』の隊員ではなく、対等な契約相手です。補給は誰でもできる雑務ではなく、依頼を成立させる条件として、契約書に値段がつく」
「値段……」グレンが低く言った。
「これまで私の補給は、隊の経費に立っていませんでした。私の働きは討伐貢献度で測られ、ゼロと記録されていた。タダだったんです。これからは違う。依頼一件ごとに、経路設計と許可申請と物資契約に、料金を請求します。『鉄環』がそれを高いと思うなら、ほかの後方支援者を探せばいい。ただ、有資格者は支部に多くない。私が三年、一人で回せていた理由が、それです」
それは脅しではなかった。事実の確認だった。私は感情で言っていない。需要と供給の話をしていた。測られていなかったものに、市場が値をつける。それだけのことだ。
グレンは長いこと黙っていた。怒りではなかった。屈辱でもなかった。彼は計算していた。彼はそういう男だ。数字で正しく動く。だからこそ、今、自分の数字が変わったことを理解していた。
「……契約の話は、隊に持ち帰る」
彼はそれだけ言って、支部を出ていった。背中はまっすぐだった。彼は弱くなったわけではない。剣の腕も、指揮の才も、昨日のままだ。討伐ランキングでは、まだ上位にいるだろう。
ただ、彼が三年間ゼロだと思っていた数字が、ゼロではなかった。それだけのことだ。
───
窓口に、私とノエルとハーシュが残った。
「これで、評価表は変わりますかね?」とノエルが言った。「兵站の列、できますか?」
ハーシュは首を振った。
「変わらないよ。評価表は討伐隊の士気を上げるためのものだ。討伐ポイントを競わせる。兵站の列なんか作ったら、討伐の数字がぼやける。本部はそんなことはしない。今回だって、本部がやるのは、止まった隊に有資格者を登録させて、依頼を流すことだけだ。規約は直さない。表も直さない。次に同じことが起きるまで、誰も別表2を開かない」
「じゃあ、また同じことが?」
「起きるだろうね。別のどこかの隊で。補給係を一人外して、依頼が止まって、慌てる。そのたびに登録し直すだけだ。制度ってのは、そういうふうにできてる。穴があっても、穴のまま使う。塞ぐより、そのつど繕うほうが安いからだ」
ハーシュは登録の控えを私に渡した。
「ただ、需要はこっちに動く。さっき東の隊から問い合わせが来た。来月の遠征の後方支援者を探してるとさ。『鉄環』の話は、もう支部じゅうに広まってる。兵站責任者を一人外したら隊が止まった、とね。みんな急に、自分の隊の別表2を確かめ始めた」
「確かめて、列を作りますか?」
「作らない。確かめて、ああ大事だったのか、と思って、また閉じる。そして外から有資格者を雇う。表は変わらない。変わるのは、誰に金が払われるかだけだ」
私は控えをしまった。
私はそれを聞いて、少しだけ納得した。
私は制度を変えたわけではない。評価表に列を作らせたわけでもない。『鉄環』の体質を直したわけでもない。グレンは強いままだし、本部は何も学ばない。別表2は、また誰にも読まれずに閉じられる。
私がやったのは、一つだけだ。
測られていなかった私の仕事を、測られる場所に移した。それだけだ。
評価表の下の、空欄が並んだ私の行は、もう私のものではない。あれは『鉄環』の表で、私は『鉄環』を出た。支部の名簿に移った私の行には、空欄がない。すべての列に、数字が入る。
手帳を開いた。先月十一件、今月七件。その数字に、初めて値段がつく場所に来た。
「ノエル」
「はい」
「君も、いずれ討伐貢献度で外されるかもしれない。新人で、ポイントが低いから」
ノエルは少しうつむいた。
「そのとき、君が何で測られたいかを、先に決めておけ。隊の表で測られるのを待つな。表の列は、誰かが士気のために決めたものだ。君の仕事に合った列がないなら、列のある場所を探せ。なければ、君が数えておけ。君は数えるのが得意だ」
ノエルは帳面を見た。隅に並んだ数字を。
「ウェインさんは、悔しくないんですか?」とノエルが聞いた。「あんなに長くいたのに。誰にも気づかれなくて」
「悔しいと言ったら、評価表に列が増えるか?」
「……増えません」
「なら、悔しがるのは後でいい。先にやることがある。私は自分の値が載る場所を見つけた。悔しさは、それを邪魔しない範囲で、勝手に持っておく」
ノエルは少し笑った。それから、まじめな顔に戻って、頷いた。
私は支部を出た。
外は晴れていた。訓練場のほうから、討伐隊の朝の号令が聞こえた。『鉄環』のものかもしれないし、別の隊のものかもしれない。どちらでもよかった。私はもう、あの号令で動く側ではない。
評価表に私の列はない。
だから私は、列のある表に移った。
ただ、それだけのことだ。
(了)




