18、進んだ先
「よし、全員集まった。それでは、これからのことを決める会議を始める」
「これで全員………?」
貴族殿の中に作られた宿屋の広い一室で、ギンセイジュ団員が中央の大きい丸テーブルを囲んでいる。
しかし、その数は明らかに少なかった。
「まず、依頼達成のための調査隊から。ミルナ、ハザダの死亡を確認。テレリーノが行方不明だ。
次に、団家の待機組。マニク、ロネの死亡を確認。テメリ、セージディーが行方不明となっている。
現状、残る団員は全員で8人。ゲノンジー、パミメ、ジゲールの3人は治療を受けている。つまり、今動けるのはここにいる私こと団長ガノパ、副団長メニコウ、団員のヘルメールン、アスアサ、タモティナの5人のみだ」
団長はそう言いながら面々を見る。現状、4人しかいない団員、そして私の後ろで大人しくしている2匹のモンスターを。
これでは、治療中の団員が集まってもギンセイジュ団として活動できないだろう。
しかし、街中で建物一つを盛大に破壊するなど、何があったのか。
その問いに答えるように、団長がまた口を開いた。
「タモティナは帰ってきたばかりだから、今一度状況説明をしよう。
事態は、調査隊が出発して丸一日経った頃に起きた。
団家の周辺に黒ローブを着た不審者が複数人いるのが確認され、それを捕らえようとヘルメールンとアスアサが外に出た時だ。
何らかの魔法、目撃情報から風の宗教魔法と考えられるものが、団家の屋根に直撃した。
そこで、この団家を頑丈な木材で作ったのが災いした。屋根は魔法で壊れることなく膨大な衝撃を受け止めしまい、あのように半ばから折れてしまった。
そして、落下時の衝撃で倒壊した上部分が完全に崩れ、団家の上部分と下敷きになった民殿内の人間を押し潰した。
これが、我らギンセイジュ団家の崩壊の顛末だ」
団長がそう言い、部屋に重々しい空気が満ちる。
その空気を最初に打ち破ったのは、この空気を作り出した団長だった。
「こうジメジメしては何も始まらない。ということで、今後の活動方針を決める」
その声に副団長メニコウが手を挙げる。
「そのことなんだが、瓦礫の撤去は周嵐で遅れているものの数日以内には完了する見通しだ。なので、残った団員で第二次捜索隊を結成するのはどうかと考えている。テレリーノには、家族がいる」
ギンセイジュ団は私のような孤児や流浪人を雇っているが、たまに冒険者見習いが正式な冒険者になるために入団することがある。
テレリーノは正式な冒険者になった後もギンセイジュ団に残り、そして今回の依頼に参加した。
ギンセイジュ団はこの国の法に則り、彼、もしくは彼の遺品を家族に渡さなければならない。そして、ギンセイジュ団では、遺品は銀のネームプレートと定めている。
つまりは、彼が生きているにしろ死んでいるにしろ、必ず捜索しなければならない。
「確かに、そうだな。しかし、人員が圧倒的に不足している。団家を火事場泥棒から守るにも人がいる。第一次捜索隊は調査員が人手を出してくれたが、今度は出してくれないぞ」
「そ、そのことなんですが!」
突然、団員のものではない甲高い声が響く。
その声をたどって部屋の出入り口を見ると、白いローブを着た小柄な女性が少し震えながら立っていた。
灰色の短髪に浅黒い肌、小動物のように垂れ下がった長い耳を持つその女性は、団長の巨躯に怯えながらもピンとした声を張り上げる。
「わ、私はただの依頼人とはいえ、自分のために目の前で人が死ぬのを見て何も思わないほど冷酷ではないです!」
「そうは言ってもですねぇ………」
副団長がゆらりと女性の前に立つ。それだけで女性の震えが大きくなった。
「これは私たちの問題です。様々な依頼を受けている以上、どこかの恨みを買うのは当たり前です。それを、依頼人のせいにするのは我々への侮辱になります。つまりは、我々を庇わないでください」
「で、でも!」
圧を出す副団長の言葉に、女性はまだ果敢に言葉を紡ごうとする。
しかし、それより圧倒的に力強い副団長の声が遮った。
「でも、ではありません。強い言葉にはなりますが………………部外者が関わらないでいただきたい!」
ひっ!と小さな声を上げて女性が黙る。
だが、すぐに顔を上げて副団長を睨んだ。
「な、なら、それならこれでいいですか!」
女性はそう叫ぶと、懐から一枚の紙を取り出した。
