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【完結済】生まれ変わっても一緒にいるとか言ってません!  作者: 紫藤しと
第一章 魔女の純情
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7.魔女修業②

 考え事をしながら横になっていたらいつの間にか眠っていたらしい。起き上がったが師匠はまだ眠っていた。時計も窓もないのでまったく時間がわからない。とりあえず外に出てみると、扉の外に食事が置いてあった。


 スープとパンが一欠片だけ。その上からご丁寧に満遍なく砂がかけてある。


「守り神ちゃうんかい・・・」


 思わず呟きながらお盆を手に中に戻った。外は昼頃としかわからなかった。


 お盆を床に置き、パンの砂を手で払う。まあこっちはギリギリ食べられそうだがスープは無理だ。どうしたもんか。


「あんたそれ食べるのかい?」


 師匠の声がした。いつの間にか起きてたらしい。


「うーん、師匠も食べるでしょ? 不味そうなう上に量も少ないってどうなってるんですかねぇ。」


 師匠は笑った。


「あたしはそんなもの食べないよ。食べたいならあんた食べな。」


「他に食べるものあるんですか?」


「ないよ。ただあたしは最近あんまり食べないんだ。消化器官なんてとっくに死んでるからね。」


 ・・・なんか怖いことを聞いた気がする。


「ああ! だからここトイレがないんですね!」


 無理やり話を明るく変えてみた。


「そうだね・・・外に出たくないなら石に入れるといいよ。」


「石に入れる?」


「そう。小便でも大便でも石に入れたらなんの問題もないよ。」


「いや・・・気分的にそんなのが横に会ったら嫌ですけど。」


「だったらどっか人気のない所にでも移動させればいい・・・こんな風に。」


 師匠はパンを手に取ると、一瞬でそれを消した。


「私のパン・・・」


 思わず呟くと師匠は笑った。


「こんなもん食わなくていいだろ。金はあるからどこかへ食べに行っておいで。」


「この村に食堂なんてあるんですか?」


「さあね。あったとしてももっと遠くの食堂の方がいいだろうね。一人で行けるかい?」


「・・・無理です。」


 私はここまできた道のりを思い出していた。ここは完全に山の中にある小さな村で、隣の村からここにくるまで馬車で丸一日かかった。


「魔女のくせに歩いて行こうとしてるのかい?」


 師匠はニヤニヤと笑った。


「えっと・・・パンみたいに師匠が飛ばしてくれるんですか?」


「まあ行きはそれでもいいかもね。だが帰りはどうする?」


「歩きは嫌なので・・・飛ぶ?」


「飛べるならそれでもいいさ。好きにしな。」


 師匠は笑うと目を閉じた。疲れたのかもしれない。


 砂の入ったスープを見ながら移動について考える。正直今まで魔法で物を移動させようとは考えたこともなかった。とりあえずそこにあったスプーンを握る。これを・・・ハリーの頭に投げつける。


 ヒュン


 一瞬で手の中からスプーンが消えた。やったのか? 結果をみないとよくわからんな。


 次に近くに会った空の魔石を手に取った。この魔石を・・・部屋の隅に移動する。


 ヒュン


 石は一瞬で思った場所に移動した。やばいな、私天才じゃない?


 じゃあ次は差し迫った問題だ。私はもう一つ空の魔石を手に取った。それをお腹に当ててみる。えっと・・・体の中の余計な水分を・・・石に入れる?


 躊躇いがあるせいか全く移動した感じはしなかった。これはちょっと難しいかもしれない。諦めて私はお盆を手に立ち上がった。屋敷の裏手は山になっている。ちょっと奥に入れば誰にも見つからずに用を足せるだろう。


 外に出るともう夕方だった。さっきは昼間だったのに、ちょっとこの部屋は時間の流れがおかしいのかもしれない。そんなことを考えているとハリーがやってきた。


「やっぱりここにいたんですね。心配しましたよ。」


 そんな無表情で言われてもなあ。


「それはどうも。」


「いいかげん屋敷に戻る気はありませんか? ほとんど何も食べてないのでは?」


「そうね、食事は砂だらけで食べられたもんじゃないしね。」


 私はそう言って持っていたお盆をハリーの足元に投げた。靴にスープがかかった。


「・・・行儀が悪いですね。さっきスプーンを投げてきたのもあなたですね。」


 そう言ってハリーはしゃがんでお盆と器を拾った。


「人の食事に砂をかけるのとどっちが行儀悪いの?」


「外なんだから多少は砂ぐらい入りますよ。仕方ないでしょう?」


 私はカッとして叫んだ。


「人間の食い物だってわかって言ってんのか!?」


 ハリーはしゃがんだまま黙って私を見上げた。相変わらず表情は変わらない。


「・・・そっちが本性ですね。ババ様は少し前から食べ物を召し上がってません。これはあくまで形式的なものなんですよ。」


「守り神の食事に食えないとわかってるもんだすなんて、舐めてんな。」


 ハリーは立ち上がって言った。


「私のババ様に対する気持ちは今も昔も変わっていません。・・・ところで最近魔石の納付がないんですが、あなた邪魔してますか?」


「あのな、王都で魔石がいくらで取引されているか知ってるか?」


「・・・あなたには多額の金銭を先にお支払いしていますが。」


「あんたが払ったのはタタン様にであって私にじゃないな。」


 ハリーとにらみ合う形となったが、先に目をそらしたのはハリーだった。


「話になりませんね。魔石が納付されるまで食事は用意しませんので。」


「別にいいよ、不味いから。」


 ハリーは一瞬こちらを睨んだが何も言わずにお盆を持って屋敷の方へ去っていった。私も師匠の元に戻る。師匠は変わらず眠っていた。


 その後私はもう外に出るのが嫌で、意地で服を脱がずに室内でトイレを済ませる方法を覚えた。


 人間やればできるもんだ・・・私は人間じゃないけど。

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