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海へ(仮)  作者: 雨水 音
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第一話 楽園

皆さまどうも。本編本格始動です。澪ちゃんは、どうやら不思議なものに出会うみたいですね。いいなあ。実は私は、澪ちゃんと同じようにかつて海ヲタクだった過去を持ちます。今でも海への渇望はあります。こんな体験が出来たらよかったな、という願いを、物語に。

では本編どうぞ。

 ダイビングスーツに着替えた私たちは船に乗り、今日の目的のポイントに向かった。どうやら、水深が浅く、なおかつ様々な生き物がいる、素晴らしいポイントなのだそうだ。でも、なぜか私の頭の中には、さっきの白い何かがちらついていて、顧問や先輩の話がどうにも頭に入ってこない。白い何かは、尾ひれのように見えた。白い尾ひれ、とな。

 自慢じゃないが、私はそこそこ海への知識があるほうだと思っている。このあたりにいる魚や海洋生物はざっくりではあるけれど把握しているつもりだ。けれど、私の知識のデータベースの中に、あんな生き物は存在しない。新種だろうか?だとしたら大発見だ。ぜひもう一度お目にかかりたい。そしてよく観察して生態を調べたい。あわよくば家で飼いたい。名前はどうしようか。白いから「シロ」?それとも「おもち」?それとも……?

 「……澪ちゃん!ちょっと、澪ちゃん‼聞いてた?」

 やよい先輩の声で私は思考の海から引きずり出された。

 「あ、すみません。ちょっと考え事をしていました。なんでしたっけ?」

 「全く……、今日はお昼は船で食べるから、十二時までには一回船に戻ってくること!なるべく遠く、深くには行かないこと!万が一、迷子になったらすぐに連絡すること!いい?澪ちゃんは海のことになると急に猪突猛進ガールになっちゃうから、先輩は心配なんだよ……」

 やよい先輩はやや大げさに肩をすくめた。何もそこまで言わなくても。確かに、体験入部期間に私は様々なことをやらかしたけれど、それにしても言いすぎだ。これでも私は常識人ポジションのはずなのに。

 さて、いよいよ船が止まり、ダイビングが始まる。

 「それじゃあ、みんな、色々なことに気を付けつつ、楽しんで!」

 やよい先輩の号令で、部員たちが一斉に潜りだした。私も行こうっと。

 ドボン、と私が水中に落ちる音がする。そこから、水泡の音が私の鼓膜に響きはじめた。この空間と音が、私は大好きだ。

目を開ければ、もうそこは私の楽園。岩場にはカラフルな海綿が張り付いている。私の真上を中くらいの大きさの熱帯魚が通り過ぎていく。

(あれはなんていう魚だったっけ。あ、ウミウシもいる。綺麗だなあ。うわ、ハリセンボンだ。触ってみたいけど、やよい先輩に怒られちゃうかな……)

たくさんの生き物に囲まれている。ただそれだけだけど、私は最高の幸せを感じていた。ああ、ここは天国かもしれない。ありがとう、神様。などと、考え始めた、その時だった。

視界の端に、白い何かが映ったのだ。

思わず振り向いて見れば、それは、ベルーガだった。私は混乱した。だって、ベルーガはこんなところにいるはずがない生き物だから。普通なら北極海近辺に生息しているはずなのだから。

そして、その周りにいる生き物を見て、私はさらに戸惑った。白いメンダコがいたのだ。いや、まあ生物学的にアルビノ種として可能性がないわけではないけれども、それにしてもこんな浅瀬にいるのはおかしい。すぐに弱ってしまうはずなのに、元気にベルーガの周りをふわふわと泳いでいる。ぴこぴこと動く耳のようなヒレが可愛らしい。無理、可愛すぎる。可愛すぎてもはや犯罪。ああ好き、尊い。神か女神か天使かな?

……いやいやいや、そうじゃなくって‼あまりの可愛さに悶絶している場合ではない。こんな滅多にありえない状況、やよい先輩たちに知らせなくてどうする‼ダイビング部は基本的に海好き、魚好き、生き物好きの集いだ。だからこそ、この状況を共有して語りたい!   

防水パックに入れたスマホを取り出そうとした、その瞬間。私の目の前に、白いメンダコが出現した。先ほどまでいた場所から、ここまで、一瞬で。そして、白いメンダコは私にさらに近づいてきた。目が合った、気がする。数秒の沈黙。

白いメンダコは、しばらくその場に留まって私を見ていたけれど、ふいにまたふわふわと泳ぎだした。何故だか私は、追いかけてみようという気になった。ついてこい、と言われているような気がしたのだ。

白いメンダコとベルーガは、私が付いて来ているのを知ってか知らずか、のんびりゆっくりと泳いでいる。まるで午後の散歩を楽しむ人間のようなリラックスした状態に見えた。その様子がまた魅力的で、私は、私の知識欲がどんどんと膨らんでいくのを感じていた。

……もっと知りたい。もっと知りたい!この生き物たちがどんな生活をしているのか、どんな毎日を過ごしているのか、絶対に知りたい!

こうなったら意地でも彼ら(彼女らかも?)を追いかけたい。そう、思った、その瞬間だった。眼前に広がる景色に、私は息をのんだ。

……なに、これ。遺跡……?

石造りで苔塗れ、どう見ても大昔の建造物であることが確定している遺跡が、私の視界いっぱいに映っていた。陽の光が差し込んで、まるでそこが神殿かのように感じられる。ただそこに存在するだけで神々しさを放っているというのに、更に神々しさを加速させる要素があった。

それは周りを漂う生き物たちだった。おかしいのだ。いるはずのない生き物たちが、悠々と泳いでいるのだ。それもすべて、真っ白な生き物が。

例えば、ニシオンデンザメ。寒い地域の深海を主な生息地としているはずの彼ら。けれど、ここは日本だし、どう考えてもここは深海ではない。ゆっくりと、ゆっくりと泳ぐ白きその姿は、神の使いを思わせる。

例えば、ジンベエザメ。色素が抜けたその巨大な身体(からだ)には、これまた真っ白なコバンザメが張り付いている。日本近海にもいることにはいるが、こんな沿岸に、しかも浅瀬で、超巨大な個体はなかなかお目にかかれない。

例えば、シロナガスクジラ。地球一とされるその巨体は、これまで私が見てきた「白」という概念がすべて嘘なのではないかというくらい、純白で。自然界に生きているとは思えないくらい、洗練されていて、綺麗な身体(からだ)だった。

私は、圧倒された。圧倒なんて、そんな言葉で表してはいけないかもしれない。この場所は、この生き物たちは、自然の神秘だ。

私は今、白き生き物たちの楽園にいる。

それからしばらくして、「それ」は始まる。私の、この夏の物語が開始する合図として。


澪ちゃんいいなあ。羨ましいなあ。などと思いながら書きました。基本執筆スピードが亀の歩みなのですが、なぜか本作は筆が進みます。かといって毎日更新できるとは思えないので(おい)、生暖かく見守ってください。

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