その紙には、『行方不明者捜索の依頼』とデカデカと書かれており、冒険者ギルド公認の印も押してあった。
それを見た副団長が、苦虫を噛み潰したような顔になる。
「あの野郎、分かってて黙っていやがったな………」
私たちはギンセイジュ団であり、持ち込まれた依頼は断ったことがない。そして、それを誇りにしていた。
なら、この依頼書は断れるわけがない。
「………メニコウ、これは諦めるしかない。あいつの好意に甘えることにしよう」
団長がそう言うと、副団長は女性の前から引き下がる。
女性はそれにホッとすると、私に目を向けた。
「………タモティナさん、3日ぶり、でしょうか。ご無事で何よりです」
「………貴女も大丈夫そうで」
女性の名はニャテル。あの尖塔を調査するために私たちに護衛を依頼した依頼人。そして、盗賊と土竜の襲撃を受け、街へと撤退した。
メニコウから無事に帰還できたとは聞いていたが、元気な姿を見てようやく安心できた。
ニャテルは私から副団長へ視線を変える。
「報酬金は前払いです。これで人手を雇ってください」
ニャテルはそう言い、ずっしりとした皮袋をテーブルに置いた。
硬貨の額面や依頼書の報酬金は見えなかったが、行方不明者の捜索依頼としては明らかに多すぎる。
団長も同じ感想だったらしく、苦々しい表情になった。
「この量はさすがに………」
「こ、これのほとんどは、ギルドマスターからです!」
しかし、ニャテルの言葉に団長が閉口する。
もう、あの方の手の平の上なのだろうか。
「はあああぁぁ………………そうですか。まあ、想定内ではあります。それでいきましょう」
長い溜め息を吐いた団長は皮袋を受け取り、私達団員の方を向いた。
「ヘルメールンは団家の防衛、アスアサとタモティナは捜索隊に加える。テイムモンスターを活用してくれたら大いに助かる。追加の人員は追って知らせよう」
「は、はい、分かりました」
「アスアサ、拝命しました」
「………了解です」
団長の言葉に、私含め団員が応える。
しかし、テイムモンスターを活用してくれと言われたが、なぜついてきてくれるのか私自身分かっていない。
一応、カラスの方は指示をよく聞いてくれそうだが、サンドワームの方はあまり頭が良くない。本当に役立つかどうか………。
「メニコウ、すでに用意されているだろうから、冒険者ギルドに人手を受け取ってきてくれ。タモティナもテイムモンスターの正式認可をもらいにいった方がいい」
「分かった。あいつの思う通りに動くのは癪に触るが………」
副団長はぶつぶつ言いながらも部屋を出る。
私はそれに慌ててついていき、その後ろをカラスとサンドワームが追ってきた。
「なあ、なんであいつがいるんだ?」
「砂蛇って懐くのか?」
「いや、懐くとしてもテイムする意味がないだろ………」
白い民殿が立ち並び、白い布が通りを覆う街中で、疑惑と小さい敵意の視線が私に突き刺さる。
門で言われた通り、ギンセイジュ団の件以降、街が明らかにピリピリしていた。
「それだけじゃ、ないとは思うけどな」
隣を歩く副団長がそう耳打ちする。
今、私の後ろには成体のなったばかりの砂漠大鴉と、砂蛇ことサンドワームがついてきている。
砂漠大鴉は人に懐きやすく共生しやすいため受け入れやすいが、サンドワームは頻繁に船を襲うのでかなり恨まれやすい。
テイム証明書と隷属書を掲げていたとしても、サンドワームに対する黒い視線は遮られない。
「分かっていたが、かなり危ないことになっているな」
「そう、だね。治安が良かった分、揺り返しが大きい」
「あいつが危惧していた通りか………」
はあ………と副団長が溜め息を吐く。
その溜め息の原因はこの状況だけでなく、副団長が言う『あいつ』に会うために進んでいることも一因だろう。
やがて、一際大きい貴族殿が見えてきた。
両開きの大きな扉の上には、大きな看板に冒険者ギルドと書いている。
「分かっているとは思うが、どんな輩に絡まれても反応するな。街がこの状況なら、ギルド内は軽い地獄だろう」
「わ、分かった。でも、カラスとサンドワームは………」
「………まあ、大丈夫だろう。さすがにテイム証明書があるモンスターを傷つけることはないだろう」
副団長と頷き合い、大きな扉を押す。
少し軋みながら木造の扉が開いた。




