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【完結済】生まれ変わっても一緒にいるとか言ってません!  作者: 紫藤しと
第二章 リチとダリッチの慕情

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8.前世の家

 翌朝の朝食はハジムと二人だった。その席で遠出をしないかと誘われた。


「仕事は、いいんですか?」


「うん? 月末処理も終わったし少し休みを取ろうかと思って。君さえよければドーナー領とか言ってみる? 泊まりになるけど。」


「・・・はい。」


 少し迷ったが大人しく頷くと、ハジムはさっそく用意をするように使用人に言いつけた。


 ドーナー領はダリッチが前世のほとんどを過ごした土地だ。懐かしいのと同時に少し怖くもあった。俺はあの場所が、あそこにいる人達が大好きだったから。今はいったいどうなっているんだろう。


 馬車で昼前に王都を出て夕方の明るい時間に領地に着いた。


「近くなったでしょ? 今はスピードだしてもあまり揺れなくなったからね。日帰りもできるようになったけど、なんか風情がないよね。」


 俺は曖昧に頷いた。馬車の中でもずっとこんな感じだった。ハジムが一人で喋って俺は頷くだけ。


 用意された客間に入って旅装から普段着に着替える。鏡には長い髪を垂らした化粧気のない少女が映っていた。昔のリチは髪をきれいに結いあげ薄い化粧もしていた。俺が目覚めてからはいっさいやらなくなったが、もうちょっと何かした方がいいのかもしれない。とはいえ今から誰かに頼むの嫌で俺はそのまま部屋を出た。


 そのあと執事に案内され屋敷の中を見て回った。屋敷の中はほとんどの内装が変わっていたので思った程の感動はなかった。ただ今の執事の顔が昔いた執事に似ていたのが一番面白かった。


 あの人最後まで俺のこと嫌いだったんだよなぁ・・・まあ使用人の小僧がいつの間にか領主のパートナーになっていたんだから、代々仕えている執事様は不満だったんだろう。決して人前では出さなかったけど。


「他にも離れや警備隊の施設などもございますが、広いのでまた後日ご案内させて頂きます。お茶の用意をしてございますので、ごゆっくりとお寛ぎください。」


 執事は礼をして部屋から出て行った。部屋の中ではハジムが座っている。テーブルの上にはお茶の用意がされていた。


「もうすぐ夕食だから軽めにしてもらったよ。久しぶりのこの家はどうだった?」


「なかなか面白かったです。」


「かなり変わってるから懐かしいって感じじゃないよね・・・ところで急になんなの?」


「え?」


「その喋り方とか態度とか。まだ怒ってるの?」


「怒ってはないです。別に。」


「今のお・・・私は、リチなので。」


 ハジムがテーブルに頬杖をついて何とも言えない目で俺を見た。


「・・・もう一回キスしたら元に戻る?」


「戻りません!」


 勝手に顔が赤くなる。リチは純情な15の女の子だから仕方ないけど。


「困ったな。これはこれでドキドキするね。」


 ハジムが全く困ってないように微笑んだ。なんかズルいなぁ。なんでハジムは変わってないんだろう。


 場の空気を誤魔化すために俺はお茶を飲んだ。ハジムは瞬きもせずじっと俺を見ている。


「・・・あんまり見ないでもらえますか。」


「無理。」


 即答されて思わず睨むとハジムは笑ってやっと視線を外した。


「そう言えば僕、今まで一度も人を口説いたことないんだよね。結構楽しいんだね。」


 楽しかったかなぁと思って前世を思い出してみたが、あまり楽しくはなかった気がする。


「そりゃ、あんただけだよ。」


 うっかり普通の口調で言ってしまい口を押えた。頭の中と違う言葉を喋るの難しいな。


「・・・別にいいと思うよ、二人でいる時ぐらい。周りに他の人がいる時はもうちょっと押さえた方がいいけどね。リチの評判に関わるから。」


 ハジムの言葉に深く頷いた。まったくその通りだ。


「じゃあしばらくは普通に喋る。・・・あのさ、ということはやっぱり筋トレも止めた方がいい?」


「止めた方がいいね。使用人が本気で心配してたよ。運動がしたいなら乗馬は? あれ結構疲れるよ。」


 あちゃー・・・周りに心配されてたのか。そりゃそうだよな、どう見たって奇行だもんな。


「乗馬ねぇ。昔馬から落ちて以来苦手なんだよな。」


「そんなことあったっけ?」


「・・・あんたが王都で魔王と戦ってた時だよ。」


 正確に言うとその少し前だが、こいつは戦いの後しばらく寝込んだから覚えちゃいないだろう。


「あー思い出した。僕のラブレター読んで急いで僕の所に駆けつけようとしたんでしょ? 後から聞いたよ。きみ僕のこと大好きだよね。」


「あれはラブレターじゃなくて遺書って言うんだよ! 心臓止まるかと思ったわ。」


 ハジムは何が楽しいのかくすくす笑っている。


「ろくに馬に触ったこともないのに鞍もつけずに走り出したんでしょ? そりゃ落ちるよ。うちの優秀な馬で良かったね。一歩間違えれば大怪我してたよ。」


「うるせえな。昔さんざん怒られたからもういいよ。お陰で今も馬怖いんだよ。」


 ハジムはひとしきり笑ったあとなぜか俺の手を握って言った。


「じゃあ明日は乗馬だね。楽しみだな。」


 そう言って左手の甲を撫ぜた。体がぞわぞわする。赤くなって俯いているとハジムが笑った。


「これも思い出したんだけどさ・・・僕、きみにそういう顔させるの大好きだったんだよね。ごめんね意地悪ばっかりして。でも今回もよろしくね。」


 左手の痣に口づけられて体が震えた。


「・・・っもうっ! 無理っ!」


 左手を取り返して立ち上がった。


「いちいちいやらしいんだよ、あんたは! 触んな! こっちくんな!」


「えー口説くっていったじゃない。」


「もうちょっと健全な口説き方しろよ! 15だぞこっちは!」


 ハジムが何かを考えながら近づいて来ようとしたので慌てて後ずさった。


「近寄んなぁ!!」


「ダリッチ、声大きいよ。」


 指でシーッとされて慌てて口を閉じた。ちょっと動揺し過ぎた。


「まあ元々きみが卒業するまで手を出さないつもりだったし安心していいよ。ちょっとずつ慣れてね。」


 慣れる? これに? え、無理・・・俺、昔どうやって対応してたんだろう。


 その後は子供をあやすように接されて、ご飯を食べていつの間にか横になっていた。もちろん部屋は別々だ。


 寝る前に思い出したのは、前世はいつも俺が一方的に追いかけてたのでこんな状況はあり得なかったという事だった。たまに向こうからキスされるだけで俺泣きそうになってたもんな。あれ、今とあんまり変わってなくね・・・


 深く考えてもいいことはなさそうだったので無理やり眠ることにした。明日考えよう。



今日は三話更新です

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