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え、あ、はい、ワームですよ?  作者: 素知らぬ語り部
踏み折られたギンセイジュ

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17/47

17、踏み折られたギンセイジュ






「ようやく戻ってきたぁ………」


 太陽が少し昇った頃、見上げるほど高い灰色の壁の下に着いた。

 この壁の向こうが、バルデルハラ街だ。


「門はもう少し右の方だ。帰還まであと少しだ」


「あづいっす〜。もっと冷却魔法使えないんすか〜?」


「そうですよ。あと少しなんだから、ドバドバ魔力使っちゃっても………」


「ダメだ。街周辺でも盗賊の被害が絶えない。不測の事態には常に備えろ。それに、冷却魔法が使うのは魔力だけじゃない。もうトロレインの砂はない」


 この地に雨をもたらすという塔と水の神トロレイン。冷却魔法は、そのトロレインの加護を受けた砂が必要になる。

 神との繋がりを利用して効果を高める、いわゆる宗教魔法というやつだ。


「あと少しなら、もういいだろう。ほら、門はもう見えてるぞ」


 調査員は素っ気なかったが、我らがギンセイジュ団の副団長であるメニコウは、文句を垂れる捜査団員の背中を押す。

 その先には、数人の門番が守っている小さな門があった。








「え?サンドワームはダメ?」


「ええまあ。ギンセイジュ団に助けてもらっているのは重々承知の上ですが、なにぶん街も混乱している最中でして。その中でさらにサンドワームを街中に入れるのはとても………」


