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え、あ、はい、ワームですよ?  作者: 素知らぬ語り部
踏み折られたギンセイジュ

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23/48

23、落ちた者同士







 ザァーと雨のような、砂が落ちる音が鳴り響く。

 目を開けても何も見えないが、サンドワームの聴覚でここがどんなところかは分かった。


 どうやら、砂割竜の通り道に落ちてしまったようだ。

 光がないのを見る限り、穴はすでに塞がったか、俺が遠くに流されたか。

 耳を澄まし、近くにカラスや隊員がいないか探す。

 しかし、聞こえるのは砂が落ちる音だけで、生物が出すような音は一切なかった。


 とりあえずカラスか隊員を探そうと砂に潜ろうとするが、砂が土のように固い。俺の力では掘るくらいしかできなかった。ここはかなりの深部のようだ。

 危険だが、地を這って行くしかない。

 幸い、度重なる進化によって、俺にはヒレがある。砂上での移動は、普通のサンドワームよりは得意のはずだ。


 しばらく、音の反響で空間を把握しながら進む。

 だが、どれだけ移動しても砂の落ちる音しか聞こえない。

 むしろ遠ざかっているのでは、と思った矢先、ついに別の音が聞こえた。


 通路の奥から聞こえる乱れた足音は、その場からあまり移動せずに回るように移動している。

 つまりは、戦闘中だ。


 近づくにつれて揺れる赤い光も見えるようになり、それに映る影も見えた。

 やはり、戦闘しているのは人間らしい。敵はまだ分からないが、足音の数からして人間ではないのは確かだ。


「クソがぁ!」


 中性的なハスキーボイスで口汚く叫ぶ人間。

 この声は聞いたことがある。今回の捜索隊に入っている『アスアサ』という女性だ。

 ただ、罵っているあたり善戦はしていないようなので、到着しだいすぐに加勢する。


「ッ!? お前は!」


 敵は大トカゲのようで、すでに何個も切り傷があるが、それはアスアサも同じだった。

 短く切り揃えられた灰色の髪は砂塗れで、遮光用の白い服には強引に破られた跡がいくつもあった。

 加勢は正解だったようだ。


「ギュルアアァ!!」


 小さな焚き火が作り出す薄暗い光の中、大トカゲが咆哮し、新たに現れた敵である俺に突進してくる。

 俺はそれを軽々と避け、れなかった。

 砂に潜ろうとして固まった身体に大トカゲの口先が当たり、思いっきり撥ね飛ばされる。


「砂蛇!」


 落ちた先にはアスアサがおり、相当重いはずなのに受け止めてくれた。


「ここはお前の得意なフィールドではない!大人しく待っとけ!」


 そのままポイッと近くに放り投げられ、力なく落ちる。

 その間にもアスアサは大トカゲに向かっており、戦闘を再開した。


 不覚にもここは潜れないことを忘れていた。

 しかも、ヒレがあるとはいえ進む速度は人の走る速度より遅い。

 さらには、俺は大トカゲと直接戦ったことはない。つまりは慣れていなかった。


 このままでは、加勢どころかただのお荷物になってしまう。

 しかし、敵の攻撃を避けられないのは致命的な上に、受けたところがマズかった。


「ジャ、ジャア………」


 突進を受けたところは腹。蛇の尾が叩きつけられ、未だ治っていなかった腹である。

 二重の鈍痛が腹に響き、ほとんど動けなくなってしまう。

 そして、大トカゲがそれを見逃すはずもない。


「ギュルア!」


「クソッ、避けろ砂蛇!」


 アスアサの攻撃を掻い潜って大トカゲがこちらに向かってくる。

 しかし、攻撃を受けたときからそれは分かっていた。

 運良く転がっていた石を掴んだ尾を捻り、俺に咬みつこうと大口を開けた大トカゲの横っ面に叩き込む。

 大トカゲは弱った獲物から反撃を受けたのが予想外だったのか、想定よりも大きく体勢を崩した。

