21.生贄
少女の母親は確かに死にそうだったが、私の治療ですぐ回復した。あまり長生きできなさそうな体だったが、それは寿命なので私にはどうしようもない。
少女はユマと言って7歳の王女だった。小さなお姫様が向こうから、私の手の中に落ちてきた。
「ルビー」
ユマが可愛らしい声で私を呼ぶ。その表情は冴えない。周りの大人から色々知恵をつけられたらしい。
ユマの母親を治した後、私は城の一室に閉じ込められた。別に出て行こうと思えばいつでも出られたが、泣いて喜ぶユマと母親の邪魔はしたくなかった。そうしたら夜になってようやく紫の男がルビーをこの部屋につれてきたのだ。まるで生贄のように。
「あの・・・私が欲しいって言ってたけど、少し待ってくれないかしら。」
私はあまり明るいのが好きではない。だから部屋の明かりはつけていなかった。だが今夜は満月だ。窓際では困っているユマの顔がはっきり見えた。
「あら、約束を破るんですか?」
「そうじゃなくて、あの・・・私まだ七歳ですし。まだ色々やりたいこともありますし・・・」
「別に待ってもいいですけど、いつまでですか?」
「・・・18才。」
ちょっと長いなあ。
「なんで18なんです?」
「・・・私、王立学園に通いたいの。学園に通って、お父様とお母様みたいな素敵な恋をしたかったの。」
私とすればいいのに。とは思ったが7歳の子にはまだ難しいのかもしれない。
「まあ、いいですけど・・・」
ユマの顔がぱっと輝いた。可愛いなあ。
「その代わり私も一緒に通いますよ? あなたは私に恋をすればいいんです。」
「ルビーは大人でしょう?」
ユマは不服そうに口を尖らせた。
「私、何歳に見えます?」
「・・・二十歳ぐらいかしら? 学園に通うなんておかしいわ。」
「なるほど、じゃあこうしたらどうでしょう。」
私は自分の十五歳の頃を思い出そうとしたがよく覚えてなかった。まあとにかく幼くなればいいんだ。確かこんな感じに・・・
「どうでしょう?」
ユマは口を押えて後ずさった。
「信じられない・・・」
「15歳に見えます?」
ユマは無言で何度も首肯した。どうやら見た目を15歳にすることに成功したらしい。
「これで学園に通えますね。」
私は微笑んだがユマは怯えた顔をした。今更怖がったって無駄なのに。
「でも八年も待つんですから、あなたが私のものだって印をつけないと・・・」
ユマが更に怯えた顔になって後ずさる。私はそれを見ながら祠の中から石を一つ手元に移動させた。かつて私の目から落ちた1センチにも満たない透明な石だ。これなら人間に埋めても悪影響はないだろう。それにかつての私自身をユマの中に入れるなんてゾクゾクする。
私は床に膝をついてゆっくりユマを引き寄せた。怯えているのか何も言わない白い頬を撫でる。ユマの肌はすべすべして気持ちがいい。ここかな。
ユマの左目の少し下に、私の透明な石を埋め込んだ。ユマの顔が苦痛に歪んだ。
「これで、あなたは私のものです。」
そう言って私はユマにキスをした。これは誓いと約束と呪いだ。ユマの体は恐怖のせいかガクガクと震えて床に崩れ落ちた。
「ユマ様!」
紫の男が駆け寄ってきた。倒れたユマを抱き起しながら言う。
「何をしたんですか・・・」
白々しい。私は鼻で笑って立ち上がった。
「あなただって共犯でしょ? 中途半端な悪魔さん。この子の母親を生かすためにこの子を差し出したくせに。」
悪魔ならこうなることぐらいわかっていたはずだ。
「私は・・・悪魔ではありません。」
「昔は知らないけど今は悪魔よ。人の女に横恋慕するしかない可哀想な悪魔。」
私はニヤニヤ笑って言ったが、男は何もいわずにユマを抱き上げた。
「そうそう、学園に入るまで変なのをその子に寄せ付けないでね。全員ぶっ殺すわよ。」
男は私と目を合わさず無言のまま一礼してユマと共に部屋を出て行った。
「八年か・・・」
明るすぎる月を見ながら呟いた。ちょっと長いなあ。でも学園で素敵な恋というのを私もしてみたい。昔少しだけ学園に通ったこともあるがその時は結婚相手を探すのに忙しくてろくに通えなかった。ユマと一緒ならきっと楽しいに違いない。ユマもその頃には更に美しく成長しているだろう。
「それまで何してようかな・・・」
もう私の運命の人には出会ったので医者をやる必要はない。だが何もしないで八年というのは長い。
・・・寝とこうかな。あの祠で眠っていれば八年はあっという間だろう。問題はお姉さまが心配することぐらいだ。
私は部屋の中を探して紙とペンを見つけた。字を書くのは数年ぶりだ。
『お姉さまへ
私は運命の人を見つけました。
まだ幼いので彼女が成長するのを眠って待つことにします。
八年ぐらいでまた起きるつもりですので、その時はまた会いに行きますね。
お体には気をつけて
ルビーより
追伸 その男と別れたくなったらいつでも呼んでくださいね。
お姉さまの為ならいつでも飛んでいきます。』
短い文だが忘れている字もあってなかなか奇麗に書けなかった。あまり汚い字じゃお姉さまにガッカリされてしまう。何度も書き直してやっと納得がいく字が書けた時には、既に夜が明けようとしていた。
封筒に入れてお姉さまの家に飛ばす。なんだか物凄く疲れた。顔に違和感を感じ部屋にあった鏡を覗き込むと若返った私は消え、いつもの年相応の顔に戻っていた。
どうやら外見を変えるのは大量の魔力が必要らしい。こんなんじゃ一緒に学園に通う事なんてできない・・・考えた私は祠へと移動した。ずっと置きっぱなしになっていた師匠の石を掴む。
この石を取り込めば、きっと物凄い魔力が得られる。だがそれは師匠と同じように一人で何百年も生きることを意味する。ユマは人間だからきっと100年も経たずに死んでしまうだろう。その後の残された長い人生は・・・
赤く輝く石を見ながらしばらく考えたが、私はそれをゆっくりと自分の胸元に収めた。
同時に大量の魔力が体に入ってきて脳みそが揺れた。暴れまわる魔力を必死で押さえていると師匠の石はパタリを抵抗をやめた。勝った。
だが過剰に溢れ出る魔力になんだが気が遠くなってきた。そういえばここは師匠が寝ていた場所だ。横になり目を瞑って考える。
美しく成長したユマのこと。学園の制服を着て笑うユマ。私に手を差し伸べるユマ。それはきっと近い将来のことだ。だって私は絶対にユマを放しはしないから。
素敵な恋をして、愛し合って、ユマが死ぬまでそばにいる。私は幸せなおばあちゃんには多分なれないけれど、ユマと束の間でも幸せに過ごせるなら本望だ。
ユマ ユマ
大好きよ。ずっと一緒に居ようね。
八年後の素敵な未来に向けて私は眠りについた。幸せな未来を夢見て。
ユマ
私のすべてを、魔女の純情を、あなたにあげる。
ルビーが猫被ってた学生時代を知りたい方は、
幣作「生まれ変わったのに始まりません!」 https://ncode.syosetu.com/n3955hz/
↑の第三章をどうぞ。
明日は三話更新です。




