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エピローグ

これは、世界を救った者達の物語である。


初夏


「あちぃ。やる気がおきねぇ〜。」

「そこ!しっかりしろ。」

「先生!数学の授業やめてプールの授業にしましょう!」

「残念だったな。今は、隣のクラスがプール授業だから使えん。わかったら、静かに授業を受けなさい。」

「「え〜〜。」」


そんなやりとりを教師と生徒が繰り広げられる中、教室の窓からグラウンドを見下ろす。グラウンドでは、熱心にサッカーをしている者と木陰で涼んでいる生徒が目に入る。夏が始まったばかりだというのに、ここ数日間記録的猛暑が続いていて、皆気が狂いそうになる。


「……。はぁ。」


クーラーが効いた部屋でゴロゴロしたいなぁ。


そんな事を思っていると、背中を叩かれる。


後ろを振り返ろうとすると、横から腕が伸びてきて折り畳まれた一枚の紙を渡される。受け取って中を確認すると『放課後暇な人リスト』なる物が、回ってきた。


……またか。


手元には、このクラス全員の名前が記載されており、名前の横にはレ点を記入する枠があった。既に何名かは回答済みで、大半が参加にチェックを入れていた。


今日も出席率高いなぁ。


親睦を深める為に始まった『放課後暇な人リスト』は、入学してから2年の今頃まで続いているイベントで、このクラスのみ行っている。今日は、学校の近くにある駄菓子屋で集まる予定みたいだ。


高校生がたむろする所か?……。不参加でいいや。


握っていたベンを、不参加の枠にペン先を落とすと小刻みに揺れる。


「ん?」


その揺れが次第に大きくなる。


「地震?」

「ちょっと。大きくない?」


教室がざわつき始める。


「全員机の下に潜って!」


揺れが大きくなっているのに気づいた教師は、すぐに指示を出す。避難経路確保の為、廊下に繋がるドアを開ける。校内放送が聞き取れる様に、スピーカーの音量を最大にしておく。避難訓練を受けたばかりなのもあり、動きはスムーズに行われた。ただ、訓練とは違い動揺している生徒も数名見られた。


「皆、落ち着いてな。訓練通り行動すれば大丈夫だ。時間が経てば揺れは収まる。この後の放送を聞き逃すなよ!」


教師はドアの横に立ちながら言い放つ。時より廊下を覗き、他の教師と連絡を取り合っている。


そんな時だった。地鳴りが遠くから響いてきた。地鳴りが耳に届くと徐々に、揺れがより激しくなり女子達の悲鳴が響いた。窓ガラスが激しく揺れ、壁に掛けていた物が落ちて割れたりする。その数秒後、体が沈み天井が近くまで迫ってきた。


「……え?」


轟音と同時に、目の前が暗くなり強烈な痛みを伴いながら意識が飛んだ。


あれからどれくらいの時間が、経ったのかわからないが、自分達はとある広場に集まっていた。見渡せば曇り一つない青空に、青々とした芝生が一面広がっており、どこか違和感を覚える空間だった。集まっている人々をみれば、学校関係者や、その他大勢の人間が整列された状況であった。

皆、そこから一歩も動かず近くの人と話し合って状況整理を行っていた。中にはただ騒いでる者もいたが、許容できる範囲だ。


「ちょっと。目の前でキョロキョロしないでくれる?」

「…芹沢。なんで、俺の後ろにいるんだ?」

「知らないわよ。私も気がついたら、ここにいたんだから。」


自分の真後ろに立っていたのは、同じクラスの芹沢鴨だった。長い黒髪を、左肩へ流すようにサイドテールで束ねいる女生徒で、漫画でよくある名家のお嬢様で、成績優秀、端正な顔立ちと真っ直ぐな性格な事もあり、男女からモテる最強女王だ。そんな奴が一般高校に在籍している為、1人別格の存在である。2年生に昇級すると、教師や周囲の生徒の推薦により、前例にない2年生で生徒副会長になった。


