6.シンデレラ
王都から持ってきた本は、私の宝物だ。
「むかしむかし、あるところに貴族なのに継母とその連れ子である義理の姉にいじめられている女の子がいました。名前はシンデレラです。シンデレラは毎日家の掃除や洗濯などをして過ごしました・・・これって今の私? ねえ師匠、どう思う?」
師匠は聞いているのかいないのか返事をしてくれなかったので、私は勝手に読み進めた。
ある日王子様の花嫁を探すために国中の独身貴族をお城に呼んでパーティを開きました。シンデレラの元にも招待状が届いていたのに、意地悪な継母は招待状を隠してしましました。みんながパーティにいってしまった家でシンデレラは一人で泣きます。自分もパーティに行きたかったと・・・そこに優しい魔女が現れてシンデレラにドレスと靴と馬車を与え、お城のパーティに連れて行ってくれました。
「そういえば魔女もいる・・・優しいかどうかは謎だけど。」
元々美しかったシンデレラはパーティで王子様を虜にします。ですが魔女の魔法が解ける前にシンデレラは家に帰らなくてはいけません。シンデレラが走って城から出た時、靴が脱げてしましました。王子様はその靴をもとにシンデレラを見つけ出し、幸せに暮らしましたとさ。
「うん、何回読んでも意味わかんないけど面白いな。」
これは元々読み書きが出来なかった私の為に、王都で知り合ったお姉さまが書いてくれたお話だ。物語自体はお姉さまの故郷にある話らしいが、美しい文字で丁寧に書かれたこの本は、見る度私を幸せな気持ちにしてくれた。
「滅茶苦茶な話だねぇ。」
眠ったかと思っていた師匠が目を開けていた。
「起きてたんですか?」
「枕もとで喋られて寝られるかい。どうやって靴から人を見つけ出すんだい?」
「お姉さま曰く、成人女性にしては足が小さかったのでわかったそうです。」
師匠は納得できないらしく首を捻っている。
「まあいい・・・あんたはそのシンデレラみたいになりたいのかい?」
「えっと、どうだろう・・・。確かに今、家事押し付けられて逃げてきたんですけど、優しい魔女さんは何かしてくれます?」
「何をして欲しいんだい?」
師匠が呆れたように言った。
「えーっと・・・王子様とか知り合いにいます? 独身で変な趣味も持ってなくて、穏やかで優しくて金持ちな人。できれば愛人とかもいない方がいいです。」
「・・・いないねえ。」
そうでしょうね。期待はしてなかった。
「師匠って恋愛したことあります?」
「・・・忘れたよ。」
師匠はそっぽ向いてしまった。
「あ、あれですか。何代か前のソドム家当主と恋をしたからその人が死んでも子孫を見守り続けてるってやつですか?」
師匠は返事をしなかったが、どうやら正解の様だ。
「えー! 師匠意外と一途! ロマンチスト! そんな昔の恋引き摺ってるんですねぇ!」
「引き摺ってないよ。・・・頼むから寝かしておくれ。」
師匠はそういうと頭から毛布を被ってしまった。恥ずかしがり屋も追加しよう。
だがさすがに師匠の眠りをこれ以上妨げるわけにはいかない。私は黙って部屋の中を見渡した。よくわからない物が色々積んであるが、私が横になるスペースは十分にある。一面に絨毯が敷かれているのでどこでも眠れそうだ。問題はトイレがないことぐらいか。
「まあいいか。」
最悪、外に穴でも掘ってすればいい。だてに底辺を生きてないのだ。
でも貴族と結婚したら、たとえ愛人でも衣食住には苦労しないと思ったのにな・・・
横になって目を瞑ると眠くなってきた。ここは外が全く見えないので時間の経過がよくわからない。私はそのまま眠ってしまった。
どれぐらい時間が過ぎたのか、私は誰かの唸り声で目が覚めた。目を開けて見慣れぬ景色に少し混乱する。そういえば師匠の部屋に逃げてきたんだった・・・
起き上がり横を見ると唸っているのは師匠だった。苦しそうに胸元を抑えている。
「大丈夫ですか?」
声をかけたが返事はない。治癒魔法っていうのがあるって言ってたな・・・私は少し迷ったが師匠のお腹に手を当てた。しばらく目を瞑っていると、瞼の裏に人影が見えてきた。胸のあたりに赤い光がある。波打っているので心臓だろう。その横に黒い影が見えた。黒い石・・・それは震えたかと思うと少し形が縮んだ。
「見えたかい?」
師匠の声に目を開くと、師匠は苦しそうな顔で笑っていた。
「また悪魔の石が縮んだんだ。もう私の体は限界なんだよ。」
師匠が本当に五百年も生きてるかどうかはわからない。だが色々と限界なのはわかった。
「あの石が消えたら死ぬんですか?」
「そうだよ。」
悪魔が死んだら骨も残らない。ただ魔力の塊である石だけが残る。悪魔の石と言われるそれは、強力な魔力と美しい輝きを放ち人間どもを魅了する。人間が悪魔狩りを企てたくなるほどに。
「・・・大昔、まだ私が母や仲間と暮らしていたころ教えられた歌があります。悪魔らしからぬ空よ大地よみたいな歌詞なんですけど、師匠知ってます?」
「知ってるよ。悪魔を慰めるための歌だ。」
空よ大地よ 我らの友を眠らせろ 我らの怒りを眠らせろ
花よ星よ 流れて願いを叶えたまえ 我らを果てへと返したまえ
「・・・師匠が死んだら歌ってあげますね。」
「ありがとよ。」
師匠は少し笑ってまた目を閉じた。黒い石は三センチほどの大きさだった。その横に会った大きな赤い心臓のようなものが師匠本人の石なら、この人はとてつもない魔女なんだろう。
私の母の石は一センチほどだった。色もくすんでいてそれを人間が馬鹿にして笑った。私は笑った人間を燃やした。数少ない昔の記憶だ。結局母の石がどこにいってしまったのか今もわからない。