ビースト・トラック/獣の轍
もはや無人の荒野。戦車一両程もある蹄跡の間に、拳を固めて立つ。
やがてサイレンの如きいななきが響き、四脚の鉄の山が走ってきた。その巨躯で大地を震わせながら。
要塞鉄牛。敵軍の生み出した最強の兵器生物へ、せめて一矢報いる。それを最期の任務としよう。すでに勝敗は決したと聞くが、知ったことか。死ぬまで、俺の負けじゃない。
息を整え、構えると――数百メートル吹っ飛ばされた。
鉄牛のせいではない。砕けた歯を吐き捨てると、至近に敵兵がいた。こいつの蹴りか。敵兵は、すまし顔で言いやがる。
「命を捨てるな。戦に負けたからとて、人生まで負けに行くことはなかろう」
「うるせえ。お前らのせいで……!」
振るった拳は、空を切った。
敵兵はすでに彼方だ。脚力強化型か。
「悔しければついてこい」
「ナメやがって……!」
頭からヤカンのように湯気が立ち、全身を熱い血が駆け巡る感覚。強化心臓の機構がいつになく激しく駆動する。
あいつのタグには「ロン」と見えた。覚えたぞ。最期の任務は後回しだ。その前にやることができた。ロンのすかした顔面に拳を叩き込み、歯を折らねばならない。
遠くで鉄牛がいななく。その声は、忌まわしくも生命力に満ちていた。