第三話 物語
皆さまどうも。第三話です。執筆速度が亀です。申し訳ございませぬ。ちょっとこの言い伝えを入れたかったがための図書館回です。図書館にしたのは作者が本好きだからです。見切り発車しすぎて次の展開が思いつかないという初心者あるあるを今現在体感しています。はてさて、このシリーズはちゃんと終わるのか。では本編どうぞ。
その後、私たちは午後のダイビングを中止にして、陸に戻ってきた。それから、私の海のように青い目を病院で見てもらった。けれど、まるで元から私の虹彩は青だったかのような結果しか出なかった。ただ青いだけで特に問題はないらしいので、とりあえずこの目はそのままにして、私とやよい先輩、水無月くんは市立図書館に向かった。何か情報がないか探すために。
図書館に着いてからは、手分けをしてひたすらに白浜市に関連する海の記事、本を読み漁った。けれど、どれも核心を突くようなことは書かれていない。日も暮れかけてきて、さすがにそろそろ帰ろうか、と思ったその時だった。視界の端に、白い何かがちらついた。慌ててそれに視線を向けると、それは純白のクラゲだった。よく見るとそのクラゲは、私が幼いころによく行っていた市内の水族館にいたクラゲに酷似している。あのクラゲの名前は確か、「カラージェリーフィッシュ」。その柔らかそうな姿がひどく懐かしい。小さなころはおいしそうだなんて思っていたっけ。
……いや、そうじゃない。落ちつけ私。そもそも、こんなところにクラゲがいるはずがない。だって、ここ、陸だし。もしかして、あの白い生き物たちに何か関係あるかも。
少なくとも、このクラゲが現実にあるものではないと仮定して、私はクラゲをじっと眺める。おっといけない、観察癖が。
しばらくすると、クラゲは一定の速度でふよふよと移動し始めた。何も考えずについていくと、曲がり角を曲がった先に、とある本にすりすりと頬ずりするクラゲの姿。それに惹かれるように、私はその本を手に取る。ぱらり、とめくって、目を疑った。どれだけ探しても見つからなかった夢幻鯨に関する記述が、そこに鎮座していた。
【 夢幻鯨と彼らの歌について □□ □
夢幻鯨は、一見すると真っ白なシロナガスクジラだ。けれど、その姿は安定せず、一定の期間で身体を造り変える。そのため、とても大きくなっているときは造り変えの時期が近い印である。期間は半年弱。また、造り変えの初期段階では夢幻鯨は姿を見せない。水中のどこかである程度身体を育たせてから、またふらりと浅瀬に現れ、歌を歌う。たいていの人間はその歌のあまりの神々しさにあてられ、歌のフレーズ以外は憶えていられない。けれど、ある体質を持った者だけは、彼らの姿と、住処を記憶することが出来る。その体質とは■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■。そのため、歌以外も記憶することが出来た人間を選別するために、夢幻鯨は選ばれし者に見えざるものを見せる青い瞳を与える。そう遠くない昔はその青い瞳を凶兆と捉え、青い瞳を持つ者は隔離され、監禁され、自由を奪われた。その青い瞳で夢を、幻を見たまま、その命を終えていったとされている。現在ではそういった風潮は消えてきているが、未だその言い伝えが残っている地域も存在する。特に、■■市の南部はその風潮が強い傾向にある。もし青い瞳を得たならば、■■市南部には近づかないことをお勧めする。 】
一部の箇所は黒く塗りつぶされていて読むことが出来なかったけれど、収穫はあった。例の夢幻鯨とやらの生態、青く染まった私の目。最低限の知りたいことは知れた、と思う。あたりを見渡すと、あのクラゲはもうどこにも見えなかった。けれど、どうやら私をこの本があるところまで案内してくれていたらしい。
「……ありがとう、クラゲさん」
零れたひとりごとは、西日に反射して消えた。
それから私はやよい先輩と水無月くんと合流してその本を見せた。どうやら二人は目立った情報は手に入れられなかったらしい。私が持ってきた本を見て目を丸くしていた。
「……じゃあ、澪ちゃんのその目って、何か特別なものが見えるってこと?うーん、すごいけど……良いことなのか、悪いことなのか。澪ちゃんはそれでいいの?」
やよい先輩は少しずれた飴色の眼鏡をもとの位置まで戻し、私にそう言った。
「まあ、昔は青い目を持った人は迫害されていたみたいですけど、今はそうじゃないし……そこまで不便も感じないので、私は大丈夫ですよ」
やよい先輩マジ神。優しすぎる。嫁に貰いたい。だなんて戯言が一瞬頭の中を駆け巡ったような気もするが、いったんそれは置いておく。
それから私たちは解散して、各々帰路についた。私の家には基本親がいない。二人とも県外で忙しく仕事をしていて、生活は私ひとりで何とかしている。お金は月一でちゃんと送られてくるので特に苦労はしていない。強いて言えば、自炊が少々面倒なのは難点だけど。誰もいない自宅に向かって帰宅を告げた私は、本能のままにベッドに倒れこんだ。柔らかな柔軟剤の香りと大好きなお布団のおかげで、怒涛のびっくりの連続で疲れた心が癒されていく。少し安心したら眠くなってきた。もうこのまま寝てしまおうか。いや、でも制服のままだし、スカートとか皺がついたら面倒……。うむむむ…………ぐぅ。
余談ですが、リアルの友人が澪ちゃんの絵を描いてくれました。嬉しすぎる。そのうちキャラデザとキャラ紹介も出したいです(願望)