13.パルという人間
ハジムに姉を頼むと告げた後、僕はきちんとドーナー家の与えられた部屋で眠り、食事をしながら執事を呼んだ。
「ハチマツは?」
初老の執事は少し驚いたようだが、すぐに淀みなく答えた。
「明け方大怪我をして倒れている所を発見されました。命に別状はありません。」
流石にまだ親は殺せなかったか。
礼を言って全員を部屋から下がらせた。影もいないのを確認して魔女を呼ぶ。
「ルビー」
しばらく待ったが魔女は現れなかった。何を意地張ってるんだか。
「ルビー。おいで。」
「・・・わしを犬のように呼ぶな。」
ふくれっ面をしたルビーが部屋の中に現れた。黒いワンピースの胸元が妙に開けている。この魔女め。
「あんな男じゃ満足できなかっただろう?」
「何のことじゃ? そういえばクロが行方不明になったらしいのう。」
「茶番はいらない。貴様が欲しいのは僕だ。」
魔女を睨むと魔女は高笑いした。甲高いその声は僕をイライラさせた。
「そうじゃな・・・クロは魔王そっくりじゃが魔王の器ではない。散々盛り立ててやったのに悪魔にすらならなかった。お前と違ってな。」
魔女が近づいて来て僕の頬を撫でた。
「だが、お前もまだまだだ。魔王の器にはまだ遠い。」
揶揄うような言い草に魔女の手を掴んで立ち上がった。
「マテもできないのか。物欲しそうな顔しやがって。」
魔女はにやりと笑った。
「ガキが一丁前の口をききやがる。」
「貴様はそのガキの嫁になるんだよ。有難く思え。」
そう言って顔をルビーに近づけると、ルビーは黙って目を閉じた。なんでそこだけ素直なんだと思いながら、僕はそのままルビーの耳元で囁いた。
「パプルの石を返せ。」
ルビーの目が大きく開かれた。至近距離で見るその目は、燃えているように赤い。
「・・・そんなもの、今更どうする。」
「貴様が持っていていいものじゃない。」
ルビーは不可解な顔をしながら僕から離れた。
「ひょっとしてお前は・・・」
「なあ」 何か言おうとしてルビーの言葉を遮った。「クロ死んでないか?」
「ん? ・・・ぽいな。お前も一緒に来い。」
反対する暇もなくルビーに手を引っ張られて、気が付けば薄暗い部屋の中にいた。天井に角がない不思議な部屋だった。
「死んどるな。」
ルビーの声に振り返ると、床にクロが倒れていた。よく見ると血が壁にまで飛び散っている。
「耐えきれんかったんじゃな。可哀そうに。」
他人事のようにいうルビーに何の感情も湧かなかった。たぶんもう僕もそちら側なんだろう。
「悪魔が死んだら体が消えて石だけ残るんだろう?」
「そうじゃ。だからこいつは悪魔なりそこねたにんげ・・・」
良く喋る魔女を立ち上がらせて抱きしめる。
「貴様が死んだら石は僕が拾ってやるよ。」
ルビーは目を細めて笑った。
「嬉しい・・・」
そうやって僕らは薄暗くて血なまぐさい部屋で初めてのキスをした。悪魔同士にはお似合いだったと思う。




