3.前世で見た魔女
「天才美少女魔女★ルビー様のお出ましじゃ!」
そういうと魔女はおかしなポーズで固まった。
「あ・・・うん、久しぶり。」
「反応が薄いー。百年ぶりだよ? もっと驚いて?」
「あ、うん。取り合えず座ったら?」
魔女はむうっとした顔をしながらも大人しく俺の正面のソファに座った。
魔女は前世で見た時と変わっていなかった。どうやら15歳で歳をとるのを止めたというのは本当の様だ。
「久しぶりだね・・・ルビー、だよね?」
「様をつけろ! と言いたい所じゃが、長い付き合いに免じて特別に許してやろう!」
魔女が高笑いする。魔女のテンションが高いほど、俺は冷静になっていった。
「そりゃどうも。ところでその変な喋り方なに? 前は普通に喋ってたよね?」
「最近の魔女はこういう喋り方をするんじゃろ? 本で読んだ!」
「・・・ああ、絵本の話ね。」
適当に返事をしながらお茶でもだそうかと考えたが、この人を人目に晒してもいいのだろうか。この魔女はかなりろくでもなかった気がする。
「なんじゃ? この家はお茶も出んのか?」
「あんたを見たらみんな腰抜かしちゃうでしょ。何しに来たの?」
「そりゃあユマを探しに来たに決まっておろう?」
魔女の目が赤く光る。ユマというのは魔女の恋人の名前だ。この国の姫だったのに幼いころに魔女に目をつけられ、ほとんど表にでることもなく死んだ可哀想なお姫様。
「ここにいるの?」
俺もハジムも生まれ変わってるぐらいだし、ユマ様も生まれ変わっていてもおかしくないけど。
「いや・・・正確にはまだ生まれてない。だがお前がユマを生むとわしは予想した!!」
勝手にすんな。
「無理。相手もいないし。」
「は? 相手ならいるだろ? さっさと子作りしろよ。」
魔女が本性を現してきた。本当にこの魔女は性格悪くて自分勝手で嫌いだ。
「あんたに命令される覚えはない。」
「はあ? ぶっ殺すぞ。こっちが下手に出てるうちに言う事聞けよ。」
「うっさいロリコン魔女。俺はあんたをまだ許してないからな!」
魔女と睨み合っていると、遠慮がちにドアが叩かれた。どうやら廊下まで俺の声が聞こえてしまったらしい。
「何でもないです!」
扉に向かって叫んでから再び魔女を睨む。
「帰ってくんない? 俺は殺されてもあんたの思い通りなんてならないから。」
魔女はやれやれといった顔で立ち上がった。
「また来るぞ!」
そう言って魔女は姿を消した。前世と同じだ、魔法で瞬間的に移動してしまう。
「来んなっての。」
俺の言葉は静かな部屋の中でただ消えていった。
ドーナー家の夕食はとても静かだ。ハジムの母が少し話して周りはそれに相槌を打つだけ。ハジムの父に至ってはそもそも国中を飛び回っていてあまり家にいない。リチだった時はこの静かな食事にとても萎縮していたが今ならわかる、ハジムの両親はあまり子どもに興味がないだけだ。
食事が終わり義母はとっとと自室に戻ってしまった。いつもならハジムも仕事に戻ったりするが今日は俺の部屋に行っていいかと聞かれた。
え、まだ結婚してませんよ? と思ったが、なんてことないように微笑まれると黙って頷くしかなかった。そりゃね、前世だったら四六時中一緒に居たし、別にどうってことないんですけどね? 一緒に広い屋敷を歩きながらもやたらドキドキするのは、たぶんリチがこいつに惚れてたからだろう。
部屋に入って一緒に食後のお茶を飲んだ。メイドが下がり部屋に二人きりになったところでハジムが切り出した。
「確認なんだけど・・・今日、ここに誰か来た?」
探るような視線に昼間を思い出す。独り言にしてはデカい声だしたもんな・・・
「魔女、だよね?」
なんだ知ってるのか。俺は仕方なく頷いた。まあ使用人に気付かれずにいつの間にか部屋にいるなんて魔女ぐらいしかいないか。
「魔女は何しに来たの?」
言いたくないなあ。っていうか女の口から子作りとか言えるかよ。
ハジムがため息をついた。
「ダリッチ、頼むから何か喋って。」
俺がどう説明しようかイジイジと考えていたら、魔女がいきなり部屋の中に現れた。
「なんじゃい、わしが説明してやろう!」
テンションの高い登場にうんざりする。でも同時に少しだけホッとした。夜にハジムと部屋に二人きりとかしんどい。
「ルビー・・・様。お久しぶりですね。」
ハジムが業務用の笑顔で言った。付き合いが長いから俺にはわかる。ハジムもこの魔女が苦手だ。
「よう弟! なんじゃい今回は兄に似せたのか? 気持ち悪いブラコンじゃのう!」