 比較的硬い外皮がズレて露わになった首に、すかさずアスアサが曲剣をねじ込む。


「ギュルア! ギュルゥ………」


 大トカゲは手足や尾を振り回すも背に乗っているアスアサには当たらず、次第に呻き声が小さくなって鼓動が消えた。

 音を聞く限り、他の大トカゲはいないようだ。

 アスアサは大きく息を吐き、剣から手を離す。


「役に立ったは立ったが、ポンコツだな………」


 反論したいところだが、確かに意気揚々と出た割には一撃ノックアウトなので否定できない。

 というか、自分でもまだダメージが残っているのが驚きだった。サンドワームは自然治癒能力が低いのだろうか。


「動けるか? 早く隊に合流したい」


 少し身体を捻って痛みを確認すると、まだ痛みは残るものの十分動ける程度だ。

 アスアサにぎこちなく頷くと、彼女はすぐさま焚き火から松明を作り、通路の奥へ進み始めた。俺もその後を追う。


 しかし、しばらく移動しても隊員どころか荷物さえなく。


「これ、私達以外全滅とかないだろうな………」


 その一言で、心臓がギュッと掴まれたような感覚に陥る。


 もし、あの流砂でカラスが死んでいたら。


 そんなことはないと考える自分と、


 まあいいか、と諦めている自分がいる。


 まるで、ゲームの一プレイヤーのように。




 ………俺の悪い癖だ。


「お、何かあったぞ」


 軽い自己嫌悪に陥っていると、アスアサが何かを見つけた。

 それは見覚えのあるものだった。


「タモティナの、壊刃………」


 それは血で汚れており、凝固していることからそれなりの時間が経っているのが分かった。

 しかも、その隣には砂色の羽根が落ちていた。


「どうやら、タモティナはお前のカラスと行動しているようだ。だが………………やはり状況は良くないらしい」


 幸い、一人と一匹の足跡は消えずに残っていたので、それを追う。

 しかし、同時に別の足跡もあった。


「やはりここらは砂蜥蜴が多いか。次に遭遇するまでにもっとマシな戦い方を考えておけ」


 言われずとも、そうするつもりだ。
















「ナイス! 次はそっちをっ!」


「カアァ!」


 この光のない砂窟で目覚めたときは絶望だったが、私を掴んで離さなかったカラスの嗅覚ですぐに敵を察知でき、運良く落ちてた荷物で松明を確保できた。


 しかし、この敵の多さは。


「砂割竜のせいで大量に落ちてきてる!」


 今、私とカラスの目の前には、地に落ちている松明に照らされた五匹のサンドリザードがいる。

 それも、最低で、だ。今も、通路の奥から追加のサンドリザードがどんどん来ている。

 私の壊刃は撤退途中で一つ落としてしまったし、カラスも少なくない傷を負っている。

 今はまだ私の治療魔法で持ち堪えているが、魔力が切れたらそこで終わりだ。


 そもそも、本来のサンドリザードはこんな大規模な群れを形成するタイプのモンスターではない。

 おそらく、運悪く比較的地表に近い通路の上を通って落ち、砂割竜に対抗するために群れを作ったのだろう。


「カラス、深追いはしないで!なるべく隙を作らず!」


「カア!」


 ただ、幸運なことにカラスは私の意を汲んで動いてくれるので、戦闘自体はやりやすい。やりやすいが………


「ッ! 防ぎ切れない! もう逃げるよ!」


「カアァ!」


 異常に数が多い。なので、何体か倒してからある程度逃げてまた迎撃して、を繰り返している。

 このままではいけないことは分かっている。残りの松明も少ない。それは分かっているが、火力が足りず殲滅できない。このままではジリ貧だ。


 それでも、私は望みを捨てずに戦い続ける。


 もういない、あの子との約束を果たすために。

 あの子の遺体を回収する。その約束を。




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