22、漠沙の果てに
「それでは、出発する!」
メニコウの声に、隊員全員が進み始める。
あの後異変は起こらず、無事に朝を迎えた。
そして、準備が出来次第、民殿を出発した。
興味本位で少し隊から抜け、あの盛り上がりがあった場所を見てみたが、通った跡であろう崩落した小さな穴以外には何もなかった。
その穴も途中で途切れており、痕跡が途絶えている。
あの大きさのモンスターが跋扈しているのは怖いが、脅威にならない限りは無視していいだろう。
そのまま隊に合流し、他のモンスターが接近していないか護衛を務める。
そして、あの焦茶色の塔に着いた。
「よし、手分けして探せ。光るものはなんでもいいから持ってきてくれ。異常があったらすぐ知らせるように」
隊員達は散開し、塔の周りに散らばる残骸を調べ始める。
俺も砂中に埋まっているものがないか泳いでいると、ある違和感に気づいた。
明らかに、物が少ない。
焼け焦げた布や木材はあるものの、盗賊の焼死体が綺麗さっぱり消えていた。大トカゲ達が食べたのだろうか。
「あ゛あ゛ぁ………暑いっす〜………」
隊員の一人がそう言いながら服をパタパタと波立たせる。
その一言で周りを見てみると、皆が皆、捜索しながらも涼もうと必死に煽いでいる。
最初の頃は俺も砂面は熱かったが、いつの間にかそんなに感じなくなっている。慣れか、もしくは進化したおかげか。
しばらく、皆で砂をかき分ける。しかし、日が沈みかけるまで時間をかけても、出てくるのは戦闘の痕跡だけで金属は一切無かった。
「これは、すでに回収されているか。面倒なことになったな………」
はあ………とメニコウが深いため息をつく。
つまりは、盗賊からネームプレートを取り返さなくてはならなくなったのだ。
「まあ、覚悟はしていたことだ。今夜はここでキャンプする。明日の朝にもう一度捜索し、街へと帰還する」
メニコウの言葉に、隊員達は力なくテントの用意をする。
俺は手伝いはできないので、ネームプレートの捜索を再開する。
だが、音の反射を聞くに、もう砂の中に埋まっているものはない。
もう素直に諦め、砂面へと顔を出す。
地上ではすでにテントを張り終わっており、少しだけ赤みの残る空に焚き火の煙が立ち昇る。
「すまない、サンドワーム。塔を一周してくれないか?反対側に隠されている可能性もある」
メニコウにそう言われたので、カラスを連れて見に行く。
だが、盗賊はすぐに撤退したらしく、落とし物どころか痕跡さえなかった。
つまり盗賊はそもそもこちらに来ていない。
というか、ここまで来ると違和感が出てくる。
確かに捜索隊が来ると予想できるとはいえ、こんなに綺麗に消えるものだろうか………
俺が考えてもどうしようもないため、塔を一周してテントに戻る。
「戻ったか。何かあったか?」
「ジャジャア」
メニコウの問いに首を横に振る。
それを見たメニコウは渋い顔になった。
「おかしい。ここまで回収したのなら、それ相応に時間がかかるはず。魔法なら可能だろうが、それなら絶対に痕跡が残る。なのに、なぜここまで何もないんだ………?」
メニコウはぶつぶつと呟いたまま思考に入る。
なんか俺の出る幕ではなさそうな上、見張りをお願いされなかったので、昨日の残りを食べて寝に入る。
隊員は俺を避けるので、邪魔はされなかった。
カラスは人気で何かとモフられていたが。
「もう朝だよ、起きて」
タモティナの声とともに身体が揺すられ、目を覚ます。
赤みがかっていた空は、今度は明青色に染まっていた。
隊はすぐに荷物をまとめ、昼前には街に向けて出発する。朝の捜索でも何も見つからなかった。
ネームプレートが見つからなかったせいか、皆の口数が行きのときよりも少ない。
しばらくの静寂が砂漠に響いていたそのとき、メニコウが気づいた。
「………ん?………は?」
メニコウが拾い上げたのは、半ば砂に埋もれていた銀色の小さな金属片。
それに気づいたタモティナが叫ぶ。
「な、なんでここにネームプレートが!?」
その一言で、隊に動揺が走る。
今は元来た道を戻っているため、ここは一度通っている。
そして、これだけ大所帯だと見逃す方が難しい。
なら、
「盗賊に追跡されているのか………!?」
盗賊がわざとここに落とした可能性が高い。
「円陣防御!」
メニコウが叫び、それに応じた隊員達が円を組み、周囲を警戒する。
カラスはすぐさま飛び立って周りを見渡し、俺も耳を澄ませるが、何も聞こえな………
「ジャア!」
地面を向いて叫ぶ。
それに気づいた隊員達は、俺が何に吠えたかを察知し、即座に円陣の外へと退避した。
しかし、反応が遅れた数人と、気づかせるために少しの間留まった俺は、地下からの巨大な衝撃に吹き飛ばされた。
隊員の荷物と大量の砂がばら撒かれた空中で、時間がゆっくりになる感覚を味わう。
そして、この惨状を作り出した主は衝撃の中心にいた。
一言で言えばモササウルスだ。
しかし、ワニのような長い口の先は斧の刃のようになっており、砂の中を進みやすそうな形状をしていた。
「こいつは土竜じゃない!砂割竜だ!」
メニコウの叫びが遠くに聞こえる。
砂割竜は空中でゆっくりと方向転換し、砂中へと潜っていく。
しかし、その大きさゆえに、潜った跡には大穴が空いていた。
当然そこに砂が流れていくわけで。
「上がれー!」
隊員の一人が叫び、皆は一斉に上を目指す。
しかし、最初に吹き飛ばされていた隊員や俺はなすすべもなく穴へと落ちる。
落ちる瞬間、カラスが低空飛行で掴もうとしてくれたが、同じく落ちる寸前だったタモティナの方を掴んだ。
しかし、吹き飛ばされた荷物がカラスの背に直撃し、結局全員が流砂に飲み込まれる。
「ロープをどこかに掛けろ!早く上がれ!荷物はいい!とにかく上へ………!」
メニコウの叫びがどんどん遠くなっていき、俺の視界は穴の暗闇に埋め尽くされる。
最後、カラスの鳴き声が聞こえた気がしたが、大量の砂が流れる轟音でかき消され、俺の意識はゆっくりと落ちていった。
私は、母が好きだ。
少し鈍臭いところもあるが、私に愛をくれる。
生みの親でないことは、よく分かっている。
だからこそ、ここまで好きになれた。
なのに、それなのに、私は母を殺しかけた奴に惹かれている。
未遂とはいえ、そこには確かに殺意があり、母は傷つけられた。
母はもう気にしていないようだが、私はまだ引きずっている。というか、気にしない方がおかしい。
いつでも、報復することを考えている。
だが私は、それなのに私は、奴の方を掴んだ。
母を愛する気持ちが、全く別の知らない感情に塗り潰される。
それに名前を付けることは難しいし、付けたら永遠に消えなくなるかもしれなくて、怖い。
親を殺しかけた奴に惹かれる、異常で馬鹿げた未知なる感情。
………………………気持ち悪い。




