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え、あ、はい、ワームですよ?  作者: 素知らぬ語り部
はじまり

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14/48

14、砂漠で暮らす者







『貪食のサンドワームが子育てをするとは………』


 女性の手から光の葉が溢れ、俺の右ヒレに当たる。

 すると、血の流れが徐々に細くなり、傷が塞がっていく。


 あの後、女性は戦闘した詫びとしてか、俺の傷に魔法を使った。

 カラスは終始警戒していたが、女性は特に変な動きはせず、俺の傷を治すとすぐに離れた。


『わ、悪かったね、急に攻撃したりして。でも、こうして傷も治ったんだし、ね?過去のことは水に流して、前向いて歩こ?』


 何を言っているのかは分からない。分からないんだけども、妙に三下ムーブしてそうな感じなのは気のせいだろうか。

 一応、カラスを宥めて警戒態勢を解かせる。

 それを見た女性は、明らかにホッと安堵していた。どうやら、カラスと敵対しない、もしくはできない事情があるらしい。

 なら、俺とカラスの安全は確保されたも同然と言えるだろう。

 有用とは思われなくとも、敵対を解けたのは本当に僥倖だった。




 雲が立ち込めた暗い空に突き刺さるようにそびえる焦茶色の塔に閃光が落ち、数秒後に轟音を撒き散らす。

 風が強くなり始め、ぽつぽつと水滴も落ちてくるようになった。


『周嵐が来たか………………貴族殿は民殿オルアセス・バルミド司祭殿オルアセス・テンクラーと違って水周りの設備が完備されてるから、中に入れば濡れることはないはず。穴がなければ、だけどね』


