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え、あ、はい、ワームですよ?  作者: 素知らぬ語り部
踏み折られたギンセイジュ

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39/48

39、幕引き










「帰ってきた~………」


 そう言ってタモティナはベッドに飛び込む。

 カラスもそれに倣ってか、タモティナの上からその身体を放り出した。


「ちょ、重い〜」


 ハンター達の飛行船でバルデルハラ街へ帰ってきた後、『街警団』という警察のような人達に盗賊とあの少女を引き渡し、今は宿屋で休んでいる。

 あの村に滞在していた時間はたった一日ほどだが、盗賊との戦闘でそれなりの疲労が溜まっていた。


「あの盗賊達は今頃拷問かなぁ………」


 タモティナがぼやく通り、街中で大惨事を起こした盗賊達の扱いはかなり酷く、引き渡しの際には町の住民から罵倒を浴びせられたり、石を投げられたりしていた。

 しかし、あの少女だけは盗賊という扱いではないのか、むしろ街警団に守られるようにして一番最初に連行されていった。やはり、貴族はたとえ落ちぶれていたとしても好待遇なのだろうか。


 そんなことを考えながらだら~っとしていると、コンコンとドアがノックされ、メニコウが入ってきた。


「入るぞ。タモティナ、あとで会議がある。もう少ししたら大広間に来てくれ」


「りょーかーい」


「サンドワームとカラスもだ。じゃあ、遅れないようにな」


 メニコウはそれだけ言うと、他にやることがあるのかすぐに部屋を出ていった。


「もうちょっと休んでから行こうか。あ、ちょ、上に乗ったまま寝ないで」


 タモティナがカラスの下敷きになったまま呻く。

 あの躁鬱状態は脱したようだが、なぜあの時突然吹っ切れたのか分からない。あの少女を見て変わったように思えるが、あの少女に何か思い入れがあったのだろうか。


「ちょっと、本当に重いんだけど………!?」


 ベッドの上で、カラスとタモティナがまだ騒いでいる。

 まあ、タモティナがどうなったにしろ、俺はついていくだけだ。



 そう、思っていた。









「よし、揃ったな。これより、ギンセイジュ団会議を始める」


 大広間の大きな丸テーブルを囲みながら、団長ガノパがそう宣言する。

 テーブルを囲んでいるのは、ガノパの他に、メニコウ、タモティナ、カラス、そして俺だけだった。他の団員はまだ療養中だったり別の仕事に回ったりしているらしい。


「まず、皆に伝えなければならないことがある」


 ガノパはそう言って言葉を切り、深い息とともに重々しい口を開いた。


「ギンセイジュ団は、解散することにした」


「え………?」


「そう、か………」


 メニコウは予想していたらしいが、タモティナは目を見開いていた。

 実際、俺も驚いている。まだ団員もいる上に冒険者ギルドの支援も受けているはずなので、活動休止ならともかく解散まで行くとは思っていなかった。


