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第3章 鎖
―ユウが目の前から消えた。
「……消えた? そんな能力、聞いてない……」
ノアは息を詰めたまま、ヴァレリオの方を振り向く。
ヴァレリオは静かに立ち上がり、ノアへ歩み寄った。
そしてノアの顎を指で持ち上げる。
「……奴が今、私の手にいない。つまり
——お前は任務を達成できなかった。」
声は恐ろしいほど穏やかだった。
だが冷たい指先だけが、本当の怒りを物語っていた。
ノアが答えるより早く背中が壁にぶつかり、逃げ場が無くなる。
「ねぇ、ノア。君は優秀だよ。だから期待してる。」
微笑んだまま、ヴァレリオは一度だけノアの腹に蹴りを入れた。
呼吸が途切れ、声が出ない。
「次はない。」
耳元で囁き、ヴァレリオはノアを解放した。
崩れ落ちる視界の中で、
ノアはユウの黒髪から見えた灰色の瞳を思い出す。
(……あの人なら、もしかして)




