26、大輪の曼珠沙華
ッダアアアァァン!!!
「きゃあ!?」
「ジャア!?」
「カア!?」
激しい衝撃と振動、そして閃光が通路全体を覆う。
しばらくして振動が収まった時には、砂割竜の背全体に光が差していた。
上を見れば、ちょうど砂割竜の上の天井が綺麗に吹き飛んでいた。
「な、なにが………?」
タモティナがそう呟くと同時に、天井の穴から色とりどりのナニカが飛んできた。
それらは真っ直ぐ砂割竜に向かい、当たると同時に激しく炸裂する。
「デュルバアア!?」
炸裂するソレを見れば、火や水、雷、見えにくいが風みたいなものもあった。
要は、魔法だ。それらが絶えず砂割竜に撃ち込まれる。
しかし、その状況は長く続かず、十秒も経たずに終わりを迎えた。
背中に大きなダメージを受けた砂割竜はそれに逆上し、その大きな身体を震わせる。
その矛先は、穴の上にいるであろう者達、ではなく、なぜか俺達に向いた。
「デュバアア!!」
「な、なんで!?」
片目には刃が突き刺さり、背中は魔法でボロボロになった砂割竜の目には、まるで砂割竜に襲いかかったタモティナのように紅く燃えていた。
タモティナもそれに気づいたらしく、ハッと息を飲む。そして、声を荒げた。
「なんで………なんでお前がそんな目になるのッ!? お前がやったことなのに、なんで………なんで!!」
タモティナの壊刃が宙を閃く。
同時に砂割竜も動き出し、砂割竜の斧のような口と壊刃が交錯する。
勝ったのは、壊刃の方だった。
砂割竜の口には大きな傷ができ、少なくない血が溢れ出す。
しかし、砂割竜はそれでは止まらなかった。
「くっ! がっ!」
砂割竜の噛みつきを間一髪で避けたタモティナは、それでも巨体に掠って大きく転がる。
「カアァ!!」
カラスは足の鋭い爪で攻撃しようとするが、当然砂割竜にダメージはなく、ヒレで吹き飛ばされた。
それを見て俺も突進しそうになるが、カラスの爪が効かないのであれば、当然俺の攻撃も効かないはず。
ならば、まずは安否確認だ。
「ごほっ、サ、サンドワームか………」
それは酷いものだった。
防御に使ったであろうアスアサの左手はぐずぐずに潰れており、左半身は血塗れだった。
口からは血が溢れ出し、前世の世界の治療技術でも生き残れるか怪しいレベルだ。
「す、すまん、少し近づいてくれるか?」
なんか最期の頼みになりそうなので、素直に従って顔を覗き見る。
すると、残っていた右手で俺の首に何か掛けられた。
「ごほっごぼっ………もう、いい。タモティナの援護に行ってくれ」
何を掛けられたのかちょっと見えないが、アスアサの言う通りタモティナの援護に行く。
しかし、当然俺の攻撃は効かないので、砂塊を落として砂割竜に少しでもダメージを与える。もしくは、砂割竜の攻撃を止めるのがいいだろう。
早速、天井に潜り、比較的硬い砂に体当たりして衝撃を与える。
砂塊はそのまま自由落下し、真下にいた砂割竜の頭に直撃する。
しかし、運が悪かったのか、砂塊が当たった場所は刃が刺さった右目だった。
傷を刺激された砂割竜は俺に標的を変更し、その巨体で壁を揺らす。
「ジャア!?」
天井は揺れに耐えれずに崩落し、それに巻き込まれる。
だが、それを見てるだけのカラスではなかった。
「カアァ!」
砂割竜の口に落ちていく俺の尻尾を、カラスの足が掴む。
砂塊に阻まれて飛び続けることはできなかったが、肩で息をしているタモティナから砂割竜を引き離せた。
「デュルバアア!」
巨大な口が迫ってくる。
当然、カラスは飛んで、俺は潜って逃げようとした。
その尻尾を掴まれた。
「詠唱、完了………!」
見ると、いつの間にか笑顔を浮かべるアスアサがそこにいた。
そして、カラスとともに宙へぶん投げられる。
だが、その方向は砂割竜に向いており、すわ気が触れたのかと思ったが、それにしてはいつまで経っても砂割竜の方に落ちることがない。
「ジャ、ジャア………?」
「カア?」
自分の身体をよく見ると、あのときの曲剣のように赤いオーラが纏わりついていた。
「え、ちょっ、これ、導き手!?」
同じく赤いオーラを纏って浮いてきたタモティナが叫ぶ。
それに砂割竜が噛みつこうとするが、すでに届かない距離にあり、俺達は段々と天井の穴に近づいていた。
では、アスアサはというと、
「ごぼっぼほっ………………ああ、バカやった後は、こんな気持ち………だったんだな。最期に知れてよかったよ。ごほっ」
もう出血量が洒落にならないレベルだ。しかも、魔法を使ったせいか先ほどよりも明らかに顔色が悪い。
そんな満身創痍のアスアサに、砂割竜の視線が注がれる。
アスアサは、残った右手を口に近づけ、何かを呟いた。
固く握られたアスアサの拳は、段々と赤いオーラを纏う。
「デュルバアア!!」
「あああぁぁ!!」
アスアサを喰い千切らんと、大きな口が開かれる。
アスアサは、それに飛び込んだ。
「ジャア!?」
「ちょっ、何が起こってる!? 暗くて見えないんだけど!」
アスアサの姿は砂割竜の口に飲み込まれる。
次の瞬間、赤い光が見えた。
それは砂割竜の頭を突き抜け、花弁のように舞い広がる。
その光は、大輪の花のように見えた。
砂漠に咲く、一輪の花。それはすぐに儚く消えていったが、しっかりと砂割竜にダメージを与えていたらしく、今までとは比にならない速度で砂割竜は砂中へと潜っていった。
やがて穴から出て、その縁の方に来ると、急に浮遊感が消えた。
「うおっと、大丈夫か?」
俺はメニコウに掴まれ、タモティナとカラスはそれぞれ別の隊員に引き上げてもらった。
周囲を見ると、明らかに隊員の数が減っており、中にはしゃがんで塞ぎ込んでいる者もいた。
「それで、砂割竜は?」
「わ、分からない。最後、アスアサが何か魔術を使ったのはなんとなく分かるけど、私にはどんなものかは………」
「魔術、か」
メニコウがタモティナの話を聞いて考え込む。
魔法と魔術は、違うものなのだろうか。
「いや、それはいい。だが、酷なことを言うようだが、アスアサのネームプレートは、回収できたか?」
「あ、それはサンドワームが」
話の矛先が俺になったらしく、二人がこっちを見る。
メニコウは俺の首に手をかけ、アスアサに掛けられたものを外した。
「………あいつは、どこまでも用意周到だな」
「『第34番目団員 トコシエ・アスアサ』? アスアサって名字だったの?」
「いや、これは………………ははっ、本当に、用意がいいもんだな」
メニコウは泣きそうな声で、笑った。
タモティナもよく意味が分かっていないらしく、首を傾げている。
「はははっ、はあ………………これは帰還してから話そう。他のいない隊員はすでに遺物を回収済みだ。さあ、帰ろう」
メニコウの指示の下、隊員達は軽くなった荷物を抱えて歩き出す。
皆の顔色が悪いのは、砂割竜に全力で魔法攻撃をしたからであろう。
そして、それだけでは、ないはずだ。
誰かのすすり泣きとともに街へと戻る。
行きより少なくなった足跡を残して。