 サンドワームを街中に入れようとするという前代未聞の所業を門番達は処理し切れず、しばらくして呼ばれてきた治安維持官にダメ出しを食らってしまった。


「どうしてもダメなのか?それとも、こいつが安全だと証明できればいいのか?」


 メニコウが端的に問う。それに対し治安維持官は少し悩んだ後、ゆっくりと頷いた。


「そうですね。とりあえず、口枷は必須として、テイム証明書も掲げてもらいましょうか。あとは首輪も着ければ、民達の混乱も少ないでしょう」


「テイム証明書はいいとして、他二つは専用の物が必要だぞ。今すぐ入ることはできないのか?」


 捜査団と調査員は私達の話が長くなりそうだと見るや否や、さっさと自分達だけ門をくぐってしまった。

 あの調査員が許可を出せば、私達もすぐ入れたのに………。


「そうだな………………では、隷属魔法はどうだ?」


「れ、隷属ですか?それならまあ、テイム証明書と隷属書を掲げるだけでいいと思いますが………………使えるんですか?」


 隷属魔法とは、力ある者が格下の者を支配する魔法だ。その特性上、奴隷に使うことが多く、使い手は忌避される傾向にある。

 メニコウは、それをバラしてまで私の意思を尊重してくれた。


「もちろん、私は国に許可をもらって習得している。使えるのは基本的なものだ。今ここでできるから、書類を準備してくれ」


「は、はい分かりました」


 治安維持官は門の中へ戻り、メニコウはサンドワームの目の前に立った。

 サンドワームは何も分かっていないようだが、そばにいるカラスがメニコウの前に立ちはだかる。

 サンドワームと比べ、カラスの方が頭が良い。メニコウが何をしようとしているのか察したのだろう。


「すまん。だが、こうでもしないと今日中に街に入れないぞ。どうするかは、君達で考えてくれ」


 カラスは迷うようにサンドワームを見るが、サンドワームはキョトンとしている。しかし、ある程度事情が分かったのか、カラスより前に出て、メニコウに頭を下げた。


「了解した。今から隷属魔法をかける。だが、正直言って、君と私とでは格があまり離れていない。かけている最中は動かずにいてほしいんだが………………伝えられるか?」


 メニコウがカラスにそう言い、カラスは身体を使ってサンドワームに伝える。

 始めは首を傾げていたサンドワームだったが、徐々に理解していき、蛇よりかは短い身体でとぐろを巻いた。

 それを確認したメニコウが、魔法を唱え始める。


「では、いくぞ。遥か底に住まう常闇の女神ラマノイアよ。かの者を我の隷属とし、従順な獣とせよ。『我に従え(ラマノイア・エグ)』」


 サンドワームの周りから黒い手が複数湧き出し、砂色の身体のあちこちを掴む。しかし、その手はすぐに萎れるように消えた。

 サンドワームは混乱しながらも大人しくその場に留まり、無事に隷属魔法が完了する。


「よし、これで終わった。あとは書類だが………………ちょうど良いな」


「は、はい、こちらがテイム証明書と隷属書になります。隷属書はメニコウさんが、テイム証明書はタマティナさんが書いてください」


 治安維持官が戻り、紙とペンを一枚ずつ私達に渡す。

 私が受け取った紙にはテイム証明に必要な項目が書かれており、一番下の欄に自分の名前を書いて治安維持官にペンとともに渡した。

 メニコウも隷属書とペンを渡すと、治安維持官はいつの間にか持っていた金具付きの革に書類を貼り付け、私に渡した。


「これをサンドワームに装着させてください。人目につくところでは絶対にこれを脱がせないでください」


「宿屋とかは脱がせても大丈夫?」


「まあ、大丈夫ですが、泊まらせてくれるところは少ないでしょうね………」


 確かに、砂漠での厄介な敵として知られるサンドワームを泊めるなど、宿屋は絶対に許さないだろう。

 となると、泊められるのは我がギンセイジュ団だけなのだが………。


「………まずは、団家を見た方が良いだろう。早くそれを着せて街に戻るぞ」


 メニコウの言葉通り、書類を貼った革をサンドワームに着せ、金具で留める。

 サンドワームは身体の動きが制限されるのが嫌らしく、少しの間ウネウネしていたが、諦めて大人しくなった。


「よし、これでいいな。じゃあ、街に入るぞ」


 先に進み始めたメニコウを追い、私も門の中へ入る。

 サンドワームとカラスも後を追ってきた。

 これで、ようやく街に帰れる………。














「聞いてたけど、予想以上………」


「これが、ギンセイジュ団本拠点の現在だ」


 遥か昔の水殿の街を利用して作られた『遥かな栄光(バルデルハラ)街』。

 白い一色でできた街にそびえ立つ我らがギンセイジュ団の黒い木塔は、まるで踏み折られたかのように半ばから崩壊していた。

 上半分は隣接する民殿を押し潰しており、多くの人々が撤去作業をしている。

 そして、そのすぐそばに、白い布がかけられた人々が横たわっていた。

 数にして、15人だろうか。瓦礫の下にまだ埋まっている可能性もある。


「………………確認できたのは?」


「下敷きになった宿屋にいたのが10人ほどで………………今はマニク、ロネの二名が確認されている。テメリとセージディーは………まだだ」


 マニク。私が大きくなった頃に入ってきたいけ好かない男。何回もちょっかいを出してくる奴だったが、何かと気にかけてくれた。

 ロネ。私の次に拾われたミルナと同じ頃に入った女性。人見知りすぎて、年下の私の前でさえ声が震えていた。だけど、よく薬を調合して、病気がちだったミルナの看病をしてくれた。

 テメリ。最近入った男で、野心家。よく団長とか副団長に文句を言って喧嘩していたが、今では日常的な光景になりつつあった。

 セージディー。私が拾われる前からいる女性。相当な年のはずなのにいつまでも若々しく、年齢の話になると露骨に圧が出る。私とミルナの面倒をよく見てくれた。


 付き合いの長さ、深さはあれど、みんなは大切な仲間だった。


 白い布で覆い隠された人々を見ていると、煮えた赫い激情が沸き上がってくる。

 そんな私に肩に、ポンと手が置かれた。

 驚いて振り向くと、老人一歩前なのに筋骨隆々の活気溢れる男性がいた。


「あ、え、団長!?」


「タモティナ、よく帰ってきてくれた。だが、その目はよろしくない。今は、遺った者達に目を向けなさい」


 団長の後ろには、数人のギンセイジュ団員がいた。

 こんな近くにいたというのに、死体にしか目が行っていなかった。


「そんなこと言うが、ガノパは救出された後に大泣きしていただろう。私がもう忘れたかとでも思ったか?」


「これはこれは、副団長は厳しいな。しかし、お前の言う通りだ。私はギンセイジュの団長なのに、皆の前で恥ずかしいものを見せてしまった」


「は、恥ずかしいなんて、そんな………!」


 メニコウの言葉に、団長が弱気になっている。こんなこと、初めて見る光景だ。

 ギンセイジュ団員も目を丸くして見ている。


「その話は一旦置いておいて、今は全員の確認からしよう。冒険者ギルドの支援を受け、近くの宿屋を貸し切っている。そこでこれからのことを話し合おう。そこのサンドワームとカラスも一緒に来ていい」


 団長はそう言い、団員を連れて歩き始めた。メニコウもそれについていくが、途中で私が方を振り返った。


「………右から2番目がロネ、その右隣がマニクだ。………………会議には遅れるな」


 メニコウは再び前を向いて歩き出す。

 私はそれとは反対を向いて死体安置場の前に跪いた。

 雨に濡れてしまったものもあるのか腐臭が漂ってくるが、それでも耐えて祈りを捧げる。

 そして、犯人どもを必ず握り潰すと、そう決意した。



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