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え、あ、はい、ワームですよ?  作者: 素知らぬ語り部
踏み折られたギンセイジュ

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29、一度交われば







「これより砂割竜討伐隊、出発する」


「「「うおおお!!」」」


 ハンターの言葉に、隊員達が雄叫びを上げる。

 そのほとんどが前回の捜索隊に加わっていた者であり、仇討ちをせんと燃えていた。


 それとは対照的にハンターは興奮することなく冷静で、得物らしき鉄製の大剣を背負って歩いていく。編纂者はその後ろをついていった。


 一方で俺達はというと、


「前回の砂割竜遭遇時、まともに砂割竜と戦闘して生き残ったのはタモティナとカラス、サンドワームだけだ。ハンターはそれを評価し、今回の討伐に君達を連れていきたいそうだが………」


「行く。絶対行く」


「………まあ、いいだろう。カラスとサンドワームはどうする?」


「カア」


「ジャア」


「そうか、そうだな。元より君達には関係のない話だ。今回はゆっくり休むといい」


 ということで、さすがに今回は見送りの方にした。あんな危機は、あんな地獄は二度と味わいたくない。


 今は、俺とカラスは宿屋の窓から討伐隊が出発していくのを眺めている。

 一度、タモティナがこちらを振り向き、小さく手を振った。


 俺はなんなくそれが、タモティナの『さよなら』の合図みたいに思えた。


「………ジャア」


 不吉な考えを振り払い、宿屋の方に戻る。

 確か、留守番する代わりに手伝いをしろと言われていた。働かず者食うべからずというように、仕事は完遂しなければならない。







「さて、君達にしてもらう仕事だが、まだ廃棄先に運ばれていない瓦礫が溜まっている。それを運搬してほしい………………と、言うつもりだったんだがな」


 メニコウはそこで一旦言葉を切り、頭を掻く。


「知っての通り、サンドワームは表を歩くための書類を紛失したし、カラス単体では力不足で手伝いになりにくい。さて、どうするか」


 そう言ってメニコウは困ったような表情を浮かべた。

 そう言われても、俺は別に目標なんかもないし………………いや、一つあった。

 ほとんど忘れていたようなものだが、俺はタモティナと会ったとき、『人間に有用なモンスターと思わせる』ことを目標にしていた。

 もう達成されている気がするが。


 となると、本当にもうやることがない。

 さすがにタダ飯食らいは気が引ける。屋内での作業で手伝えるものがあればいいが………


「作業は一通り終わっている………………まあ、いいだろう。前回の捜索隊であんな目に遭ったんだ。一日くらい休んでも文句は言えないだろう」


 メニコウはそう言い、部屋を出て行こうとする。

 しかし、出る直前にこちらを振り向いた。


「すまないが、帰ってきてからでもいい、タモティナのことを気にかけてくれないか? あの子は今、非常に不安定だ。君達といるときはマシだったが」


 今度こそ、メニコウは部屋を出ていく。

 というか、言外にタモティナについていかなかったことを責められた気がするが、気のせいだろうか。

 ………気のせいと思っておこう。






 その昼頃、メニコウが持ってきてくれた肉塊を食べた後、急に身体全体が痒くなり出した。久しぶりの進化もとい脱皮だ。

 カラスに手伝ってもらい、自分の皮にペリペリと引き剥がすと、変化はすでに訪れていた。


 前の脱皮のときに生えてきたヒレが、薄い膜ではなく皮膚に覆われた肉へと変わっていた。ちょうど、水中から陸へ適応しかけている太古の爬虫類のように。

 このままいけば、そのうち手足が生えてくるかもしれない。さらにその先へ行くこともできれば、人化の可能性もある。


 人化、そう人化だ。それなら意思疎通も行えるし、周囲から不必要に怯えられることもない。変な書類も必要なくなるだろうし、いいことづくめだ。


「ジャア」


 一声鳴き、人生の目標を決める。

 『人化して、人と生きる』。それが俺の目標となった。






 それで、今できることといえば、進化先の確認だろう。

 今回の進化では、


〈名前〉ファドマ・レニア

〈種族〉%%%%・%%%%・%%%%

〈スキル〉砂泳Lv4・咬合Lv3・消化Lv3・飢餓耐性Lv4・翻訳Lv2

〈称号〉翻訳者


 と、『咬合』以外のスキルが1上がっていた。

 この世界のスキルはHPや攻撃力のようなステータスと一緒で、いわゆる最大値を表していることが分かっている。

 つまりは、ゲームのスキルのような『発動するモノ』ではなく、アビリティのように常時『発動しているモノ』だ。なので、スキルを使用して技を繰り出すとかはできない。


 そういえば、このステータスウィンドウは他人に見えるのだろうか。ついでに、他人のものは見えるのだろうか。


 試しに、カラスの目の前でステータスウィンドウを出してみる。

 しかし、カラスには全く見えていないらしく、急に目の前にやってきた俺を見てキョトンとしているだけだ。

 こうなると、他人のステータスウィンドウは見えなさそうだ。

 いや、時代的に中世のような感じなので、そもそもステータスウィンドウの概念自体がないのかもしれない。


 やることはこれでなくなってしまったため、部屋でぐでーっとくつろぐ。

 さすがにモンスター用のベッドやソファはないものの、白い石造りの床は冷たくて気持ちよく、この砂漠地帯にはピッタリだ。

 カラスも羽繕いをしたり顔を床に押し付けたりしてくつろいでいる。


 そこで、ふと気がついた。

 妙にカラスの足が長いように見える。


 そもそも前世でのカラスの足の長さなど気にしたことはないが、それでも違和感を感じるくらいには長く見える。

 もしかすると、サンドワームのような脱皮がない代わりに、徐々に変化していく感じの進化なのだろうか。


 カラスを見つめて固まった俺に、カラスはふさふさの羽毛が生えた頭を擦り付けてくる。

 最近も思ったが、この子はいつ、独り立ちをするのだろうか。

 野生動物は独り立ちしてナンボという偏見を持っているのだが、それは間違いだったのだろうか。


 ただ一つだけ、独り立ちするにしろしないにしろ………


「ジャア?」


「カア!」


 カラスが俺の尻尾に自分の頭を擦り付けてきたので、尻尾で撫でてあげると嬉しそうな声を出す。

 まるで、まだ親に甘える雛のようだ。



 願わくば、俺のことを忘れないでほしい………と思う。




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