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え、あ、はい、ワームですよ?  作者: 素知らぬ語り部
踏み折られたギンセイジュ

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36/48

36、罪を。見下げた死を







「砂漠蠕虫! 起きろ!」


「ジャ、ジャア………?」


 ハンターの叫び声で意識が戻る。

 辺りは幾多の松明が照らしており、その中で多くの影が動いている。

 そして、剣戟が聞こえた。


「お前! お前もあそこに………!」


「タモティナ、下がれ! クソッ見境がなくなってやがる………!」


「蠕虫! あっちを援護してやってくれ!」


 俺以外の全員はすでに起き上がっているようで、下で待ち構えていたらしい盗賊と渡り合っている。しかし、あの爆発を食らったせいか、皆の装備はボロボロになっていた。


 ハンターは事前に持ってきていた片手剣を振り回し、複数の盗賊を薙ぎ払っている。しかし、その怪力を警戒されてか、ハンターの方は盗賊が少ない。

 問題は、ハンターが言っているようにタモティナの方だ。


「お前もあそこにッ! あのときにいただろッ!」


「タモティナ! 落ち着け!」


 タモティナが狂ったように盗賊へ攻撃を仕掛けているが、怒りに任せているせいで振りが大きく冷静に対処されている。メニコウはそんなタモティナの背後を必死に守っていた。


 そして、俺の方に盗賊が一人来た。


「ジャア!」


「ッ!?」


 俺がまだ気絶していると思っていたのか、俺が飛びかかると盗賊は驚いて後ずさる。その隙を突いて身体全体を使った体当たりをして吹き飛ばした。


「お、おい! まだ砂蛇が生きてるぞ!」


「先に奴を殺せ! 奥に行かせるな!」


 リーダーらしき盗賊がそう俺を指差す。よく分からないが、盗賊は俺の排除が最優先のようだ。


「奥………奥はあそこだ! サンドワーム、お前が行け! 俺達は気にするな!」


 メニコウの言う通り、すぐさま音の響き方が違う暗い奥へ滑り込んでいく。

 後ろから聞こえる火花の音は小さくなっていき、光も届かなくなってくる。


 長い長い暗い道を這っていくと、前方に小さな光が見えた。


「………………ん、誰だ?」


 おそらくこの洞窟の最奥、宿屋の一部屋のように棚やベッドがある中では、一人の少女が机に座って何か書いていた。

 少女は紫色のローブを着ており、その中に学生服のようなものが見えている。


 その少女と、目があった。


「んえ? あ、あ………………………あああ!?」


 俺を見るや否や少女はイスから転げ落ち、手の平をこちらに向けた。


「お、大いなる嵐に命ずる! 奴を吹き飛ばせぇ!」


 嫌な予感がしたので、部屋の入り口にあった小さな窪みへ退避する。すると、俺が先ほどまでいた空間を削り取るように鋭い風が吹き荒れ、砂塵を舞い上がらせた。


「や、やったか? わ、分からん! もう一回だ!」


 またも風が洞窟内を荒らし回り、音すらもこもるほどの砂煙が立ち込める。

 その隙に、さっさと窪みから出てハンター達のところへと急いだ。後ろからは、「いるか? まだいるのか!?」という少女の声が小さく聞こえてくる。あんなところにはいられない。


