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【完結済】生まれ変わっても一緒にいるとか言ってません!  作者: 紫藤しと
第一章 魔女の純情
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8.久しぶりの食事

 目が覚めると師匠がキセル煙草を吸っていた。


「今日は元気そうですね・・・」


 欠伸をしながら起き上がると師匠は笑った。


「まあね。ところでそこの魔石はどうするんだい? せっかく作ったのに。」


 師匠は部屋の隅に積まれている魔石を指さした。練習と暇つぶしで私が中身を詰めた魔石だ。


「なんか、あいつらムカつくんで渡したくないです。」


「ふーん? まあ好きにするがいいさ。」


 師匠はにやにやしながら煙草の煙を吐き出した。


「・・・それ、煙草っておいしいですか?」


「うまいよ。もう数がないからやらんけど。ああちょうどいい、これの材料取ってきておくれよ。」


「どこにあるんです?」


「知らん。昔生えてた所は枯れたからね・・・天使なら知ってるんだろうけど。」


「天使ってどこにいるんです?」


「さあね、王都か自分のところの領地か・・・」


「え? 天使って貴族なんですか?」


「この国の大貴族だよ。ドーナー家って聞いたことないかい? そこの領主だよ。」


 知ってる。たぶんこの国で一番有名な貴族だ。大金持ちで、美形で、国一強いといわれる男。


「アダール・ドーナーでしたっけ? 金持ちのくせに天使だなんてムカつきますね。天使だから金持ちなんですか?」


「知らないよ。あんたちょっと行って葉っぱが生えてる場所聞き出してきておくれ。」


「はあ・・・いきなり行って会える人じゃなさそうですが・・・」


 ドーナー家の噂は聞いても実際に人は見たことがない。私がでていたパーティなんかにはこなかった、つまり私を買おうとしていた貴族なんかとはランクが違うってことだ。平民がいきなり訪ねて行っても取り次いでさえもらえないだろう。


「そうかい? まあ放っておいても向こうからくるだろうけどね。」


 師匠は名残惜しそうに煙草を置いた。


「それよりあんたはいいかげん食事を取った方がいいね。金ならやるから行ってきなさい。」


「それが全然おなか空かないんですよねー。もう数日食べてない気がするんですけど。」


「ここは私が色々してるからね、外の世界ではもう一ヵ月近く経ってるよ。このままだとあんたはここでしか生きていけなくなる。早く行きなさい。」


 1か月!? 確かに時間の感覚が消える部屋だけど、私何日寝てたの!?


「えーっと・・・どこ行けばいいんでしたっけ?」


「私が昔よく行ってたのはここだね・・・ネコの町だ。」


 師匠が古そうな地図を持ってきて指さした。この領地と王都の間の真ん中辺りにあるらしい。

「ネコの領主なら知ってます。スケベそうなおっさんでした。私を見て好みじゃないって言いやがりましたので嫌いです。」


「そうかい。交通の要所で常に旅人が行きかう所だから多少怪しくても大丈夫な町だよ・・・昔はね。一人で行けるかい?」


 ネコの町はここに来る途中で一泊した。宿代をケチったのか広場近くの小さな宿屋に泊まったが、酔っ払いが一晩中うるさくて眠れなかったことを覚えている。ほぼ通り過ぎただけだが、確かに大きな町だった。


「場所がわかったので多分・・・路地裏にでも移動したらいいんですかね? いきなり人が現れたらびっくりされません?」


「お勧めは広場だよ。こう、しゃがんだ状態で移動して、5分ぐらいじっと動かずに同じ姿勢で待つんだ。それでまあ、なんとかなったよ、私はね。」


 この婆さん結構適当だよな。全部感覚で喋ってる・・・けどわかる。私も感覚で生きてるから。


「りょーかいです。ちなみに今の外の時間ってわかります?」


「午前中じゃないかね。」


「ちょうど良さそうですね。じゃあ行ってきます。」


 師匠に渡された小袋を首から下げた。中には小銭が沢山入っていた。


 目を閉じて地図と、以前見た広場の雰囲気を思い出す・・・いける。


 ヒュン


 周りの空気が変わった。薄目を開けると私は広場にいた。色んな人の話し声と足音が聞こえる。どうやら成功したようだ。


「やっぱ私って天才じゃない?」


 呟きながら体を確認したが、別に何も変わってないようだった。足だけを向こうに置き忘れたということもない。


 私は周りに人気が減ったタイミングで立ち上がった。すでに辺りのお店からは美味しそうな匂いが流れてくる。久しぶりにお腹が空いた。師匠によれば一ヵ月ぐらい水しか飲んでいないようなので無理もない。