「ただ、解散といっても完全なものではない。一度全員を解雇という形でギンセイジュ団から抜けさせ、団員ではない我々でしばらくの間活動しようというわけだ」


「え、でも、その間のギンセイジュ団はどうするんですか? 団員がいなければ団はできないはずじゃあ………」


「そこはあのギルドマスターがなんとかしてくれるそうだ。まあ、取引の結果ではあるが………」


 そう言って、ガノパは俺を見る。まさか、俺を取引材料したのだろうか。

 ガノパの言う取引に戦々恐々していると、少し考えていたメニコウが口を開いた。


「じゃあ団はそれで問題ないとして、これからどうするんだ? まさかこんな人数で依頼をこなすわけにもいかないだろう?」


「溜まっていた報酬品を売っていたら、かなりの額になった。これで、東の方へ行こうと思っている。もちろん全員でだ」


「東の方と言うと………『ネテリウネス魔術学国』か? あのお嬢さんの出自を調べるのか?」


「それは街警団の取り調べで分かることだ。我々はさらに東の『アマノボリ』に向かう」


「アマノボリ………アスアサの故郷か………」


「そこの温泉で皆を休ませようと思っている。さながら、旅行のようなものだ。しばらくしたらまたここへ戻り、ギンセイジュ団として再開する」


「温泉行くんですか!? やった!」


 どうやら、この異世界にも日本のような国があるらしい。しかも、温泉と言っているあたり火山があるのだろう。日本も、温泉が有名だった。

 ガノパは全員でそこに旅行しに行く予定のようだ。温泉なんて前世含めて久しく入っていないし、そもそもこの姿になってから一度も風呂に入っていない。アマノボリはここから遠そうだが、その長旅をする価値はあるはずだ。


 どんな湯があるかウキウキしながら考えていると、こちらを申し訳なさそうに見つめているガノパと目が合った。

 いや、まさか………


「その、期待させて申し訳ないのだが………団家存続のため、ギルドマスターが提示した条件が、サンドワームを冒険者ギルドに寄贈しろというものでな………」


「えっと、それはつまり、サンドワームは置いていくってことですか?」


「………まあ、そうなる」


 ………運命とは、かくも残酷なのか。

 ガノパは本当に申し訳なさそうにしているが、団家と俺を天秤に載せたら、そりゃあ団家の方を取るだろう。ガノパを責めるのはお門違いだ。

 責める対象は、そんな条件を提示しやがったあのギルドマスターだけだ。


「じゃあ、これでお別れ………?」


「一週間後に出発予定だ。しかし、引き渡しは明後日になっている。今日はもう休んで、明日は思う存分遊んでいい。ただし、重ねて申し訳ないが、サンドワームがうろつくと騒ぎになる。これまでの功績が認められたので書類を掲げることは免除されたが、それでもむやみに人前に姿を現すのは避けてほしい」


「分………かりました。じゃあ後で、明日何するか決めよっか」


 タモティナが少し寂しそうな表情になる。

 確かに俺も寂しいが、タモティナよりもカラスの方が気になる。カラスの話は一切なかったため、俺のように置いていかれることはないだろうが、かといって俺から離れるようには思えない。

