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【完結済】生まれ変わっても一緒にいるとか言ってません!  作者: 紫藤しと
第三章 魔王の誕生

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1.姉と魔女

 姉は10歳で婚約した。相手は10も年上の有名な貴族で、姉が生まれた時から姉と結婚すると決めていたという。


 それってちょっとおかしくない?


 僕の素朴な疑問は、男が何度も訪ねてくること、その度に領地に大量のお金を落としていくこと、何よりも男の顔がいいことなんかで有耶無耶にされてしまった。少なくとも今の僕以外でまだ疑問を抱いている人はもういないようだ。姉なんか5歳の初対面の時から男を王子様と呼んで夢中になっていた。


 納得できない。そんなのおかしい。


 だけど姉の幸せそうな顔を見ていると、僕には何も言えなかった。僕にできるのはせいぜいこのシナト家を大きくして姉が帰ってこられる場所を守ることだけだ。


 だから母の理不尽なまでに厳しい教育にも耐えられた。三歳から絵本ではなく服飾の歴史の本を与えられ、五歳からは針を持って布を縫う練習をさせられた。針で指を刺してしまったときは、怪我の心配ではなく布を汚したことを叱られた。同じように育ったはずの姉は、母に怒鳴られると泣き出してしまい何もできなかったので、僕がやるしかなかった。僕が母に叱られているのを見る度に姉は僕に謝ってきた。


「ごめんね。お姉ちゃんなのに役に立たなくてごめんね。」


 それを聞くたびに微かな苛立ちを覚えたが、歳をとるにつれ諦めがついた。姉はとても優しい人間だ、ただ優しいだけの脳なしだ。だから僕が守らなくてはいけない。


 この国の貴族は15歳になると全員王都にある王立学園に通うことになっている。どうやら早すぎる結婚を牽制する意味もあるようで、貴族なら学園に通わせないのは恥といった風潮がある。


 たぶん姉もそのお陰で結婚は学園を卒業する18になってからと決まっていた。いつもぼけっとしている姉が学園でなにかを学べるのか、そもそも緊張して知らない人と話せない姉に友達ができるのか。


 心配する僕を尻目に15歳の春、姉は幸せそうに王都に旅立った。わざわざ王都から姉の婚約者が迎えにきていた。死ぬほど忙しいという噂のドーナー銀行の頭取を25歳の若さで勤めあげる男。世間では親から地位を譲られただけだという言うが、奴がやり手だという噂は王都から離れたこの地にも届いている。


 なぜそんな男が姉にここまで執着するのか、そして姉はなぜそこに疑問を持たず受け入れられるのか。傍から見ているだけではさっぱりわからない。


 だけど姉が幸せそうなので仕方ないのかなと思った12の春、姉は夏には一時的に帰ってくると言っていた。王都に仕事を持つ貴族がよくやるパターンだ。つまり数か月後にはまた会えるんだから別に寂しくなどない。そう思っていたのに、姉がいなくなった食卓は火が消えた様に寂しかった。別にいても大して喋らなかったのにおかしなものだ。


 だけどそんなことにもすぐ慣れる。そう思って粛々と日々を過ごしていたのに姉は2か月も経たない内に屋敷に帰ってきた。なぜか魔女を連れて。


 その日は家庭教師が体調が悪いと言って休みだった。だから部屋で一人で書き物をしていたところ、扉がノックされた。妙に焦ったような強いノックはたぶん使用人ではない。僕は警戒しながら返事をした。


「はい」


 それに答えるように部屋に入ってきたのは、王都にいるはずの姉と見知らぬ女の子だった。


「・・・何してるの姉さん。いつの間に帰ってきてたの?」


 口ごもった姉の腕に女の子が絡みついた。見た目は姉と同い歳ぐらいの女の子だ。目立つ銀の髪に赤い目のその子はどう考えても初対面だった。


「えっと・・・こちらルビーって言って、私の・・・お友達なんだけど・・・」


 姉がもごもごしながら女の子を紹介してくれた。


「初めまして、パル。ルビーと言います。よろしくね。」


 ルビーという名の少女は僕に向かってにっこりと笑いかけた。とても奇麗な少女だが、なんだか妙な圧を感じる。


「どうも、パル・シナトです。初めまして。」


 表面上はにこやかに笑って自己紹介してみたが、妙な違和感は拭えない。なんだこれは・・・この少女を知ってるような、知らないような。


「ええっと、母様たちにはもう紹介したの?」


「いや、すぐ帰るからいいかなって思って・・・」


 姉の視線は部屋のあちこちをさ迷っている。後ろめたいことがあるらしい。なんで隠し事なんかできないくせにやろうとするんだろう。姉をじっと見ると姉は降参したように言った。 


「・・・ルビー、無理だって。」


「そうか?」


「無理! 少なくとも私には無理、私に気の利いた言い訳とか期待しないで!」


 そうだろうね、知ってる。王都にいる筈の姉さんが突然現れたこと、見知らぬ特徴的な女の子を連れていること。まさかとは思うが、姉の動揺っぷりを見ているとどうやら憶測は当たっているようだ。