 ウキウキしながら店を覗いていると、威勢のいいお兄さんに声をかけられた。


「いらっしゃい! うちの卵料理は絶品だよ。寄ってかない?」


 ほう・・・想像しただけで旨そうだ。私は迷わず店へと入った。お兄さんも後からついてくる。


「この時間はオムレツだけだけどいいよな? マジで旨いから!」


「じゃあそれで。」


 注文するとお兄さんは厨房に入って料理を作り始めた。他の店員も客もいない。私がキョロキョロしているとお兄さんは笑った。


「おねーさん、旅の人?」


「まあね。」


「心配しなくても俺の料理は旨いから大丈夫。おねーさんが可愛いからちょっと早めに店開けただけだよ。もうじきわんさか客来るから。」


 調子のいい店員だ。だが運ばれてきたオムレツは物凄く美味しかった。


「おいしい・・・」


「だろっ!?」


 お兄さんはドヤ顔で笑った。


「俺と結婚したら毎日食べられるよー?」


 ニヤニヤ笑う顔を見ながらそれでもいいかもと思う。歳もあまり変わらなさそうだし、そこそこ爽やかな顔してるし。


「いいよ。」


 お兄さんは一瞬驚いた顔をしたが、すぐに笑った。


「嬉しいな、また来てね。」


 そして厨房に引っ込んでしまった。冗談なのか・・・このオムレツは毎日でも食べたいのに。


 一人で食べていると後からどんどん客や店員らしき人がきて、あっという間に狭い店は満員になった。お金を払って店を出る。お兄さんは忙しいらしくこちらを見てもくれなかった。なんだつまらない。


 外に出ると太陽が眩しすぎて眩暈がした。そう言えばまともに陽の光を浴びるの久しぶりだもんなあ。


 明るい場所で改めて自分の体を見ると、なんだか服が薄汚れている気がした。師匠からもらったのでお金はある。私は新しい服を買うことにした。これから暑くなりそうだし、夏服が必要だろう。


 人ごみに紛れながら私はいくつもの店を覗いた。本当にこの町は人が多い。だが通りを歩いている人のほとんどが旅人のようなので気が楽だった。私は地味すぎず派手過ぎないワンピースを二枚買った。半袖のと袖なしのと。これだけあれば夏は十分だろう。


 服が入った袋を持ちながらどんどん町の外れにむかった。途中から二人組の男が後ろをついてきた。めんどくせー。


 私はわざと道を逸れて木の陰に入ってから振り返った。男たちはニヤニヤ笑いながら近づいてきた。


「わかってんじゃねか。」


「大人しくすりゃ・・・」


 別に会話をするつもりはなかったので、男たちの目の前で消えてやった。驚くところが見られなかったのは残念だが仕方ない。


 師匠の部屋は出た時と何も変わっていなかった。


「おかえり。ネコの町はどうだった?」


「なかなかいい所だった。お金余ったから返すよ。」


「いらん。好きなだけ持っていきな。あたしはもう使わないから。」


 師匠はそう言って古そうな箱を指さした。開けると中にはお金がぎっしり詰まっていた。


「師匠、金持ち・・・」


「貧乏な悪魔はまた違う生き物だよ。」


 師匠はにやりと笑った。貧乏な悪魔ねぇ・・・母親の顔がチラついたのですぐに考えるのをやめた。


「ところで師匠って洗濯とかしてる? なんかいい感じの魔法とかある?」


「洗濯? あたしにはもう必要ないが、あんたはした方がいいんじゃないか?」


「魔法で汚れだけを瞬間移動させるとかできるかな?」


「・・・できるもんならやってみな。普通に洗って火と風で乾かした方が早いよ。」


 地味だなあ。魔法でパパッとやりたいのに。


「石鹸ないから今日はいいや・・・疲れたから寝るね。」


 久しぶりだったのに食べすぎたかもしれない。私は横になるとすぐ眠ってしまった。


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