 ちらっとカラスの様子を見ると、物凄く苦虫を噛み潰したような表情でタモティナを見ていた。何を悩んでいるのかは分からないが、一週間後に答えが出るだろう。


「とりあえず、今後の方針は話した。次はルートや役割について話し合うぞ」


 もう冒険者ギルドに放り込まれる俺には関係ないが、少しでも地理を知るため、大広間からは出ない。

 そのまま、夕方まで会議は続いた。


















 翌日、早起きしたタモティナに叩き起こされた。


「ほら、昨日話した通り、今日は色んなとこに行くよ!」


「カア!」


 朝からハイテンションのタモティナに引っ張られ、カラスとともに白い街へ飛び出す。

 朝早いからか、人通りはほとんどなく、それゆえに俺を見て騒ぐ人はいなかった。


「まずは、雑貨屋!」


 タモティナに連れられて並び立つ水殿の一つに入ると、様々な商品が並んだ雑貨屋になっていた。

 そして、その商品のどれもがみたことのないものであり、俺のみならずタモティナも目を輝かせていた。


「っとと、今日は私じゃなくてサンドワームのを買うんだから。それで、何が欲しい? なんでもってわけではないけど、大抵のものなら買えるよ」


 頭を高く上げながら陳列棚の間を進む。

 棚の上には緑色の水晶や綺麗なハンカチ、なぜか中身がない短剣サイズの豪奢な鞘などが置かれていた。


「あ、これ『宝神の護身剣』だ。使うと短剣じゃなくて直剣が出てくる護身用のドッキリみたいなやつだね。結構珍しいんだけど、こんなとこで売ってるんだ~」


 どうやら、魔道具?的なものも売っているらしい。まあ、手がない俺には使えないのだが。


「え、なに『神具』が欲しいの? それならこっちにあるよ」


 短剣の鞘を見つめていたからか、タモティナがその神具とやらがある棚へと案内してくれた。

 棚の上には先ほどの雑貨よりもさらに奇妙なものが置かれており、そのうちの一つに目を引かれる。


 それは金色の糸で不思議な紋様の刺繍が施されている藍色の布だ。

 その紋様がどこかで見たことがある気がして、その記憶を手繰り寄せようと脳をフル回転させる。


「ん? お、『渡り鳥の祈願』だね。ほら、ここ羽みたいでしょ?」


 タモティナがそう言って刺繍の一部分を指差す。

 確かに、鳥と分かっていればそう見えなくもないような………………いや、ごちゃごちゃしすぎてよく分からない。


「旅が安全なものになりますようにっていう神具なんだけど、効果は、まあ、うーん………でもちょうどいいし、皆でお揃いにする? これなら尻尾に巻き付けられるだろうし」


 他に気になるものもないので、タモティナの提案に頷く。

 それを見たタモティナはご機嫌な様子で布をカウンターに持っていき、即購入した。結構ジャラジャラとお金を出していたように見えるが、こう見えてかなり高いのだろうか。


「はい、尻尾に着けてあげる。カラスは脚でいいかな?」


 そう尻尾に巻き付けられた布は、まだ上り切っていない陽光に照らされてキラキラと輝く。半ば流れるように買ったが、かなりいいかもしれない。

 ちなみに、カラスは気になるのか、脚につけた布をしきりに突っついている。前も足に着けた書類を外そうとしていたし、脚が敏感なのかもしれない。


「………ちょっと時間かけすぎちゃったかな? 次は商店街で買い食いしょうかと思ったけど、もう人がいるかも。しょうがない、公園の方に行こうか」


 店を出ると、早速歩き出したタモティナについていく。


 しばらく進んでいると、急に建物が消えて大きく開けた場所に出た。

 そこは砂に塗れているものの、子どもが遊ぶような遊具やベンチがあり、周りにはチラホラと開いている露店もあった。


「んー、サンドワームが食べれるもの………あれがいいかな」


 露店の一つに目星をつけたタモティナについていくと、香ばしい匂いのする露店についた。


「お、タモティナちゃんじゃないか。それと………噂では聞いていたが、本当に砂蛇を連れているんだな」


「悪い子じゃないから安心して。それでっと………カラスとサンドワームに『豪快焼き』、私は『蛇の焼串』でいいかな」


「はいよ! じゃあ焼き終わるまで待っててくれ」


 どうやら店主とタモティナは知り合いらしい。よく来ていたのか、会話中のタモティナはどこか嬉しそうだった。

 しかし、店主が炭火で肉を焼く様を楽しそうに見ているタモティナの顔には、どこか寂しげな影が纏わりついている。


「はい、豪快焼きと蛇の焼串だよ! 新しい友達を連れてきた記念に、これは無料でやるよ」


「え、でも豪快焼きは結構な値段するんじゃ………」