「じゃあ、ここは天国かもな。漫画とかであるだろ?気がついたら異世界にいました〜とか。」

「……。否定はできないわね。」

「いや、そこは否定しろよ。現実的にありえんだろ。」

「あら、そうかしら。だって、"普通"じゃないでしょ?ここ。」

「「………。」」


再び周囲を見た後、視線を交わしお互い変な汗が吹き出る。


「「いやいやいや。」」

「こんな状況でも、お前ら夫婦漫才してるの?」

「夫婦ではありません!」

「そうだぞ。金ちゃん。失礼な事を言うな。」

「お前ら、結構お似合いだぞ。」


右斜め後ろに並んでいたのは、金ちゃんこと金堂一心だった。こいつとは小学校から一緒で、気も合うことから自然と仲良くなり土日も一緒にいる事が多い。


「貴方はいつも適当な言葉を並べますわね。」

「え〜、そんな事ないやろ〜。けど、…不思議な空間だよな〜。シャボン玉もいっぱい浮かんでるし。」

「は?」

「え?」


俺と芹沢は驚く。俺らの見ている風景には、シャボン玉は浮いていない。それに近い物さえ。


「え?……これシャボン玉でしょ?」


金堂は、手の平を上にして何かを乗せる様にしてはいるが、俺らには何が何だかわからない。そんなやりとりをしていると、聞き慣れない男性の声が耳に届く。


「へぇ〜。君、見えるのか。珍しいね。」

「「「⁉︎」」」


突然真横に現れたおっさんに驚き身構える。


「そう固くならないでくれたまえ。名は、金堂一心16才か…若いね〜。寺院の息子か。なるほどなるほど。それなら合点がいくかな。」

「金堂君の事、どこで知ったかわからないけど、初対面の人に対して失礼ではなくて?」

「おっと。これはこれは、お嬢さん失礼しました。どうも、変わった物を見ると、好奇心が勝ってしまって、ついつい忘れがちになってしまうのは私の悪い癖でしてね。申し訳ない。私の名は六道。少しの間ですが、よろしく。」


白いスーツに白のハット帽子とマフラー。白を基調とした服装を身に纏った様子は、どこか神々しかった。胡散臭さは強いが、今は紳士的な立ち居振る舞いをして服装に合う人格になる。


「そう。好奇心があるのは良いけど、好奇心は猫をも殺すと言うわ。ほどほどにしておきなさい。私は芹沢鴨。こっちが、伊藤一心と金堂一心。2人名前が同じだから、苗字で呼んだ方がいいわよ。」

「そうですか。忠告感謝します。ただ、もうその苗字や名前も意味がないですけどね。」


六道は、帽子をとり感謝をのべて、つばを治しながら話しを続けた。


「…どういう事かしら?」

「それはだね。」

「六道様。後がつかえております。早急に対応していただかないと困ります。」

「「「!?」」」


六道と同じく突然現れたのは、メイド服を着用した見目麗しい女性だった。


「はぁ。僕を過労死させる気かい?」

「………。」

「わかったよ。君にではなく閻魔に、直接言うことにするよ。それじゃ、またね。」

「あっ。まだ質問の返答を」

「失礼します。」


その場から離れようとする六道を追うように、動こうとした芹沢を止める為、メイドは軽々と芹沢の腰を掴み持ち上げる。


「ちょっ!?どこ触ってるのよ⁉︎」

「変な箇所には、指一本触れていませんのでご安心ください。それと、ご質問に関してですが、これから全体に、ご説明致しますので大丈夫です。」

「わ、わかったわよ。早く下ろしていただけるかしら。」

「はい。」


メイドは素直に、芹沢を下ろすと金堂の正面に姿勢良く立つ。


「割らないようお気おつけ下さい。今、貴方が見ているのは、亡くなった方々の魂でございます。」

「「「⁉︎」」」


今、聞き捨てならない言葉を耳にしたんだが。


メイドの衝撃発言直後、六道の声が響き渡る。


「はーい。皆さん注目してくださーい。」


全員の視線が、六道へと向けられる。


「え〜、コホン。皆さん、長旅お疲れ様でした。」


六道の言葉に全員が、ピンときていない様子だった。かく言う自分も、心当たりがなく言葉の意味を考える。


「ま〜、そうなりますよね。1から説明させていただきますね。結論を先に述べますと、貴方方が亡くなってから60日経ちました。」


六道の言葉に大半が動揺し、静まりかえっていたのが嘘の様に、騒ぎ始める。


そりゃ、そうだ。誰だってそうなる。


六道は騒がしいのを気に求めず口を動かす。


「この場にいる者達は、共通の自然災害で亡くなりました。地震による地盤沈下による圧縮死。今回は同時刻・同災害の為、まとめて転生を行います。あっ、ちなみにこの場にいる者は、十王の裁判により、善行が多い者達ですのでご安心下さい。悪行を重ねた罪人は、転生の権利なしと判決で地獄行きになりました。ということで、おめでとう御座います。貴方方は、地獄以外の5道の転生することが許されました。よかったですね〜。」


