6.姉の婚約者
100年前、クロという魔王がクーデターを企てた。その時標的になったのがなぜか王族ではなく前世のハジムとクマンドという男だったという。
「ハジムとクマンド・・・聞いたことがあります。魔王を倒したことで有名な兄弟ですよね、そうかドーナー家の人か・・・」
「ええっとクマンドとは別に兄弟じゃないんだけどね、姪の夫だから・・・まあ別にそこは大した問題じゃないんだけど。」
ハジムとクマンドは無事に魔王を倒しクーデターは阻止された。ただ問題は魔王が当時の国王の隠し子だったということだ。
「魔王は負けたのに死ななかったんですか?」
「死にかけてたけどね。それこそルビーやその師匠なんかが治療して救ったんだよ。ただ魔女は魔王の命を救う代わりに魔王の石を奪った。」
「魔王の石?」
「悪魔や魔女は全員、魔力の根源となる石を体内に持っているらしい。普通はその石を取られると悪魔は消滅するんだけど、なんらかの方法で石だけ取り上げて生き延びさせたらしいよ。私もこの辺は詳しくわからない。」
石を奪われた魔王は国王からの要望もあり、人間としてドーナー家に匿われ暮らしていたという。そこを引っ掻きまわしたのがルビーだ。
「ルビーはね、まだ子どもだった王太子夫妻の一人娘に目をつけてね・・・閉じ込めちゃったんだよ。彼女は衰弱して10代の若さで死んでしまった。」
悪いことは続きいつの間にか王族はかつての王太子のみとなった。困ったのが後継ぎだ。
「当時国王は妻と子を相次いで亡くしてかなりガックリきていたらしくてね・・・そこで突然表に引っ張り出されたのが、かつての魔王の子どもだ。魔王は既に死んでいたけど人間との間に二人息子を作っていた。その内一人を国王の隠し子として後継にしたんだ。まあここら辺は私も死んでたから聞いた話だけど。」
「魔王のもう一人の息子はどうなったんですか?」
「そのままドーナー家で暮らした。その子孫はまだうちにいるよ。君もう会ってるクロって子だよ。髪が黒くてモジャモジャの子。」
おー、壁紙男か。魔王の子孫って感じは全くしなかったけど・・・。
「・・・ハジム様は『かわいそうなおひめさま』という童話をご存じですか?」
「知ってる。ルビーとお姫様はだいたいあんな感じだったよ。もっと可哀想なのは、お姫様は別に悪戯さえしてなかったってことかな・・・ただ単に、ルビーの前に現れてしまっただけ。気の毒な話だよ。」
ハジムが他人事のように肩を竦めた。その仕草にイラっとする。
「誰も助けようとは思わなかったんですか?」
「私は姫様が王立学園に通いだした頃に死んでる。当時はまだみんな心配しながらも、ひょっとしたらルビーと上手くやっていけるかもしれないと思ってた時期だよ。その後も色んな人が手を尽くしたと聞いている。だけどルビーは強いからね。今でもルビーに勝てる人間はいないんじゃないかな。」
「それはつまり、僕が死んでも仕方ないという意味ですね?」
僕が睨むのをハジムは静かに見た。値踏みされてると思った。
金勘定が得意なこの男は、婚約者の弟ですら損得を考えてどうするのかを決めるのだろう。
「・・・君はどうしたい?」
ハジムの声も表情もあくまで静かだ。
「僕に100歳越えの魔女と結婚しろと? 冗談じゃない! 嫌に決まってるだろ!」
そう叫ぶとハジムは何ともいえない顔で笑ってチラリと扉を見た。
そりゃ僕が魔女とくっつけば周りは助かるかもしれないけど、なぜ周りの為に僕が犠牲にならないといけないんだ?
「そうか・・・今日はもう遅い。あと申し訳ないが私はしばらく忙しい。当分の滞在を許可するのでリチの相手をしてやってくれ。」
ハジムはいつもの笑顔に戻って言外に話は終わりだと言った。こうなっては引き下がるしかない。礼を言って与えられた部屋に戻る。昨日はなかった僕のサイズの寝巻が用意されていた。クローゼットを開けるとやはり僕用と思われるシャツなどが並んでいる。しかもご丁寧に全てシナトブランドだ。これが家格の差というやつか。
用意されていた寝巻に着替えベッドに転がると、知らない花の匂いがした。僕が今やっていることは、子どもの家出だ。このドーナー家の屋敷に居られるのは1か月が限度だろう。それまでにルビーに関することとあの両親と一緒に住むことの折り合いをつけないといけない。
「子どもだって言うなら、子どもらしくいさせてくれたらいいのに・・・。」
その夜はなかなか眠れず長い事寝返りを打ったが結論がでることはなかった。




