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え、あ、はい、ワームですよ?  作者: 素知らぬ語り部
はじまり

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15/47

15、屍の軽さ






「や、やっと着いた………」


 いくら布で日陰を作っていたとはいえ、砂に反射する陽光で結局暑かった。

 しかし、ここまで歩いたおかげで、尖塔までたどり着くことができた。


 服を破って作った布を下げ、頭上を見上げる。

 雲一つない青空を切り裂くようにそびえ立つ焦茶色の塔。

 まだ少し遠くに見えるその塔は、表面が岩のようにゴツゴツしており、塔の形だが入り口はなく塔としての機能はない。


「あなたはいいね、砂の下に潜れて」


 私の言葉に応えるように近くの砂面が盛り上がり、そこから四つ顎のサンドワームの頭が現れた。

 その顎に一つずつ付いている目は私を見た後、尖塔の方を向く。

 サンドワームの顎には退化した目があるというのは聞いたことがあるが、開眼することもあるらしい。


「カア!カア!」


 空を飛んでいたカラスが急に鳴いた。

 この先で何か見つけたのだろうか。

 見つかったとしたら、それは………


「覚悟は、できてる、はず………」


 自信はないけど、見に行くしかない。

 みんながどんな姿になっていようとも、私は見る義務がある。












「焦げ臭い………」


 尖塔の真下には焼けた馬車やテントがそのまま残されており、周嵐によって鎮火された後でも異臭を放っていた。

 そして、黒炭になった誰かの死体も、いくつかその場に遺されていた。


 走って近寄り、足首を見る。隊員ならば、ここにネームプレートがあるはず。


「これは………………違う。盗賊のだ」


 全ての死体を確認したが、ネームプレートは一つもなく、着けていた痕跡もないため、全部盗賊の死体のようだ。

 一旦安心するが、私はこの目で仲間が死んだのを見ている。ということは、仲間が回収したか、盗賊の誰かが持っていったか、すでに砂原の栄養分となってしまったか。


 盗賊が持っていっていたら最悪だ。所属は分からなかったが、奴らに熾喰教しぐいきょうの息がかかっていたら、仲間が常熾とこしにされてしまう可能性がある。

 見殺しにした上で常熾にされてしまったら、私の居場所は消えるだろう。そんなことは絶対に避けたい。


「ん?盗賊の数が少ない………………盗賊と戦闘したまま撤退したみたい。なら、街の方向に行ってるはず………」


 足跡は周嵐によって消えているが、隊の規則では襲撃されると目標を保護しつつ、街まで撤退すると決められている。まだ追いつくことはできる。


 街の方向を確認して進もうとしたとき、何かが私の服を引っ張った。


「わあっ!?………って、サンドワーム?何かあった?」


 私の服を離したサンドワームは尻尾でどこかを指す。

 そこにあったのは、盗賊のものらしき薄汚れた革のリュックだった。


「何?なんか気になる臭いでもした?」


 サンドワームは私の言葉を無視するように砂原へ潜り、リュックを掴んで持ってきた。そして、中身を見ようと頭を突っ込むが、頭が大きすぎて入っていない。

 そこでサンドワームの意図に気づき、サンドワームの代わりにリュックの中身を取り出し、地面に並べていく。


「これは………投げナイフ。こっちは空っぽの薬瓶。これは食べかけのパン。これは砥石かな?これは………あれ、これは?」


 中身を取り出す途中、折り畳まれた小さな紙片があった。

 それを広げてみると、ミミズがのたくったような文字が一筆で書かれている。

 それには見覚えがあった。


「これ、アル・トランの暗号群!?なんで盗賊がこんなものを!?」


 アル・トランの暗号群とは、暗号解読のプロであるアル・トランが自ら考案した暗号のルールで、それに則ってさえすれば、誰でも解読が困難な暗号を作れるというものだ。

 そのため、これを知っているものは数少なく、私も見たことがあるだけでそのルールは知らない。

 だが、アル・トランの暗号群で唯一共通しているものがある。それが、このミミズがのたくったような文字だ。


「誰かが盗賊に漏らした………?いや、知っている誰かが盗賊になった可能性もあるか。とりあえず、持ってた方がいいはず」


 紙片をポケットの中にしまい、まだ何かあるかリュックを探る。

 しかし、出てきたのは何かの布切れや小綺麗な小石などのガラクタだけで、気になる物はなかった。


「まだ、まだ何かリュックない!?奴らの手がかりは何か………!」


 サンドワームに問いかけるも、首を傾げるばかりでこちらの意図を理解していない。

 その代わりとばかりにカラスが近づき、歩いて辺りを探し始める。

 しかし、このリュック以外は全て回収されたのか、もう見つけることはできなかった。


「………リュック探すのはもういいか。早く隊に追いつこう」


 手招きでカラスとサンドワームを呼び寄せ、布を上に広げて街へ歩き始める。

 そういえば、ジェスチャーならサンドワームに伝わるみたいだ。






























 見つからない方がいいと、心の底で思っていたのかもしれない。

 私の見間違いで、皆は無事に逃げ切っている。そう思いたかった。


 そんなこと、あるわけがないのに。


「あ、あ………」


 でも、それでも。


「な、んで………」


 どうして。


「あ゛あ゛あ゛ぁ゛………」


 君が。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛!!」


 倒れているの?


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