 しかし、目の前からも脅威が来た。


「いたぞ! 殺せ!」


 松明が一本、こちらに向かってくる。数は二人。一人は松明だけで武器は持っていないが、もう一人は柄の短い手斧を持っていた。


 ここは人一人が通れるくらいの狭い通路。ところどころ俺が入れるほどの穴があるとはいえ見つけられた今は隠れるのは無意味だ。つまり、奴らを、人間を、殺さなければ。


 躊躇は一瞬だった。

 すぐに覚悟を決め、奴らの足に噛みつこうと素早く這い寄る。

 しかし、接敵する直前、空気を切り裂く嫌な音が背後から聞こえた。すぐさま近くの窪みに飛び込む。


「おい! あそこに入った───ぶぼっ!?」


「ぶべあっ!」


 ゴウッ!と猛々しい音が吹き荒れ、盗賊の声が途切れる。おそるおそる顔を上げると、地面に落ちた松明が身体を両断された盗賊達を照らしていた。

 それらは松明の上にゆっくりと倒れ、ズズッと鈍い音を響かせる。


「お、おい! 今の声はなんだ!? やったのか!?」


 後ろから少女の声が迫ってくる。

 幸い、彼女は松明を持っていないようで、手探りで近づいてきているのが分かった。


 少女を刺激しないように、音を立てずそっと穴から出る。

 とりあえず、盗賊達がなぜ俺を奥に行かせたくなかったのかは分かった。もっとも、俺達と盗賊両方が不利になるだけだったが。


「ん、砂漠蠕虫。奥に何かあったか? こっちは上に戻るための道を探しているところだ」


 先ほどの戦場に戻ると、なんとすでに盗賊は壊滅しており、ほとんどは血を流して倒れているが、数人は布切れで縛られて転がされていた。


「なぜギンセイジュ団を襲ったか、聞き出さないといけないからな。ただ、復讐を止めるのには苦労した………」


 そう溜め息をつくハンターの視線の先には、まだ殺意が漏れ出ているタモティナが座っていた。その暗い目は、捕らわれた盗賊に向いている。


「すまない。俺も高揚していて、すぐに止められなかった」


「いや、あなたも盗賊に復讐したかったはずだ。その心境では仕方ない」


 メニコウは疲れた様子で頭をさする。手には自分の武器である曲刀と、タモティナの武器である壊刃が握られていた。


 いや、今は話を聞いている場合ではない。今にも、一番の脅威が───




「お前達、誰だ?」




 話に夢中で、音を聞いていなかった。

 ハンターが即座に俺の目の前に出て、そして吹き飛ばされる。


「ぐあっ!?」


 庇ってくれたと、瞬時に理解した。

 ハンターの体では受け止めきれなかった暴風の余波が洞窟内を駆け巡り、松明の火を大きく揺らす。


 ハンターはその勢いのまま反対側の石壁にめり込むが、すぐに這い出てきた。


「チッ、お前、狩人か」


 少女の目が、ぐるっと辺りを見回す。

 メニコウはすでにタモティナに武器を返し、共に臨戦態勢に入っている。


「なるほどなるほど、私達の拠点がバレた感じか。集中すると音が聞きづらくなるせいで気づかなかったな」


 少女は先ほどの焦りまくった声の主とは考えられないほど、淡々と喋る。


「それで、お前ら、私の駒を潰した代償は払えるんだろうな?」


 暗い声色で、この場を制すかのように威圧する。

 それに立ち向かったのは、ハンターだった。


「元より貴様が蒔いた種じゃないのか。今の風、話に聞いていた団家を踏み折ったという風魔法だろう。手を出したのは、貴様だ」


 少女よりなお暗い声でハンターが少女を睨む。どうやら、かなり怒っているようだ。

 タモティナもメニコウも、ギンセイジュ団の怨敵と知って殺意が高まっている。


「ふん、最初にやったのはお前らだろうが。私の恩人を殺しやがって………」


 少女の言葉にメニコウが少し思案し、何か思い出したのかハッと少女を見た。


「お前、ハルネア旅団を護衛したときに襲ってきた、あのときの娘か?」


「そのハルネア旅団とかいうのは知らんが、お前が私の恩人を殺したのは、この目に焼きついている」


 よく分からないという顔をしているハンターとタモティナに向けて、メニコウが話し始める。


「三ヶ月前くらいの護衛依頼だ。確か、ちょうどこの近くに差し掛かったときに襲ってきた盗賊団がいて、この娘も風魔法で援護してきた。そして、頭と思われる男は、俺が斬った」


「わ、私、知らないけど………」


「タモティナはミルナと一緒に別の依頼をこなしにいっていたからな」


「ふん、知らないから逃れられるとでも思ったか」


 少女が挑発するようにタモティナへ言葉を投げる。

 タモティナはそれを聞いて戦意が再燃してきたようが、ドロドロと煮え滾ったものではなかった。


「………いや、私は、あなたを捕まえる覚悟ができてる」


 メニコウとハンターが目を見開く。俺もめっちゃ驚いた。

 あの復讐の塊のようなタモティナが、『殺す』ではなく『捕まえる』と言ったのだ。


「ああ? 私を捕まえられるとでも思っているのか? 頭空っぽなのか?」


 対して、少女はそれを嘲笑し、手の平を俺達に向けた。


「終わりだ」






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