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え、あ、はい、ワームですよ?  作者: 素知らぬ語り部
はじまり
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4、進むことのみ






 あれから三日が経った。

 カラスは巣作りを終えたらしく、岩場の天辺から動かない。

 俺が狩りをしているときも全く動かなかったため、かなり不気味だった。


 生物は相変わらず足音を響かせないが、その代わりか、聞いたことのない足音が聞こえ始めた。

 なんというか、砂を連続で叩いているような足音だ。

 カラスがいるにもかかわらず活動はやめず、それどころか増えていっている気がする。

 かなり怪しいため、俺はこの足音の主は襲っていない。




 そして、俺がサンドワームとして目覚めてから十日目。また身体がかゆくなり始めた。

 そこまでかゆくはなかったが、ずっと気にするのも嫌なので、寝床でゴロゴロして皮膚をボロボロにし、ズルズルと這って皮膚を剥がした。

 変化は、もう始まっていた。


 光が、見えていた。

 いや、サンドワームは目が退化しているものの、明暗自体は分かっていた。

 違うのは、その光に色がついていたことだ。

 おそるおそる、光の先である寝床の出口へ這う。


 外はかなり眩しかった。

 陽の光が砂に反射して黄金色に輝いており、それに空の蒼さが際立っていた。

 岩場は白よりの灰色で、暑すぎる陽光を効率的に反射していた。


 十日だ。たったの十日、たった二回の脱皮だけで、目が見えるようになっていた。

 これで分かった。脱皮は成長ではない。いや、成長の意味も兼ねているのだろうが、最たる意味はおそらく『進化』だ。

 ステータスを閲覧できたときに少し察していたが、この世界はゲームのように魔物の進化がある。


 だが、なぜこんなに進化の間隔が短いのかという問いが出てくる。

 しかし、そもそもサンドワームは待ち伏せ型の生物のはずだ。

 つまり、進化に必要な『経験値』が少なく設定されているのだろう。

 俺のようにアグレッシブに活動しないし、毎日獲物にありつけているのは完全にイレギュラーだ。

 だから、こんなにも進化が早い。

 ちなみに、目は顎に一つずつ、計四つだ。だからなのか、人間のときよりかなりはっきりと見える。

 あと、目の進化で目立たなかったが、突起がちょっと長くなっていたし、身体も少し大きくなっていた。


 ぼうっと外の景色を眺める。

 太陽が頂点に上り、傾き、沈んでいく。

 空もそれに合わせて蒼から青、藍になり、紫から黒へ変わっていった。

 暗い空に小さな輝きがいくつも出始めたときに、やっと我に返った。


 太陽が二つだったり、月の形が抉れていたりすることなく元の世界と全く一緒だったが、それでもここが異世界で、こんなにも美しいものだと分かった。




 翌日、今日は少し遅れて昼くらいに起きた。

 丸一日何も食べていなかったので、空腹で寝床から這い出た。

 そして、あの砂を叩くような足音の主を見つけた。

 それは風船のような丸い身体で、砂漠には合わない毒々しい紫の体色だった。風船下部には無数の虫羽が乱雑に生えており、風船頂点には蚊のような針の口を持った虫の顔があった。

 それがそれなりの数で砂漠の上を低空飛行していた。


 飛ぶのが低すぎて、羽音が足音に聞こえていたらしい。

 というか、あれを捕食しようとしなくて正解だった。あんなの、絶対毒持ちだろう。

 現状、この世界における毒がどんなものか知らないため、極力毒になりたくない。


 まあ、それはさておき、風船虫を避けて狩りに出かけた。

 今回はネズミ二匹で満腹になった。明らかに身体が大きくなっている。

 ちなみに、カラスは巣作りを終えると、本当に巣から動かなくなったため、狩りは思う存分できた。


 その後、あの風船虫がどこから来たか突き止めるため、砂中に潜って羽音を追跡していたら、羽音は次々と小さくなっていった。

 俺と風船虫との距離は必ず一定を保っているため、考えられる可能性としては………。

 砂中から顔を出すと、予想通りと予想外の状況がそこにあった。


 まず、風船虫は上空に飛び上がっていた。

 だから、水平距離が離れていなくても垂直距離が離れていたので羽音が小さくなっていたのだ。

 もちろん、これは予想通りだった。

 予想外だったのは、風船虫が群れる生物だということだ。


 風船虫の群れが、上空を埋め尽くしていた。

 かなり離れているのか、まるで黒い雲に見える。

 俺が追っていた風船虫はその群れの方向へ飛んでいった。

 俺は風船虫の群れに見つかる前に、すぐに寝床へと引き返した。

 なんというか、昨日の美しさと今日の醜さで異世界への印象がプラマイゼロになった気分になってしまった。

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