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【完結済】生まれ変わっても一緒にいるとか言ってません!  作者: 紫藤しと
最終章 始まりと終わりの叙情

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ハジム

 リチは28歳で子どもを産み、29歳で死んだ。体力がないリチには出産は大仕事でどうにも耐えられなかったらしい。


 その晩少しの間リチの亡骸のそばを離れて戻ると、招かれざる客が二人もリチの顔を覗き込んでいた。


「・・・パル、君は身内なんだから普通に玄関から入ってくればいいのに。」


「僕に身内なんていませんよハジム様。この女はただの知り合いです。」


 大げさな身振りで首をすくめた男は間違いなくリチの弟だ。子どもの頃の面影もまだ少し残っている。


「わしはリチの友達じゃがな。こわーい旦那様がこの屋敷に来てはいかんとうるさくてな。死んだ後にしかこれんかった。」


 ケラケラ笑う魔女は昔に比べると少し大人っぽくなっていた。15歳から20歳程度には。


「リチの前で喧嘩はやめよう。飲むかい? せっかくだから思い出話でもしよう。」


 自分用に用意してきたお酒を指すと、意外にも二人は頷いた。この二人の目的はよくわからないが、リチの死を悲しんでいるのは確かだと思いたい。


 しばらく黙って3人で飲んでいると、向かいに座ったパルがポツリと言った。


「リチは、幸せだったと思う?」


 寂しそうな顔に小さな頃のパルを思い出す。パルはお姉ちゃん子で昔から僕のことが嫌いだった。


「たぶんね・・・そう思うよ。勝ったって言われたし。」


「勝った?」


「うん。前世は僕の方が先に死んじゃったからね、今回は絶対先に死にたかったんだって。」


 笑って言ってみたがうまく笑えているかは自信がない。涙は枯れたのかでなかった。


「・・・なるほどね。姉さんってきっと、ずっと人間なんだろうね。」


 さっきは知り合いっていったくせにもう酔っているのかとパルを見ると、ひどくぼんやりとした顔をしていた。


「じゃろうな。あいつは天使に憧れ悪魔に翻弄されるただの人間だ。だがあいつが一番美しい。」


 魔女もしんみりとした顔で言った。僕はようやくそこでこの魔女と魔王が心の底から悲しんでいることに気が付いた。噂では聞いていたが、悪魔が泣けないというのは本当らしい。


「リチに焦がれているのは僕だよ。また生まれ変わっても探すつもりだし。今はまだリチが遺した子どもがいるから死なないけどね。」


 ようやく久しぶりに笑えた。


「そうか・・・なら僕は、全ての悪魔をこの家に近づけさせないと誓おう。」


 ん? 


 パルの言葉に僕の方眉が上がった。悪魔と言って思い出すのはこの二人と兄の恋人ミツさんだ。兄とミツさんは今やドーナー家の守り神とも言われているのだけれど。


「もちろんミツも殺す。悪魔なんか近くに居たらろくなことがないからな。」


 魔王の言葉とは思えないがどうやら本人は本気らしい。僕は取り合えずグラスをテーブルに置いた。


「えーっと・・・パルとルビーが兄さんとミツさんと戦うってこと? 世界が終わらない?」


「別空間でやれば大丈夫じゃろ。」


 ルビーがパルの代わりに返事をした。どうやら二人ともやる気らしい。


 頭の中で色々考えたが、すぐに止めることは諦めた。今の僕にとって妻の忘れ形見以上に大事にするべきものなんてない。


「そうか・・・悪魔がそんなに悪影響を及ぼすって感じは僕はしないんだけどね。リチは良い子だし。」


「だけど両親はろくでもない死に方をしたし実家は潰れたし弟は悪魔になった。僕とルビーさえいなけりゃもっと幸せな人生だった。」


 パルは淡々と言ったが泣いてるようにも見えた。本当にこの姉弟は仲が良かったのにそれを引き離したのは僕だ。そう考えると全ての始まりは僕がリチを探しあてた時だったのかもしれない。