 豪快焼きと言われた焼けた肉塊は、ふんだんに香辛料が使われているのか香ばしい匂いが強く、朝から何も食べていない胃を大きく刺激する。

 しかし、こういう異世界では、香辛料は高級品のはずだ。それを大量に使い、しかも二個注文した。前世換算でだいたい一万円はしそうだ。


「それでもいいんだ。タモティナちゃんも大変だっただろう? その………ミルナと別れて」


「あ………うん、もう、大丈夫」


「無理すんじゃねぇぞ。常連客がいなくなるのは寂しいからな」


 俯きかけたタモティナの頭に、店主の大きくゴツゴツとした手が置かれる。まるで、タモティナが幼い時からそうしてきたように。


「分かってる。次は、ミルナと一緒に来るから」


「おう、いつでも待ってるぜ」


 店主に別れを告げ、公園のベンチで朝ごはんを食べる。

 豪快焼きは何の肉かは分からないが、全く臭みがなく、それでいてしっかりと脂が乗っていてかなり美味い。ピリッとした香辛料も、味を引き出す一助になっている。


「ん~、おじさんが作る焼串は美味しいねぇ」


 タモティナは小さな蛇が巻き付いた焼串を頬張っており、それもなかなかに美味しそうだった。

 カラスも美味いと感じているのか、キツツキのように豪快焼きを啄んでいる。





「ふ~………人、多くなってきたね。じゃ、移動しようか」


 しばらくすると徐々に人通りが多くなり、俺を奇異の目で見る視線が増えてきた。

 もう朝ごはんは食べ終わっているので、タモティナの案内に従ってさっさと移動する。


 タモティナは街の外に向かっているのか、近づいてきた外壁の圧迫感が大きくなる。

 そして、ほとんど人がいない、外壁の真下に来ると、ようやく足を止めた。


「皆に新しい友達を紹介しなくちゃね。それと、お別れも」


 たどり着いたそこはどうやら墓地らしく、大小様々な真四角の石がいくつも立っていた。

 タモティナはその中でも、一際真新しい墓石の一群の前で座り込む。


「皆、紹介するね。っていっても、名前はまだ決めてないけど。こっちがカラスで、こっちがサンドワーム。皆も、私が動物に好かれるとはいえサンドワームもテイムできるとは思わなかったでしょ」


 タモティナは少し泣きそうな顔で、墓石に話しかける。

 文字は読めないので誰の名前が刻まれているのか分からないが、俺が会ったことのない、そして会うことのないギンセイジュ団の一員なのだろう。


「そうだ、今ここで名付けちゃう? どう?」


 正直すでにサンドワームと呼ばれ慣れているのだが、名前はあるに越したことはないだろう。

 カラスはなぜか少し不満気だが、それでも拒否する気はないようだ。


「それじゃあ………って、簡単に名前は考えつかないよねぇ。んーと………あ、神様の名前を参考にしよっか」


 タモティナはそう言うと腕を組んでウンウン唸りだしたが、すぐに何かを思いついたように目を見開いた。


「カラスは『砂旅の神アイル・ニメス』から取って、ルメス! サンドワームは『導糸の神リムンディア』から取って、リム! これでいい?」


 宗教の話は知らないのでその神々がどんなものなのか分からないが、名前としては申し分ないだろう。ということで、俺は首を縦に振る。

 カラスは俺の答えを見てから、頷いた。


「そう? よかった。じゃあ今日からルメスとリムね。よろしく」


「ジャア!」


「カア」


 嬉しそうに笑うタモティナにつられて、俺も嬉しい気分になる。

 しかし、そこで思い出した。確か、ステータスウィンドウには………


〈名前〉ファドマ・レニア


〈種族〉%%%%・%%%%・%%%%


〈スキル〉砂泳Lv4・咬合Lv3・消化Lv3・飢餓耐性Lv4・翻訳Lv2


〈称号〉翻訳者


 名前欄に、すでに別の名前がある。ファドマ・レニアとは、どんな意味で、誰が付けたのだろうか。

 もしかすると、俺が転生する前、この身体の主がそう名付けられたのだろうか。


「ん、どうしたの? なんか気に入らないとこでもあった?」


「ジャ? ジャアジャア」


 考え込んでいた俺を覗き込むタモティナに、首を横に振る。考えすぎて、心配させてしまったようだ。


「そう? それならいいけど。ここに長居してもなんだし、もう帰ろっか」


 タモティナが立ち上がるのに合わせて、俺も宿屋に向かう。


 そして、墓地から出る直前、タモティナが振り返った。



「………またね」



 たったその一言だけ言うと、もうタモティナは振り返らなかった。


 タモティナにつられて墓石を見た俺の視界に、半透明の金髪の少女が手を振っているのが映っていたとしても。








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