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【完結済】生まれ変わっても一緒にいるとか言ってません!  作者: 紫藤しと
第一章 魔女の純情
3/58

3.魔女

 朝はメイドに起こされて始まった。


「おはようございます奥様。ハリー様はもう朝食がお済ですよ。まあまあ、服のまんまで。」


 朝から朗らかによく喋る人だ。私はここがどこだか一瞬思い出せなかったぐらいボーっとしてるのに。


「おはようございます・・・えっと、朝食? 食べたらいいんですかね。」


「はい。申し訳ないんですが厨房にあるものを適当に食べてくださいね。」


 厨房にあるものを適当に・・・それもう使用人の朝ご飯だな。


「わかりました・・・ところであの、なんか寝巻とかないですかね? 私、荷物をあまり持ってこなかったので・・・」


「あら、本当にあの鞄一つで来られたんですか!? てっきり後から荷物がくるのかと・・・」


 ないない。所詮は美少女なだけの買われた平民ですから。


「服・・・一応あとで買ってきますね。寝巻や作業着程度なら売ってますから。」


 それで十分です。私は礼を言って顔を洗った。メイドはぱたぱたと忙しそうに走り回っている。


 言われたととおりに厨房に行き、ぬるくなっているスープを飲んでパンを齧った。次はババアの世話か・・・


 やる気はでなかったが屋敷の外に出た。ここは少し高台になっているので眼下に小さな村が見える。本当にド田舎まできてしまった。ため息をついて昨日ババアが消えた建物の前に立った。丸い家なんて初めて見た。入りたくないなあと思いながら扉をノックした。反応なし。中で死んでんじゃないだろうな・・・


 仕方なく扉を開けて中を覗いた。朝なのに薄暗い。なにやら妙に甘いにおいもする。


「入るなら入れ。ドアを閉めろ。」


 奥からババアの声が聞こえたので仕方なく中に入って扉を閉めた。気のせいか息がしずらい。


「何しにきたんだ。」


 ババアは床に座って筒状のものを口にくわえていた。それを吸い込んだと思ったら口から白い煙を吐き出す。だからここの空気は濁っているのか。


「ええっと、おばあ様の手伝いをするように言われまして。」


「あんたは魔法を制御できるのか?」


「・・・いえ、私は魔法は・・・」


 使えないと言おうとしたらババアが鼻で笑って咥えていたものを皿に置いた。


「ちょっとこっちおいで。」


 手招きされて恐る恐るババアの近くに座った。


「もっと近く。もっとだ。」


 ババアは近づいた私の額を指で弾いた。


「痛っ!」


 慌てて額を押さえるとババアは薄ら笑いを浮かべて言った。


「もう一度聞くよ、あんたは魔法を制御できるのか?」


「できません。」


 なぜか勝手に口が動いた。


「これまで使ったことのある魔法の種類は?」


「火だけです。」


「誰かを火魔法で攻撃したことは?」


「男を二人燃やしました。」


「そいつらは死んだのかい?」


「わかりませんが死んだと思います。」


 ババアは薄ら笑いのまま続けた。


「親はなぜ死んだ?」


「父親は見たこともありませんが死んだと聞いてます。母親は殺されました。」


「母親の石は何色だった?」


「・・・赤茶でした。」


 唐突に思い出した目が眩むような怒りに体が揺れた。


「よしよしよし・・・もういいよ。お茶でも飲むかい。」


 ババアはそう言ってお湯を沸かし始めた。


「私に・・・何をしたんですか?」


「ちょっと嘘がつけなくしただけだよ。あんたは嘘ばっかり喋るからね。」


 私はため息をついた。


「クソババア・・・」


「もう魔法は解いてるよ。でもまあ、あの気持ち悪い喋りよりそっちの方がいいね。」


 ババアはくすくすと笑った。なんだか急にどうでもよくなって私は床に胡坐をかいた。スカートだけど別にババアしか見てないからいいだろ。


「あんたの世話しろって言われたんだけど。」


「そこまで耄碌はしてないんだけどね。」


「もうろく?」


「まあ、あと百年生きるとは思えないが。」


「ばあさん今いくつ?」


「五百歳ぐらいだね。」


 そう言ってババアは私にコップを差し出した。なんだか懐かしい匂いがする。


「・・・知ってるお茶かい?」


 促されて一口含んでみた。


「懐かしい気もするけど・・・よくわかんないや。とにかく私はここでボケた年寄の世話をすればいいのね?」


「誰がボケ老人だ。あんただって魔女の末裔だろう?」


 魔女、悪魔。そんなことを叫んで火をつけられた。私が生き残ったのは子どもで、顔が奇麗だったからだ。


「まあね。でもみんな死んじゃったからよくわかんない。」


「あたしがあんたに魔女として生き抜く方法を教えてやるよ。」


 ババアが笑った。悪魔的な笑いだ。さすが魔女。


「それって守り神とか言われて一生このクソ田舎で生きるってことでしょ? 嫌だよ、私は適当なところで出て行くから。」


「出て行って行くとこあんのかい?」


「・・・あるよ。」


「友達がいるようには見えないが。」


「失礼な。一人だけいるよ。」


 あの王都で会ったあの面倒見のいいお姉さまなら、私が死んだら泣いてくれるだろう。それってたぶん友達だ。


「まあともかく、しばらくいるなら色々覚えて損はないさ。あたしのことは師匠って呼びな。・・・そういやあんた名前は?」


「昨日言ったよ・・・ルビー。やっぱボケてんじゃん。」


 こうして私の魔女修業が始まった。


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