最愛の恋人が塩対応だったので
この作品は「美貌の恋人が浮気していたので」の続編です。
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美貌の恋人が浮気していたので
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「ゾーイ、好きだよ」
「私もよ」
「愛してる」
「私も愛してるわ」
「ほんとに思ってる?」
「えぇ、勿論よ。…そろそろ時間だから戻るわ」
繋がれていた手があっさりと離される。
「昨日も言ったけど、今日は早く上がるから迎えはいいわよ」
「はーい」
じゃあね、と言って去っていくゾーイの後ろ姿を見ながら、テオドールは深い溜め息をついた。
最近どうにもゾーイが冷たいのだ。
前より愛を伝えてくれるようにはなったが、時々ゾーイとの温度差を感じる。
「惚れた弱みって言われたらそれまでなんだけど」
初めてゾーイに会った時は美人だな、と思っただけでそれ以上の感情はなかった。
次に見かけた時、彼女は第二騎士団のハリー・テラー様と話していた。
テラー様が何か言ったのに対してゾーイが笑った。
その時の笑顔があまりにも可愛くて目が離せなかった。
その日からゾーイを見つけては密かに目で追っていた。
あの愛らしい笑顔をもう一度みたい。
あわよくば、その相手が俺であったなら。
想いを自覚してからはとにかくゾーイの元に通い続けた。
ゾーイの同僚の人たちに至っては、俺の顔を見ると彼女を呼んでくれることまでしてくれていた。
最終的にゾーイは俺の熱意に折れる形で受け入れてくれた。
「私、貴方より三歳も年上なのよ?きっとすぐに目移りしてしまうわ」
「絶対にしません。俺はずっとゾーイさんだけのものです」
「…そこまで言うなら、いいわよ。付き合いましょう」
そう言って笑うゾーイの笑顔があまりに愛おしくて口づけようとしたら頬を叩かれたのは今となってはいい思い出だ。
「「はぁ」」
溜め息が隣から同時に聞こえて隣を見た。
「テラー様」
「お前は…」
ハリーに存在を認知されていたことに驚く。
彼は他人に興味を示さないことで有名だったから。
「王国一モテる男」
「違います。ゾーイが世界で一番愛してる恋人です」
「そうなのか」
そう言うとハリーが再び溜め息をついた。
「なぁ、ゾーイの恋人よ。最近婚約者が俺とのデートより幸せそうな顔で頻繁にどこかへ出かけているようなんだが、これって浮気だと思うか」
「その事実を知っていて何故本人に聞かないんですか?」
「簡単に言うなら、嫌われるのが怖い」
「あぁ、まぁ、その気持ちは痛いほどよく分かります」
ハリーの部下が呼びに来るまで、俺たちは婚約者の愛おしさについて語り尽くした。
「またな、テオドール」
「えぇ、また」
「ゾーイ、早く行きましょうよ」
「ちょっと、そんなに急かさないでよ」
「だってこれから新たに始めるのよ?わくわくしない?」
「私はわくわくっていうより、テオドールたちにバレないかのハラハラの方が大きいわ」
テオドールが庭で魔法の実験をしている時。
聞こえてきた会話に思わず作業をしていた手が止まった。
「そのスリルまで含めて楽しいんじゃない」
「まぁ、それもそうね」
新たに始める、恋人にバレないかハラハラ、スリルまで含めて楽しむ…。
これってつまり浮気ではないだろうか。
ぼわっ
目の前で生み出していた火の玉が大きくなり、飼料が燃える。
「あー!何やってんだよお前!」
先輩の魔導師が慌てて処理に当たるが、その光景がどこか遠くに見える。
周りの音も遠く感じる。
「テオ」
数日ぶりに聞く声に心臓の鼓動が早くなる。
「テオ?どうかした?」
心配そうに顔を覗き込んでくるゾーイの顔を見て、顔に熱が集まる。
