6.少女かおっさんか
「何してるんじゃ?」
俺が部屋の床で寝転んでると魔女が突然現れて言った。
「勝手に入ってくんな・・・」
仕方なくのろのろと起き上がってルビーを睨む。たった三回の腕立て伏せでこの体は疲労困憊だ。でも初日は一回もできなかったんだから進歩してると思う。
「その体に筋肉つけてどうするんじゃ?」
ルビーが呆れた様に言って勝手にベッドに腰かけた。
「こんなひ弱な体怖すぎるだろ。なんかあったらすぐ死にそうだもん。ところで何か用?」
「用がなかったら来てはいかんのか?」
「当たり前だろ・・・いつから友達になったんだよ。」
ともだち。と呟いてルビーは何かを考えるように腕組みした。
「わかったら帰れよ。もしくは普通に玄関から来てよ。」
「よし。友達になろう。」
ルビーが何かを決心したように言った。
「は?」
「友達じゃ。わしの友達は死んでしまったのでな・・・」
ルビーは遠い目をするが、そりゃ100年経てば普通の人間は死ぬだろうな。
「いやいや、こんな年齢も性別も・・・」
俺は言いかけて気が付いた。魔女の年齢ではよくわからないが、俺も前世から数えると中身は50過ぎだ。見た目はお互いに15歳だし、よく考えたら俺は今少女だった。
「見た目的にはアリだな・・・」
「うん。あとわしは少しでもユマの近くにいたいんじゃ。ユマに会いたい。」
ルビーはわざとらしくワッと顔を覆った。ウソ泣き下手過ぎるだろ。
でもまあ、俺も暇だからいっか。俺はそう決めて立ち上がった。
「えっとお茶会とかやってみる? 貴族の女はお茶飲みながら何時間も喋るんだろ? リチはやったことないけど・・・」
ルビーが了承したので二人分のお茶を用意してもらった。ドーナー家の使用人は100年後も優秀で、突然現れた怪しい客にも動揺せずお茶を用意してくれた。
「えっと・・・乾杯とかすればいいのかな。」
テーブル一面に並べられたお菓子を見ながら途方に暮れる。お茶会のルールなんてわからない。
「普通は主催者が参加者にお礼を述べて始まるな。だがわしらの間ではどうでもよかろ。勝手に食うぞ。」
ルビーはそういうとお菓子を口に入れて食べ始めた。俺もほっとしてクッキーを摘まむ。ちょうど昼下がりで小腹が空いていた。
「・・・15歳の女の子って普段なに喋ってんだろうな。」
リチは引っ込み思案でほとんど家族以外とは交流せずに育った。なので普通の女の子のことがよくわからない。
「わしが15の頃は・・・お茶会やらパーティやらで死にそうじゃった・・・」
ルビーはあまりいい思い出がないらしい。
「どういうこと? ルビーって貴族だったの?」
「貴族ではないがこの通り美少女じゃったのでな。美貌に目をつけられ貴族の養子となり大金で身請けしてくれる男を探し歩いてたんじゃよ。しんどかったなぁ・・・」
この傍若無人な魔女が大人しくそんなことをしてたとは意外だ。
「それで見つかったの?」
「まあな・・・でも色々あってその家はとっくに潰れたよ。」
ルビーはこちらを見てニヤッと笑った。悪い顔だ。
「その人はルビーを魔女だって知らなかったの?」
「知ってたさ。でも魔女の恐ろしさを理解してなかったただの阿呆だ。まああれは師匠が悪いがな。」
「師匠?」
「うん、年寄の魔女がその一家をずっと甘やかしてたんじゃよ・・・こっちもとっくに死んだけどな。」
「へー」
長生きしてるだけあって色々あったんだな。
「その後治療師になって、たまたま出会ったお姫様に惚れこんで、監禁したってことであってる?」
「雑にまとめるな。別に監禁はしとらん。」
「いやいやユマ様と一緒に閉じこもって出てこなかったらしいじゃない。ドーナー家にまでなんとかしろってお達しがきてたよ?」
「・・・色々あったさ。二人であちこち旅行をしたり、何時間も語り合ったり睦みあったり。」
旅行?と思ったが魔女には瞬間移動がある。人と一緒に移動できるならそりゃあどこへでも行けるだろう。閉じこもってたんじゃなくてそもそも中にいなかったのか。
「だけどユマはだんだん笑わなくなって死んでしまった。・・・何でだ?」
束縛し過ぎたんじゃない?とはちょっと言えなかった。ルビーがとても辛そうな顔をしていたから。
「魔女の愛は重い。だがそれはわしが魔女である以上変えられん。なぜユマは受け止めてくれなかったのか・・・」
ルビーは独り言のように続けた。このまま一人の世界に入ってしまいそうなので仕方なく口を挟む。
「人間が受け止められる量には限度があるからね・・・」
「だが愛しているならできるだろ!?」
ルビーが泣きそうな顔で叫んだ。その顔を見てこっちも泣きたくなった。なんだ、本当は全部わかってるのか。
「愛して・・・なかったんじゃないの?」
口に出すと鼻の奥がつんとした。まるで昔の俺とハジムを見てるようだ。ただ片方が一方的に愛してただけなんだ。
「なんで、お前が泣くんじゃ?」
「うっせぇ・・・」
こっち見んなとか触んなとか、色々言いたかったけど声が震えるので言えなかった。ルビーは勝手に俺の隣に来て俺の頭を抱き寄せた。まるで子どもをあやす様によしよしと頭を撫でている。
「可哀想にな。あんな男はやめて次はわしにしてみるか? ユマが生まれるまでの間なら相手してやるぞ?」
「うるさい女好きのロリコンが。」
俺は鼻を啜りながら断った。魔女と付き合うなんてとんでもない。
「別に女好きでもロリコンでもないわ・・・どちらかというと次は男がいいと思ってたわ。そろそろ子を産みたいのでな。女同士では子ができん。」
子どもねぇ・・・前世では俺とハジムの間に養子をとるという話もあったが、ハジムの姪が無事子どもを産んだのでその話はなくなった。今もドーナー家はその血筋が続いているはずだ。そうか、今の俺なら子供を産めるのか。
「ちょっと離れてもらえますか。」
息を切らせたハジムが突然部屋の中に入ってきて言った。