 女性が何か言い、建造物の中へと入っていく。

 俺達もそれについていくが、カラスはまだ女性を警戒しているらしく、時折り女性を睨んでいる。

 戦闘前は割と仲良かったように見えたが、そこのところの感情はどうなっているのだろうか。



 やがて、風がさらに強くなり、建造物の中の草を大きく揺らす。

 夜でないにもかかわらず徐々に空が暗くなり、遠くから響く轟音の間隔も短くなってきた。

 建造物を叩く雨音が次第に強くなり、天井の隙間から入ってくる。


『本格的になってきた………………破損が少ない中心の方に行きましょう』


 女性の手招きに応じて、天井に穴が空いていない中心部へ移動する。

 中心には風は入ってくるものの水滴は落ちて来ず、崩れた壁で風除けを作ると寒さも感じなくなった。


『これでよし。えっと………お願いだから、気が変わって噛んでこないでね?』


 女性が俺に対して何か言うが、やはり意味を理解できない。

 どことなく日本の発音に近い感じがするが、"るねほりゆけせていとむ"みたいに、発音は分かっても意味が分からない。

 カラスは若干分かっているのか、女性の言葉に色々と反応する。カラスは人間の子ども並みの知能を持つと言うし、もしかしたら俺より賢いのかもしれない。

 ただ、女性が俺を攻撃したからか、最初は女性に興味を持っていたはずのカラスは、俺のそばでずっと女性を警戒している。

 少し過保護気味とは思うが、まあカラスの気の済むようにしていた方が良いだろう。


 そうこうしているうちに、雨雲が完全に空を覆い、光源が消えた。

 かと思えば、女性があの赤い石で地面にあるツタに火をつけ、中心部だけに明かりが灯る。


『やっぱり、這蔦はいつたはよく燃えてくれる。これだけ繁殖してるなら、周嵐を乗り切るのに十分』


 さほど大きくないが、それでも十分な光と熱を放つ火は、ユラユラと揺れてガラス球を照らす。

 それを一人と二匹でじっと見ていると全員がうつらうつらし始め、遠雷の轟音が鳴り響く中、目を閉じていった。








 ツタが燃え尽きて灰になった頃、カラスの苦しそうな声で目が覚めた。

 すぐ隣を見てみると、明かりのない暗闇の中、カラスが呻いて倒れているのがかろうじて見えた。

 何か改善できないか行動しようとするも、そもそもなぜ苦しんでいるのか分からない。

 とりあえず外傷がないか確認するが、鳥特有の深い羽毛でよく分からなかった。

 そこでようやく、昨日カラスが食べた物を思い出す。カラスは確か、カエルを食べていたはずだ。つまりは、毒だ。


「………………………」


 毒ということは、俺にできることはない。

 だが、女性なら、毒消しの作り方を知っているかもしれない。

 寝息の聞こえる女性を揺さぶり、目を覚まさせる。


『な、なにぃ………?』


 寝惚けたような声が聞こえ、女性が起きた。

 尻尾でその女性の手を引き、カラスに近づける。


『ぅん………?か、カラス?大丈夫!?』


 カラスの呻き声が聞こえたらしく、女性はすぐにカラスの身体を触る。

 しかし、俺が何も見つけられなかったように、女性も手を離した。


『毒?でも、ここら辺の毒性生物ってあの害虫だけだし………………あ、もしかして?』


 女性が何か思いついたらしく、また火が灯される。

 揺れる光に照らされたカラスの体表には砂色の斑模様が出現しており、その斑はじわじわと元の漆黒を侵蝕していた。


『………うん、予想通り。この子、初めての周嵐だったんだね。今は大人になってる途中だから、心配しなくても大丈夫だよ』


 女性が俺に向けて優しく何か言う。

 だが、俺はそれを理解できない。女性が焦っていないので深刻な状況ではないとは思うが、それでも心配なものは心配だ。

 それに、女性にとって焦るべきでない状況であるだけの可能性だってある。

 しかし、俺には何もできない。


 結局、女性は再び眠りの体勢に入り、豪雨が屋根を打つ音と遠雷、そしてカラスの声だけが建造物の中に響く。

 俺はしばらくうろちょろした後、無意味と分かりつつもカラスの頭を撫で続ける。

 やがて雨音が消えて光が差し込んでも、カラスの呻き声が聞こえなくなっても。


『ん、んん………………あれ、ずっとそうしてたの………?』


 目を擦りながら起きた女性の声で、夢に入りかけていた意識が引き戻される。

 そしてカラスの声が聞こえないことに気づき、慌ててカラスの方を見た。


「ジャ、ジャア………?」


 幸いカラスの胸は上下しているが、暗闇に紛れるような漆黒が全て砂色に変色していた。


『砂漠大鴉はある程度成長した後、周嵐の厳しい寒さの中で体力を消費しながら変色して大人になる。自然界で強者を選別する方法だけど、ここまで成長していて建物に守られていたら、確実に大人になれるね』


 女性が何か喋りながらカラスの頭を撫でる。

 すると、その感触で起きたのか、カラスが目を覚ました。


「カ、カア………?」


 カラスはふらふらとしつつも、しっかりと立つ。

 そして、自分の体色に特に驚くことなく、羽繕いし始めた。

 この様子だと、毒ではなく何かしら種族的なものらしい。本当に大丈夫そうだ。

 そういえば、親カラスの体色は見たことがない。もしかすると、カラスは砂色が本来の体色なのかもしれない。


 元気そうなカラスを見ていると、安堵を得ると共に大きい眠気が襲いかかってきた。

 俺はそれに抵抗することができず、気絶するように目を閉じた。












 強い風の音と身体が揺れる感覚で目を覚ます。

 眼下では肌色に光る砂漠が猛烈なスピードで流れており、何度か見た光景で完全に脳が覚醒した。

 上を見ると、砂漠と同じ色のカラスが俺を掴んでおり、ゆっくりと旋回している。

 その旋回の中心を見てみると、女性が布を頭上に広げて影を作りながら歩いていた。


「カア?カア、カア!」


 俺が目覚めたのに気づいたカラスがゆっくりと降下し、地上に俺を降ろす。そこに女性が近づいてきた。


『一応、ついて来なくていいって言ったんだけどね。人間についてくって、どういう教育したの?』


 女性が不思議そうに俺を見るが、俺としては肩を竦めるしかない。今の俺に肩はないが。

 状況を考えるに、どこかへ行こうとした女性に、カラスが俺を抱えて勝手についていったのだろう。

 なぜカラスがそんなことをしたのか分からないが、俺としてもヒトの側につくつもりだったので、その思惑を拾ってくれたのかもしれない。


『あれ、カラスはまだ私を警戒してる?まあ、危うく親殺ししそうになったし………………じゃ、私は離れておくね』


 女性が離れた後、カラスはまた飛び立ち、上空を旋回し始める。

 俺も砂に潜り、女性の足音にを追って進み始めた。


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