パル
結婚パーティで新郎新婦が真っ白な衣装を着るというのを流行らせたのは僕の母だ。母はこれを広めるため人通りの多い場所で何度も自分の結婚パーティを開いたという。青空の下で真っ白なシナトブランドのドレスを着て微笑む母はとても美しかったそうだ。
母の企みは当たり、王都ではその後も新郎新婦といえば白の衣装というのが定番となった。でもその流れをそろそろ僕が変えたいと思う。
「行くよ」
僕はそう言って新婦の腕を取った。新婦の自慢の銀髪は今日はまとめて黒い帽子とレースの下に隠してある。着ているドレスはフリルをふんだんに使った黒のドレスだ。僕も黒のシルクのスーツを着ている。唯一のアクセントは赤いタイで、これは新婦の目の色だ。ルビーの服には少しだけ紫のアクセントがついている。
扉を開けるとニ十人ほどのパル・ソドムの真っ黒な服を来た老若男女が僕らを待っていた。全員パル・ソドムのお得意さんだ。今日の為にそれぞれ特別に誂えた服を着ている。
僕とルビーが腕を組んで進むと後ろから彼らもついてきた。これから歩いて1kmほど先にある教会に向かう。道行く人々が目を丸くして僕たちの黒い行列を見守った。
今日は王都の秋祭りだ。いくつかの商店が自主的に始めたため正式な祭りではないが、いつもの王都よりずっと人出が多い。その中を僕たちが歩くと自然と人だかりができた。
気味悪がっている者、見たことがないドレスに目を輝かせている者。それぞれの反応はとても楽しく、僕もルビーが群衆に手を振るのを笑ってみていた。
眉を顰めているご婦人にはとびきりふしだらな下着をあげよう。露出の高い女の服を見て顔を赤らめている少年には体にぴったりとフィットするタイツをあげよう。退屈な服なんて脱ぎ捨てればいいんだ。
たどり着いた教会の中で、僕らは夫婦となる書類に名前を書いた。
新郎、パル・ソドム
新婦、ルビー・ソドム
これは僕たちの名前が国に残る最初で最後の書類となるだろう。だってこんな人間は生まれてないし、死ぬこともない。
書類を提出し教会の外に出ると、紙とペンを持った男が話しかけてきた。どうやら流行りの記者という奴らしい。
「書き写すので少しの間ポーズを取って頂けませんか? パル・ソドムさんですよね? これは新しい服のお披露目なんですか?」
「ええ、美しい妻のお披露目ですよ。彼らは僕たちをお祝いしに集まってくれたんです。」
「ご結婚ですか? おめでとうございます。ずいぶんと・・・派手なお披露目ですね。新郎新婦は普通白では?」
「そういうのもう止めましょうよ。僕たちは自由です、裸で町を歩いたっていいんですよ。・・・僕は裸はセクシーじゃないと思うのでやりませんけどね。」
にやりと笑うと記者は苦笑した。それを機に僕たちは祝福してくれる黒い友人たちの元に戻った。
先程よりもこのおかしな集団を見に来る人が増えていて歩きづらかったが、また愛想を振りまきながら黒い屋敷に戻る。どうやらこれから夜通しパーティが始まるらしい。僕は少し疲れたのだけれど。
「なんじゃもうジジイか? 花の命は短いぞ?」
そう言って僕の手を引っ張る妻は、出会った頃より何倍も美しくなった。僕の成長と一緒に少しだけ歳をとってくれたらしい。なかなか健気で可愛らしい。
だから耳元で愛のように囁く。
「黙れ魔女、殺すぞ。」
「どちらが強いか・・・まだ勝負はついとらんな。」
額と額をぶつけたままで魔女が言う。至近距離で見る赤い目を、愛してると思う。
「試してみようか。」
僕らは笑って口づけた。口づけながらこの女が死んだら僕はどうなるんだろうと考える。
少し試してみたい気もするが、しばらくは、このままで。