パチパチと拍手をすると、いつの間にか現れていたメイド達も祝福の拍手を送ってきた。この異様な光景に、困惑する。


「さて、5道に関して説明しますね。

1.餓鬼界:飲食のない飢えに苦しむ世界。

2.畜生界:人間以外の生物弱肉強食の世界。

3.修羅界:争いが絶えない荒れた世界。

4.人間界:君達がいた世界。

5.天上界:他の世界より幸福と試練がある世界。

以上の世界から選んでもらう。と言っても、大半が人間界を望んでしまって、世界のバランスが崩れてしまってるから、人間界に送り出せるのは少数になってしまう。よく考えて選択するようにね。」


〜30分後〜


「ねぇ、いつまで君達いるの?皆行っちゃったよ。」

「……。本当に、このやり方で合ってるのか?」

「そうだよ。本来ならそれでいいはずなんだよね〜。それなのに、今回に限って6人も残るとは困ったものだよ。」


俺達は、坐禅を組んで目を瞑り瞑想をしながら、行きたい世界を思い浮かべると転生できると言われて、かれこれ30分経ったが何一つ進展していない。


「質問していいかしら。」

「何だい?」

「自分達の意思で、転生できなかった場合はどうなるのかしら?」

「2択かな。僕が転生先を決める。か、ここで働くかのどちらかなんだけど、今は手が足りているから今回は前途の方だね。」

「そう。なら、六道さんが決めてくれるかしら。この感じだと、時間の無駄でしかありませんもの。」

「ほぅ。」


六道の見る目が気に食わなかったのか、芹沢は冷たく言い放つ。


「何よ。」

「意外だったよ。こういう時に、他人に任せるのは君らしくなかったものでね。」

「会ったばかりの貴方に、私を語ってほしくないわね。どの世界に転生しようが、やる事は変わりませんもの。」

「なるほど。そういうことでしたか。お嬢さんは芯のある人でしたか。…さて、他の5人はどうしますか?」


5人の視線は、互いにどうしようかで交わされる。渋々、六道に委ねる事を了承していく。


「君は、どうするかね?」

「…。それしかないなら、それでいいや。任せます。」

「わかりました。では、こうしましょう!ちょうど、6人いますので六道の名の下に、各世界に1人ずつ転生させてあげます。」

「「「「「「⁉︎」」」」」」

「ちょっと待て!6つの世界じゃ、地獄も含まれるだろ!」

「えぇ。まぁ、それも一興でしょう。」

「六道様を勘違いなさっているようですね。」


全員の視線が、六道からメイドへと移る。


「神とは、自由でありながら、悪行であっても許される存在です。気まぐれで、他人の運命を捻じ曲げて遊んでも、神の行動を裁く事はできないのです。」


そう語るメイドの瞳と雰囲気からは、哀愁を感じさせる。


彼女も六道の被害者なのか?


そんな事を考えている間に、徐々に足から透け始めている。ここに留まれる時間は、残されていないようだ。


「!?」

「伊藤君だったかな?」

「…そうだけど。」


六道の顔が、目と鼻の先まで顔を近づけて覗くように見つめてくる。まるで、心の奥底まで見透かされているかのようだった。


「君からは、何も感じなかったよ。」

「は?」

「中身がない空っぽの存在だ。そんな君には、天上界に転生してもらうよ。」

「……。」

「人として、いや、生物として意味のある生き方をするといい。あそこは、試練だらけだからね。君には、ちょうどいい世界だ。」

「六道さん。あんたを恨むのは、筋違いだとは思うけど、人を弄ぶのは気に入らない。」

「で?」

「神を裁く者がいないなら、俺が裁くよ。命を弄ぶ者は、神であろうと許さない。」

「………。ふっ。ハハ。ハッハハー。いい目をするようになったじゃないか。どうやら私は、君の逆鱗に触れたらしい。もしくは、トラウマでも思い出したかい?」

「ツッ⁉︎」

「無駄だ。」


掴みかかろうと、襟に手を伸ばしたが、六道の体を貫通して掴むことはなかった。体の透明化が進行速度が早く、上半身の一部しかこの世に留まっていない。周りを見渡せば、すでに友人達の姿はなく、俺と六道とメイド達しかいない。


「六道ーーーー!!」


名を叫ぶと、六道はニヤリと悪い笑みを浮かべる。


「………。楽しみにしてるよ。再び会える事を、()()()

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