カカカと笑い飛ばす魔女に少しだけ同意した。今のハジムに兄弟はいないが前世では兄が一人いた。兄さん兄さんと兄を追いかけていたハジムは、今で言うところのブラコンで間違いない。
「うちになにか用ですか?」
ハジムは無表情に言った。愛想よくするのはやめたらしい。
「うむ。簡単に言うとお前らの子どもがユマになるかもしれん。早く子を作れ。」
ハジムが表情を変えずにイラっとしたのがわかった。前世で何度も見た表情だ。むしろ前世の俺はこいつしか見てなかった。
「・・・貴重なご意見どうも。ですがそれを魔女に指図される覚えはありませんね。」
ハジムが営業用の笑顔で笑う。すごく怒ってる。
「あ? 魔女の言う事が聞けないとでも?」
「ええ。・・・あなたユマ様が死んでから100年ぐらいふて寝してたんでしょう? だったらあと数年ぐらい待てるでしょうに。」
「待つのも寝るのも飽きた。わしは今すぐあの子に会いたい。」
魔女とハジムの間に火花が散った。これもう、俺は口挟めないな。
「・・・昼間こいつは相手がいないと言ったぞ? 別にわしは相手がお前じゃなくてもいいんじゃけどな。」
魔女の言葉にハジムが信じられないという顔でこっちを見た。思わず目を反らす。確かに言ったけどさ・・・
「なるほど。確かに私と彼女の間には少し誤解があるようです。話し合いが必要なようなのであなたは出て行ってもらえますか?」
ハジムはにっこり笑って魔女に言った。うわ、すっごい怒ってる。
「なんでじゃ? 仲直りして一発ヤるところまで見届けてやるぞ?」
「・・・そういう趣味はないので。出て行って下さい。」
魔女は少し考えたが肩をすくめると姿を消した。同時にハジムが俺の真横に座った。
「ダリッチ、どういうこと?」
顔を見なくても怒っているのがわかる。俺は反対の方を向いて言った。
「別に・・・まだ婚約しただけだし。可能性はあるだろ。」
ハジムの両手が強引に俺の頬を掴んで振り向かせた。目の前に怒っているハジムの顔がある。見ていられなくて目を伏せる。
「・・・ないよ。僕が君を逃がすと思う?」
物騒な言い方に顔を上げるとハジムは真剣な目でこちらを見ていた。ギラギラした光に目を反らす。
「手、離して・・・」
「無理。何年待ったと思ってるの。魔女の言う通りにこのまま襲い掛かってもいいんだよ?」
マジかよ。と思ってハジムの顔を見ると妙に熱っぽい目をしていた。前世で見たことがある目だ。この目で見られると泣きそうなぐらいいつも嬉しかった。滅多になかったけど。
「ダリッチ・・・」
ハジムの顔がゆっくりと近づいてくる。死にそうな程ドキドキする。でも、やっぱり。
「無理っ!」
俺は両手でハジムの顔を叩いた。ハジムが顔を押さえた隙に立ち上がって逃げる。
「無理! 今は無理!」
「・・・何で? 初めてって訳でもないのに。っていうか初めての時は君が勝手にキスしてきたんじゃないか。」
「そ、んな昔のこと持ちだすなよ! 関係ないだろ!」
「あるよ。お互い見た目は変わったけど、魂は一緒だろう?」
魂。確かにリチの魂と俺の魂はとくに違和感もなく馴染んでいる。俺はリチであり、リチは俺だ。だけど。
「・・・俺、あんたのこと好きじゃないから。」
ハジムが怒った表情で立ち上がった。
「リチはあんたのこと好きだったみたいだけど、俺はあんた好きじゃない。俺が好きだったのは前のハジムだ。」
怒っていたハジムの表情が少し和らいだ。俺に伸ばそうとした腕を引っ込めて困ったような顔で言った。
「どういうこと? 前世の僕も今の僕も一緒だよ?」
「違う。前世のあんたはそんなギラギラしてなかった。」
「ああ・・・今回もそれ言うんだ。」
ハジムは急に疲れた様にソファーに戻ると乱暴に腰を下ろした。足を組んで片手で頭を抱えている。前世でたまに見たハジムが本当に疲れているときの仕草だ。
「ずっと僕のこときれいだって言ってくれてたもんね・・・今の僕はきれいじゃない?」
弱り切った笑顔で言われると胸の奥がキュンとする。駆け寄って抱きしめたくなるが、それはリチの気持ちであって俺じゃない。
「・・・きれいだけど、俺が好きなったハジムじゃない。」
ハジムは寂しそうに笑っただけで何も言わなかった。しばらくの沈黙の後ハジムは立ち上がり、少し忙しくなるかもしれないから食事を一緒にするのも難しくなるかもしれないと言った。母は気にせず部屋で食事を取っていいとか、学園にも行くといいとか。そんなことだけ言ってハジムは部屋を出て行った。俺に触らずに。