「リチは君のことが大好きだったよ。そんなに自分を責めなくてもいいんじゃない?」


 パルは首を振って言った。


「クロのことを思い出せ。悪魔は周りの人間を狂わせるんだよ。」


 クロ、目の前にいる魔女にそそのかされて死んだ僕の友人。それに対する怒りはまだ僕の中にある。


「・・・じゃあ天使はどうなの? リチだってダリッチだって、僕が天使だったから好きになったんじゃないの?」


「姉さんがあんたを好きな理由なんてしるかよ。」


 パルが物凄く不機嫌な顔になった。


「でもまあ・・・僕の知る限りじゃ天使はあんまり影響ない気がするからいいんじゃない?」


 パルの投げやりな言葉を魔女も肯定した。


「そうじゃな。わしが知ってるのは天使の血が濃いとモテるってことぐらいじゃな。」


 ピントのずれた言葉に白けた空気が漂った。モテるねぇ・・・


「面白そうな話してるね。」


 久しぶりに聞いた兄の声にも特に驚きはなかった。なんとなくこうなるような気はしていた。みんなリチのことが好きだったんだから。



 兄アダールとその恋人ミツは突然部屋の中に現れて、当然のように僕の隣に座って酒を飲み始めた。なんて組み合わせなんだろう。魔女が二人に天使も二人、魔王が一人だ。ベッドで眠っているリチだけが人間で可哀想だ。


「ねえ、ツマミないの?」


「乾きものならあるぞ。」


「わーい、ありがと。」


 魔女同士がにこやかに酒を酌み交わしている。


「なんかこの部屋寒いね。」


「リチがいるからこれ以上火は足さないよ。」


「毛布でも被るか?」


「酒飲めばいいだろ。」


 男同士だって和やかに会話している。だけどこの人間じゃないメンツは、次の瞬間には笑顔で殺し合いができる奴らだと僕は知っている。


「僕の可愛い奥さんの話をしたいんだけど。」


 切り出すとみんなが会話を止めた。だって今日はリチが死んだ日だ。


「リチは・・・ダリッチも、良い子だったね。なんだか知らないけど最初から最後までハジムのことが大好きだった。」


 兄の言葉にみんなが頷く。パルだけはちょっと嫌そうな顔をした。


「それって僕が天使だったから?」


「さあね。僕だって何でも知ってるわけじゃない。」


 兄が肩を竦めた。


「運命ってことでいいじゃない。恋に理屈を求める方が野暮よ。ねえルビー?」


 ミツが呼びかけるとルビーは少し嫌そうな顔をした。 


「まあな・・・結局あがいてもなるようにしかならんな。」


「そう考えるとさ」僕は言った。


「そう考えるとさ、前世の記憶なんて邪魔だよね。運命があるのなら、きっと前世なんてしらなくても巡り合える。」


 どうしても早く会いたくて必死で探して5歳のリチにプロポーズしてみたけど、そんなことしなくてもちゃんと巡り合って恋をしていたのかもしれない。全部想像だけど。


「それもロマンチックでいいわね。」とミツが言った。


「ねえアダール、記憶がなくても私を見つけてくれる?」


「前にそれやったのもう忘れたの? でもいいよ。ミツが望むなら何度でも付き合ってあげる。」


 なんだか隣で兄たちがいちゃいちゃし始めた。一方目の前では魔女と魔王が二人で顔を寄せ合って話している。


「どう思う? 生まれ変わっても僕を好きになると思う?」


「お前がわしに惚れるんじゃろ? 惚れなかったらぶっ殺す。」


「つまり魔力が高い方が勝ちだね。」


「そういうことだな。楽しみだ。」


 よくわからないが楽しそうで何よりだ。僕は一人寂しくなってベッドで眠る妻を見た。つまらないな。昔ダリッチが僕が死んだらつまらなかったって言ってたけど、こういうことだったんだな。


 一人で酒を傾けていると信じられないようなスピードで酔っぱらった。今も昔も酒に強くてこの程度で酔っぱらう事なんてなかったのに。


 くらくらしてソファにもたれかかると、兄が優しい顔で僕の頭を撫でた。


 兄さん? ぼくもう子どもじゃないよ・・・ 言葉はたぶんうまく口にだせなかった。兄を見たのはそれが最後になる。


 目が覚めると僕は一人でソファに横になっていた。テーブルの上にはグラスすらなく、人がいたような気配はなかった。けれどかけられていた毛布が確かに誰かがいたことを教えてくれた。


 立ち上がってベッドに横たわるリチに触れる。やっぱり冷たくてやっぱり死んでいた。つまらないなと思った。




 その後パルもルビーも姿を見かけることはなかった。ただパル・ソドムの服だけが町中に溢れていた。兄もミツもおかしな鳥も、もう僕の前には姿を表さない。


 順調に大きくなるリチの忘れ形見を見ながら時々考える。生まれ変わっても会いたい人がいるなんて幸せなことだ。記憶があろうとなかろうと、天使だろうと悪魔だろうと僕は会いたい。


 生まれ変わっても君と一緒に居られますように。そう思いながら生きている。




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