「別になんでもない。それで、どうしたの?」
なんとか冷静を装って尋ねる。
「あのね、今日も私は早めに帰るんだけど。…夕方、仕事が終わったら私の家に来てくれない?」
ゾーイの言葉に思わず息を飲んだ。
ついに別れを切り出されるのだろうか。
「分かった」
「今日あまり元気ないんじゃない?無理しなくてもいいのよ?」
ずるいな、と思う。
でもそんな優しいところも含めて好きなんだ。
「本当に大丈夫だよ」
ゾーイを安心させる為に笑顔をつくる。
しかし、やはり彼女に嘘は通用しないらしい。
こちらを気にかけるゾーイの姿に、さらに鼓動が早まった。
覚悟を決めて向かったゾーイの実家であるサットン子爵邸の玄関前にはハリーもいた。
「ハリー様、どうしてここに?」
「我が愛しの婚約者に呼ばれたんだ」
「「おかえりなさいませ」」
求めていた声が聞こえてそちらを向くと、そこには美しく着飾った二人の女性がいた。
当然、テオドールの目はゾーイに、ハリーの目はアンナに釘付けになる。
ゾーイは紫色のマーメイドラインのドレスを、アンナは漆黒のAラインのドレスを身に纏っている。
両方それぞれのドレスが婚約者の瞳の色に合わせてあるのだ。
「なんと美しい。我が麗しの婚約者にかかれば、黒でさえもとても華やかな色に見えるのだな」
「そういうのは自分の顔を隠してから言いなさいよ。私を含むそこら辺の女性より綺麗な肌と顔面しておいて、ほんと憎らしいことこの上ないわ」
「例え君が明日世界で一番醜い顔になったとしても、君だけを生涯愛し抜くと誓うよ」
ハリーはアンナの手を取り、指先に口づけを落とした。
さりげなくゾーイを見ると、目が合った。
「…ゾーイ」
「テオ、このドレスどうかしら?アンナに選んでもらったんだけど」
「すごく可愛いと思う。…うん」
「それなら良かったわ。夕飯を用意しているから、そちらへ移動しましょう」
ゾーイにそっと手を添えられる。
その手は泣きたくなるくらい温かかった。
「私たち、貴方たちの浮気を決めつけてしまっていたから、そのお詫びをしたくて」
「どうせやるならサプライズにしようっていうアンナの提案に私が乗って」
夕食を食べながら、今回の件についての説明を受けた。
その時、自分の中の大きな誤解に気づいた。
気づいた瞬間、ゾーイに抱きついて怪訝な目で見られてしまった。
「愛してるよ」
「ちょっと、テオ、人前だから」
「ゾーイ。この俺の従兄弟なくせに何を恥じているのか」
「ハリーは黙ってて」
そんな一幕もあったりして。
ハリーとアンナを見送ったあと、ゾーイとテオドールだけが残った。
「そのドレス、露出が多すぎない?」
「さっきはすごく可愛いって言ってたじゃない」
「確かに言ったけど。…夜会とかではそのドレス禁止ね」
「えー。割と気に入ってるのに」
「ゾーイは俺の前でだけ可愛ければいいと思う」
ゾーイが浮気をしていないとわかった瞬間、テオドールの中の何かが弾けた。
ゾーイを堪能したい。独占したい。
そんな思いがどんどん溢れてくる。
「早く結婚したい」
テオドールの切実な願いを聞いて、ゾーイは彼の首の後ろに手を回した。
「半年後なんてどう?早すぎるかしら」
ゾーイからの返事を始めてもらい、テオドールは思わずフリーズしてしまった。
そのまましばらく虚空を見つめていたかと思うと、赤面した顔でゾーイに向き合う。
「半年後で宜しくお願いします」
「こちらこそ宜しくお願いします。…旦那様」
珍しく僅かに頬を染めながらゾーイが言う。
「一生を懸けて幸せにするよ」
そう言うとテオドールは最愛の恋人に優しく口づけた。
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