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【完結済】生まれ変わっても一緒にいるとか言ってません!  作者: 紫藤しと
第一章 魔女の純情
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2.初夜

 結局初日は自室の整理と掃き掃除と窓を磨いて終わった。なんと二階の一部屋を丸々私一人で使っていいらしい。


「ここ、本来なら客間ではないんですか? 本当に私一人が使ってもよろしいんでしょうか?」


「ええ、旦那様の許可はでています。それに奥様にはご自分で洗濯していただきたい物もございますから、同室ではやりずらいだろうと旦那様が。」


「洗濯・・・ですか。」


 もう驚かないけどさ。


「はい。下着などの小物は奥様自身でお願いいたします。うちの洗濯係は息子ですから・・・お洋服は私が洗いますので。」


「なるほどですね・・・」


 いや全く納得できないがここは頷くしかなさそうだ。


「あの、ところでハリー様にはこれまで奥様はいらっしゃらなかったんですか?」


 こんな田舎の貧乏貴族、嫌だって逃げられたんですか?


「ええ、いらっしゃいませんよ。それなのにこんなに可愛らしい奥様を突然連れて帰るなんて、ハリー様も隅に置けませんね。」


 メイドはそう言って朗らかに笑うと部屋を出て行った。なんだか疲れてソファに座り部屋を見渡す。二人掛けのソファ、ローテーブル、暖炉、書き物机、大きなベッド。それぞれがゆったりとした間隔で並べられている。奥には水場とトイレまでついている。


 壁には作り付けの大きなクローゼットがあるが、中に入っているのは私が持ってきたものだけだ。派手なドレスが5枚、室内着の地味なワンピースが二枚。


「困ったな・・・」


 私はため息をついた。


 今夜は初夜だ。それなりに色っぽい恰好をするべきだとは思うが、それっぽい衣装がまったくない。いきなり下着で突撃するのも嫌だしな・・・


 考えながら奥の部屋に行きタライに水を張った。火の魔石をいれてお湯にすると布を浸して体を清めた。色っぽくはないけれど地味なワンピースで行くしかない。いや? 向こうからきてくれるんだろうか。わからんな・・・


 新しい下着を身に着けワンピースを着る。まだ皺がついているが別にいいだろう、すぐ脱ぐだろうし。


 こういうのは勢いだ。私は廊下に出てハリーの部屋の戸を叩いた。住み込みの使用人がいるとはいうが、住んでいるのは別の建物らしい。つまり、これからどんなことが起こっても誰も助けにはこないということだ。


 しばらくして中から返事が聞こえた。


「ルビーです。」


「・・・どうぞ。」


 扉を開けると昼間と同じ格好のハリーがいた。何か書き物をしていたらしい。怪訝そうな顔で私を見ている。


「どうしました?」


「・・・ご挨拶に。」


 何と言っていいかわからず取り合えず笑ってみた。


「お休みですか? ごゆっくり。今後はこういった挨拶は不要ですよ。」


 そう言ってハリーは書き物を再開させた。おいおいおいおいおいおい。何考えてんだこの男。


 仕方なく私は歩いて行ってハリーの真横に立った。


「・・・何でしょうか?」


「旦那様、今日がどういう日かおわかりで?」


 ハリーはため息をついてペンを置いた。


「・・・ああ、そういうことですか。これはわざわざご丁寧に。」


 あのさあ、可愛くて若くてきれいな嫁がわざわざこっちから来てやってんのにため息つかれる理由ないんだけど!?


「ですが結構です。お引き取り下さい。」


 ハリーはそう言ってまたペンを取ろうとしたので、思いっきり机を叩いてやった。


「あんまり私に恥をかかさないで下さいね。」


 笑おうと思ったが睨んでしまった。ハリーはしばらく私の顔を見たあと嘲るように笑った。


「・・・震えてるじゃないですか。私はあなたの体に興味ありません。お引き取り下さい。」


 嫌なところをつかれて慌てて机から体を離した。しょうがないだろ!? こっちは処女だぞ。どんな変態行為されるかもわからんし、初夜に殺される花嫁の話なんか腐るほどあるし。


「子作りは、私の仕事ではないと?」


「ええ。いざとなれば妹の子にでも継いでもらいますので。」


 ハリーはそう言ってドアを指した。あくまで帰れというのか。


「・・・わかりました。夜分に失礼しました。」


 なるべくなんでもないように一礼して自分の部屋に戻った。あまりにも腹がったので思わずソファを蹴りつけた。頑丈そうなそれはびくともしなかった。


「ふっざけんなよ・・・」


 大声で叫びたいが隣の部屋なので無理だ。苛立ちが収まらず置いてあったクッションを何度も殴る。


「あたしが! どんな思いで! ここまで来たと思ってんだ!」


 私にはもう身寄りがない。母親が死んでからは色んな男に連れまわされて生きてきた。私は可愛いから、金持ちに売ればお金になるから。そうやって最後に買ったのがあの男だったはずなのに。


 あーあ。私はベッドに寝転んだ。ベッドは大きくてふかふかで想像していた通りの貴族のベッドだ。


「ババアの世話しろっていってたっけ・・・」


 ババアの世話と少しの家事。見ようによっちゃ美味しい話なのかもしれないが、この私の可愛さをそんなものに費やしてもいいんだろうか。花の命は短いのに・・・


 緊張がとけるとなんだか眠くなってきた。明日のことは明日考えよう・・・



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