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【完結済】生まれ変わっても一緒にいるとか言ってません!  作者: 紫藤しと
第三章 魔王の誕生

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2.魔女の誘惑

 ちゃんと情報を得ようとすると、パプルの日記はあまり役に立たなかった。どうやらイライラを書いて発散するタイプだったらしく、ほぼ独り言なので意味がわからない部分が多い。あの魔女がとか悪魔がとかがしょっちゅう出てくるが、どうやら全部あのルビーという子を指しているようだ。


 日記は諦めて次は家系図を探した。パプルという人は約130年前に生まれていた。まさかと思い色々な資料を引っ張り出してみたが、ここ150年ではパプルという名前の人間は一人だけだった。パプルの享年は38歳、つまりあの魔女は100年以上生きていることになる。


「嘘だろ・・・」


 どうみても十代の少女だった。目の前で姿を消されたよりもゾッとした。


「なにしてんだ姉さん・・・」


 どうやら姉はとんでもない友人を作ったようだ。何やってんだあの婚約者。姉のことは心配するなと言っといて!


 更に色々な資料をひっくり返してみたが、パプルに関することはあまり残っていなかった。わかったのはパプルの姉がシナト家を継いだこと、パプルはずっと軍にいて退役後この屋敷に戻って病死したこと、生涯独身だったことぐらいだ。


 諦めてパプルの日記を片手に書庫を出た。いつの間にか日が暮れかけている。昼食を食べ損ねてしまった。


「ここにおられたのですがパル様。」


 使用人が駆け寄ってきた。


「ちょっと調べ物をね。何かあった?」


「いえ何も。ご主人様はやはり風邪気味なので夕食は部屋で取るとのことです。」


「そう、僕も部屋で食べるよ。簡単なものでいいから。」


 使用人は一礼して去っていった。母は布を見に行くと言って泊りがけで出かけている。使用人は父のことをご主人様と呼ぶが、本当のこの家の主人は母だ。母はこのシナト家の一人娘であり、父は商人出の平民だ。王立学園で二人は出会い、父がこの家に入る形で夫婦となった。猛々しい母とは違い柔和で大人しいことが取柄の父がなぜ母と一緒になったのか、少し興味はあるが聞いたことはない。


 部屋に戻りパプルの日記を丹念に読み返した。どうも意図的にわかりにくく書いてあるようだ。字も汚いしRだのHだの登場人物の名前もイニシャルしか書いていない。だが片思いしていたらしい女性については絶賛している。そして隣のページには魔女に対する悪口が書いてある。魔女のせいで女性が辛い思いをしているが自分は魔女に逆らえない。魔女が憎らしい、だが女性の恩人でもある。自分は共犯者だ、とんでもないことをしてしまった。だけれども彼女の微笑みは美しい、償いはなんでもする・・・


『最近の魔女は手が付けられない。あの銀の髪、赤い目が視界に入るだけで震えあがる者もでる始末だ。実際魔女は強い。だが私は何としてもあの方の娘を救い出さなくてはいけない。』


 近衛をしていたパプルがあの方と呼ぶ人物、そしてその娘を助け出すという記述、銀髪の魔女。繋げると子どもの頃聞いたおとぎ話が思い起された。



 悪戯好きな小さなお姫様は、毎日悪戯をしてお城の人たちを困らせていました。


 お后様は困り果てて言います。


「こんなにも悪い子は魔女に連れて行ってもらいますよ!」


 お姫様は言い返します。


「平気よ! 魔女なんて怖くないわ!」


 それを聞いた銀髪の魔女は本当にお姫様をお城の一室に閉じ込めてしまいました。


「私をここから出して!」


「お願いです。娘を返してください!」


 誰がなんと言おうとも、魔女は決してお姫様を外には出してくれませんでした。



 言う事を聞かない子どもを脅すためのよくあるおとぎ話だ。だがこれが本当にあったことだとしたら? パプルは近衛、警備していた国王一家の娘を魔女ルビーが連れ去ったとしたら・・・パプルの後悔も頷ける。だが共犯者とは一体パプルは何をしたんだろう。