「姉さんはそうだろうね。ところでルビーさんって魔女なの?」


「よくわかったな。」


「銀髪に赤い目で見た目は子供。覚書に書いてあった通りだ。なんで姉さんと一緒にいるのかはわかんないけど。」


「その通り、わしは偉大なる魔女ルビー。もしくは天才美少女魔女ルビーじゃ。出会ったことを光栄に思うが良い。」


 ルビーは腕を組んで尊大に言い放った。だが子どもがふんぞり返っているようにしか見えない。


「確かに有名な魔女に会えて光栄ですが、姉さんとはどういう関係ですか?」


「・・・と、友達じゃ。」


 挙動不審気味に言ったルビーを見て姉は笑った。どうやら脅されて連れてこられた訳ではないらしい。取り合えずお茶や昼食を勧めてみたが姉に断られた。脅されてはないが、長居はしたくないらしい。・・・どういう関係なんだろう。


「それよりもさっきの覚書とはなんじゃ? わしに関する記録は公式には残っていないはずじゃが。」


 ルビーがソファにふんぞり返って言った。あまり行儀を気にするタイプではないようだ。


「うちの先祖の日記です。パプルという城で近衛をしていた人が書き残したものを先日たまたま見つけたんです。」


 先祖の日記はこの家の書庫で見つけた。それなりに古い家の為、先祖が残したものは割と沢山残っている。パプルの他にもいくつか日記を見つけたが、パプルのが一番面白かった。日付もないそれは書き殴った部分も多く、内容のほとんどは報われない片思いに関することだった。


「それで? 他にはなんと書いてあった?」


「魔女は恐ろしい、だが自分は魔女に手を貸してしまった共犯者だと・・・自分を責めるような言葉も多かったですね。ですがパプルが何をしてしまったのかは書いてありませんでした。」


「そういう所が小者じゃの。」


 ルビーがせせら笑った。


「うちの先祖はいったい何をしたんですか?」


「既婚者をねちねちと想い続けただけじゃ。別に大したことはしとらんよ。」


 やっぱり相手は既婚者だったのか。身分違いのようなことも書いていたが。


「そうでしたか・・・それで、共犯とは?」


「まあそんな昔の話はよかろ。それよりお主には婚約者や恋人はおるか?」


「・・・いえ、どちらもまだおりません。」


「ならばわしにしておけ。」


 唐突に話を変えられて面食らった。プロポーズ? なのか?


 姉がルビーの腕を引っ張って小声で話し始めた。全部聞こえてるのになんでわざわざ小声にするんだろう。


「ルビー、それ口説いてるじゃなくて脅迫だから。昔と同じ失敗してない?」


「うん?・・・そうか。普通はどうやって口説くんじゃ?」


「私もよく知らないけど・・・ルビーは直接会うとそうなっちゃうなら、最初は手紙からの方が良かったんじゃない? 今更だけど。」


「手紙? 会った方が早いじゃろ?」


「早すぎて握手じゃなくてパンチになってるから。目的思い出して!」


 こそこそ話される会話を聞きながら内心で首を捻った。いつもの姉の話し方じゃない。おまけに相手は魔女なのに萎縮している様子もない。


「姉さん、雰囲気変わったね。」


 話に強引に割り込むと姉はあっさり聞き流した。やはりいつもの姉じゃない。


「まあそんな感じだからルビーと文通でもしてあげてくれる? 悪い子じゃない・・・気がするからさ。」


 相変わらず僕と目を合わさない。ひょっとしたらこれは姉じゃないんだろうかという疑問まで湧いてくる。


「まあ僕もルビーさんに興味あるからいいけど・・・姉さんはいったい何がしたいの?」


「・・・できれば勝手にそれぞれ幸せになって欲しいけど、難しそうだから間に入ってるだけ。気にしないで、お姉ちゃんはいつでもパルの幸せを祈ってるだけだから。一応ルビーのもね。」


 あまりにも率直な話し方に笑うしかなかった。話している内容は姉っぽいが、言い方がもう姉じゃない。魔女の影響なのか、王都が姉を変えてしまったのか。まさかね。


 姉の言葉にルビーは嬉しそうに笑った。


「わかった! まずは文通じゃな? 字は得意じゃ、すぐに書く!」


 そう言うと目の前で姉とルビーは消えてしまった。立ち上がって部屋を見回すが誰もいない。耳を澄ませても近くに誰かがいる気配はなかった。つまり、あれは本物の魔女だ。


 しばらく呆然と立ち尽くした後、急いで書庫に向かった。情報を集めなくてはいけない。


 姉は一体何をやってるんだろう。そして姉の婚約者も何をやってるんだ、きっとあのぼけっとした姉は魔女に言いくるめられていいように使われているに違いない。どうしようもない人だ。結局僕が近くにいて尻ぬぐいをしないといけないんだろう。


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