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海へ(仮)  作者: 雨水 音
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第二話 夢幻

皆さまどうも。お久しぶりです(?)、雨水音です。

今回は物語が進む中でかなり大切なことが多く描写されていると思います。彼らの歌については、また詳しくやろうと思っています。やりたいとは思っています。文章力がありません。

誤字脱字等あれば、教えてもらえると幸いです。また、感想などもらえると泣いて喜ぶのでよろしくお願いします。


唐突に、空気が変わった。海中にいるのに、空気が変わったと感じるのは、一体何故なのだろう。海中に音が鳴り響いた。それは、歌のようだった。クジラの歌だ。歌っているのは、純白のシロナガスクジラ。湧き上がる感動で体が震えた。たぶん、もし陸にいたなら吐息と一緒に声も漏れ出ていたと思う。それぐらい、美しい。ただ、私は心を奪われた。ずっと見ていたい、聞いていたいと思っていた。


己の体が、勝手に動いていることにすら、気が付かないままに。


 もっと。もっと。聞きたい。知りたい。頭の中に、もう自制心なんてなかった。ただ自分の知識欲を満たすことだけを、脳が勝手に思考する。古びた遺跡の一部に私の右手が触れる、そのコンマ数秒前。だらりとぶら下がっていた私の左手を誰かが強く掴んだ。ハッとして振り向く。するとそこには、隣のクラスの男の子——水無月雫(みなづきしずく)——がいた。焦っているような、そんな顔をしている。どうしたのだろう、と目を瞬かせると、水無月くんは、私が先ほどまで触れようとしていたほうを指さしている。その指を追うように視線を移動させて、……息をのんだ。何も、なかった。そこには、澄んだ海水が存在している、それだけだった。手が震えてくる。限界を知らずに膨らみ続け、熱を持っていた知識欲が、氷水で冷やされたように冷たくなっていく。

 ……嘘、でしょ?そんな、ことって。おかしい。さっきまで私は、遺跡に。そこには、白い生き物たちが。

 幻想から抜け出せないまま、私は呆然とする。あまりにも大きい衝撃だった。あの美しい歌の残響がまだ私の耳の奥に響いていて、他の音は何も聞こえなかった。あの景色が脳裏にこびりついて、他の景色は何も見えなかった。あまり覚えていないけれど私はたぶん、水無月くんに引きずられて船に戻った。

船に戻ると、温かい何かを誰かに飲まされて、私は少しだけ落ち着きを取り戻した。口の中は、お味噌汁の味がした。すると、あの歌が響き続けて他の音が遮断されていた私の鼓膜が、ゆっくりと他の音を拾い始めた。

「……ちゃ……き……ぇる?……」

 やよい先輩の声だ。そう思うと、 周りの景色が徐々に見えてきた。海水で濡れた前髪が私の視界を隠しているけれど、その合間から心配そうなやよい先輩の顔が見える。そういえば、誰かの少し硬い手が、私の背をさすっている。

 「……ちゃん、……澪ちゃん!」

 「ぁ……やよい、せんぱい」

 私の喉から、聞いたこともないような掠れた声が出た。

 「よかった、澪ちゃん……!目は合わないし、声をかけても反応しないんだもん、心配したんだよ……」

 やや潤んだやよい先輩の瞳が、しっかりと私を捉えている。

 「しんぱい、かけて、すみません……」

 ガラガラの声でそう言うと、やよい先輩は気が抜けたのか、大きく息を吐いて、その場にぐでっと座り込んだ。

 「……それより、皐月さん、その目……」

 背後からあまり聞き覚えのない声。振り向くと、そこには水無月くんがいた。この声は、水無月くんのものだったか。そういえば、部活の自己紹介のときに聞いた声がこんな感じだった気がする。ところで、目?私の目がどうかしたのだろうか。

 「目、青くなってる……」

 耳を疑った。青?私は混じりっ気のない日本人だ。外国人じゃあるまいし、目が青いなんて、そんなわけ。手鏡を渡されて覗き込むと。

 あの遺跡の周りの海水のような、異常に澄んだ青が、確かにそこにあった。

 「……はぇ?」

 口をついて出るのは、そんな間抜けな声。私の自慢の漆黒の瞳は、海色に染まっていた。

 それからややあって、私は部員の皆に私が体験した出来事をたどたどしいながらも、かすれた声で伝えた。白い生き物たち。古びた遺跡。それ以外のすべてが遮断されるようなほどの美しいクジラの歌。思い出すだけであの熱量がぶり返すような、そんな気がした。

「澪ちゃん、それ「夢幻鯨(むげんくじら)」だよ」

「むげんくじら?」

私はやよい先輩の発した言葉を復唱した。むげんくじら、とな。

「なんですか、それ」

「えっとね……いわゆる、この地域に伝わる都市伝説、みたいなものかな。雫くん、こういうのは君のほうが詳しいんじゃない?」

やよい先輩が水無月くんに話を振ると、水無月くんは、一度目を見開いて、そのあと軽くため息をついた。

「……俺が知ってるのは、断片的な情報ですけど。それでもいいなら」

 そう前置きをした水無月くんは、語る。私たちの運命を紡ぐ物語を。



【 昔々、この地「白浜」には、とても大きなクジラがいた。そのクジラは、白いクジラだった。周りに同じように白い生き物を侍らせて、悠々と泳ぎ、歌う。その幻惑の歌を聴いた者だけが、古ぼけた海中の遺跡に入ることが出来る。そこは、現実と夢や幻の間に存在する遺跡。そこから名前をとって、白いクジラは「夢幻鯨」と名付けられた。しかし、段々と地球の環境が破壊されていく過程で、いつしか夢幻鯨は姿を見せなくなった。もしも、海の中で歌が聴こえたら、すぐに耳を塞ぎなさい。そうでなければ、クジラの歌に、海に、狂わされてしまうから—— 】



 水無月くんが語った物語は、私が見たあの白い生き物たちの楽園と一致していた。

「それじゃあ、私が見たあれは……」

「ほぼ夢幻鯨で間違いないと思う。皐月さん、聴いたんだね?あの歌」

 私は頷いた。すると、水無月くんはそう、とだけ言って、話すことを辞めた。ところで、「あの歌」って言っていたけれど、水無月くんもこの歌を知っているのだろうか。

 「とりあえず、澪ちゃんのその「目」は、歌を聴いた証、ってことなのかな。それより、その都市伝説の終わりの脅し文句、ホントに怖いよね。狂う、か……澪ちゃん、絶対狂わないでね⁉」

 やよい先輩、私はもともと海狂いですけど、という言葉はのみ込み、私はとりあえず気を付けます、とだけ返した。クジラの歌に狂わされる。その言葉は、案外間違いではないかもしれない。あの歌のリズムが、今も頭に、心に染みついて離れない。切なげな音が、声が、私の心をどうしようもなく揺さぶったから。


そんなにも美しい歌を聴いて狂うことが出来るなら、それでよかったのに。澪ちゃんは少しだけそう思っていると思います。

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