 次の日も家庭教師の先生と父は風邪を引いていた。そりゃあお互いうつし合っているんじゃ治らないだろう。きっと今頃母がいない間にとせっせとナニかしてるに違いない。


 外はいい天気だが何もする気にならなかった。そういえば魔女と文通するということだったが、僕は待っていればいいんだろうか。それともこちらから書き始めるべきなのか・・・? だがペンを手に取っても何も言葉が浮かばなかった。当然だ、相手は魔女ということしか知らない。


 何か物音がした気がして振り返ると、低いテーブルの上に手紙が置いてあった。部屋の中には誰もいない、扉が開いた気配もなかった。恐る恐る手紙を手に取ると表面に子どものような字でパル・シナト様へと書いてあった。


 ソファに座りに手紙を広げる。


”ごきげんよう


 私はルビー、人呼んで天才美少女魔女のルビーです。


 私は巨大な魔力を持っているので、あなたのどんな望みでも叶えることができます。


 あなたの望みは何ですか?”



 悪魔の誘惑という言葉が頭を過った。引き換えに命とかを要求されるやつだ。絶対に望みなんて言ってはいけない。


 だが困った。魔女から手紙が来てしまった以上、こちらも返事を書かなくてはいけない。この手紙に一体なんと返事をすればいいのだろう。


「僕の望み・・・」


 口に出して呟いてみる。


 僕の望みはシナト家の発展、商売的な成功、バラバラになった家族がそれぞれそれなりに幸せになる事だ。別に魔女に頼みたいことは何もない。これは困った。適当にすぐ叶いそうな望みを考えなくてはいけない。


 その日は一日中考えたがあまりよい案は浮かばなかった。一番いいのは奇麗な景色が見たい、だろうか。姉さんを連れて王都からここまで来たのなら、僕を連れてどこか遠い所へもいけるだろう。そしてこの程度なら命までは取られないだろう。だが問題は姉さんだ。姉さんは何を考えて魔女と一緒にいるんだ?


 魔女を待たせてはいけないが、軽率な返事も書けない。夜中まで悩んだが結局妙案は思い浮かばなかった。明日も母はいないのでまだ時間はあるけれど。


 朝気分重く目が覚め、何時だろうと時計を見ようとすると魔女と目があった。慌てて跳ね起きる。ここは自分の部屋で自分のベッドだ。魔女は一体いつから、何をしてたんだろう。


「寝顔を見てただけじゃ。何もしとらんよ。」


 魔女は高らかに笑ってベッドから降りた。いや、招いてもないのに部屋の中にいるのは何もしていない内に入らない。


「おはよう、ございます。」


 取り合えず挨拶をしたら魔女はまた笑った。


「礼儀正しい奴じゃ。お腹空いただろう? わしは空いた。もう昼じゃぞ、一緒に昼食を食べに出かけよう。それともここで食うか?」


 昼? 寝すぎたな。いや今はそこじゃない。昼食? どこで? 魔女と一緒に町に出かける? 警備は? いや他の者に魔女をなんと説明する?


 寝起きの頭で色々考えたがパッと結論は出なかった。その隙に魔女がまたベッドに乗ってにじり寄ってきた。


「可愛い顔じゃな。食べたくなるわい。」


 舌なめずりをしそうな顔で魔女が僕の顔を撫でた。顔を顰めそうになったのを隠して慌ててベッドから出た。


「えっと・・・昨夜はルビーさんへの返事を考えていて眠れなかったんです。昼食の用意をさせますのでこちらでお待ちください。」


 なるべく可愛らしく笑顔で言うとルビーは笑って頷いた。大急ぎで物陰で服を着替えて廊下に出る。自分の部屋から追い出されているようで不満だが仕方ない。


「ジョンは?」


 近くの使用人に聞いたが知らないと言う。またサボってるのか。


 苛々しながら使われていない客間を開けた。僕の知る限り一度も使われていない部屋だ。ここをサボりの部屋として使っている男のお陰で部屋はいつも奇麗だが。


「ジョン! 起きて!」


明日からは一日一話更新に戻ります。

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