12.早い者勝ち
王都の路地裏に飛ぶと、おっさんは腰を抜かしたらしくしゃがみこんで動かなくなった。
「家、案内してよ。」
急かしても動かないので軽く蹴る。おっさんはよろけながら歩き出した。
「ここ、王都ですか?」
「そう。広場の近くだから知ってるでしょ?」
「あの、さっきまでどこにいたんですか?」
「知ってどうするの?」
軽く睨んだだけでおっさんは震えあがった。失礼だなあ、人を化け物みたいに。
仕方ないのでおっさんの腕に絡みついてみた。腕をくんで町を歩く。これってデートっぽっくない?
上目遣いにおっさんを見たが目を反らされた。こんなに可愛い子に密着されてるのに失礼な奴だ。
通りすがりの屋台で食べ物と酒を買い、おっさんの部屋へと行った。おっさんの部屋は半地下で小さな羽目殺しの窓とベッドとトイレしかなかった。狭いし暗いしかび臭いし可愛い彼女を連れて行っていい場所とは思えない。でも仕方ないか、拾ったおっさんだしね。
食事しながら私たちは色々な話をした。年齢は50過ぎだということ、昔は腕のいいパン職人だったが色々あって辞めたこと、奥さんは死んでしまったこと、息子が一人いるが30にもなるのに冷たくて金をくれないこと。
おっさんは酒を飲めば飲む程目がとろんとして饒舌になった。
「今どうやって生きてるの?」
「知り合いから奢ってもらったり・・・食べられそうなものだったら拾ったり。この部屋ももう追い出されそうなんだ。」
そう言っておっさんは上目づかいで私を見た。私は微笑んでおっさんにお金を渡してやった。
「じゃあこれで払うといいよ。私こんな汚い部屋は嫌だから。次私が来る時までに奇麗にしててね。」
ありがとうありがとうと私を拝み倒さんばかりに礼を言われて、少し相手を間違えたかなと思う。なんかカッコよくないなー。
ご飯を食べると眠くなってきたので、絶対に掃除しておけと言い残して私は祠に帰った。
次はもうちょっと小綺麗になってるといいなと思いながら眠った。
すぐ起きる予定だったが思ったより眠ってしまったらしい。祠から王都のおっさんの所に行くと、おっさんはベッドで横になっていた。髭はボウボウだし髪も汚く固まっているし、部屋の中は相変わらず臭かった。
「なんで掃除してないの?」
立ったままおっさんを覗き込むと、おっさんは無表情に私を見上げた。
「遅かったな・・・」
偉そうな言い方にカチンとする。
「は? 掃除しろって言ったでしょ? なんでやってないの?」
「掃除・・・しようかと思ったんだがな・・・」
おっさんの目が虚ろだ。部屋の中には以前なかった空の酒瓶が転がっていた。臭いと思ったら酒の匂いも混じっているらしい。
「あんた酒飲むから悪いんだよ。ご飯とお水置いとくからしばらく外出ない方がいいんじゃない?」
おっさんは何を言われているのかわかっていなさそうだった。
「ね? そうしなよ。あたしが面倒見てあげるから。」
おっさんの顔を覗き込んで笑うと、おっさんは曖昧に頷いた。
そうと決まれば話が早い。私は早速食料を買い込んでおっさんの部屋に持ち込んだ。ついでに部屋全体に魔法をかける。祠のように眠れば体が回復するようになったら、おっさんも多少は元気になるだろう。
「じゃあまた来るから。大人しくしててね。」
また外でお酒を飲まないように外に出られない魔法もかけた。これで完璧だ。
私は満足して祠に戻った。小綺麗になったおっさんとどこかの奇麗な家で二人で暮らす、そんな将来が楽しみだ。
***
すぐ起きたつもりで目を覚ましたが、どうやら数日経っていたらしい。
王都の中心部で買い物してからおっさんの部屋に行くと、部屋の中が荒れ果てていた。
ベッドは叩き折られ、壁には無数の傷があった。食べ物は床で腐ってるし糞尿の匂いまでする。
「何してんの? おっさん。」
床に転がっているおっさんを軽く蹴ると、おっさんはひゅーという細い息をだしながら上を向いた。顔色は悪いし目は窪んでるしよだれは垂れてるし。
死んでるんだろうか。早くない?
「ねえ、死んでんの?」
おっさんはゆっくりまばたきした。一応まだ生きてるらしい。
「・・・せ」
おっさんが枯れた声で何かを言った。
「え?」
「ころして・・・くれ・・・」
どうやら叫び過ぎて喉を潰したらしい。この部屋の音を遮断しておいて良かった。でなければ近所迷惑だっただろう。
「死にたいの?」
おっさんは無言で頷いた。別にこのままでも死ぬと思うけどなーと思いながら抱えていた袋をおっさんの横に置いた。中には果物と果物ナイフが入っている。
次はやっぱり若いのにしよう。そう思いながら私は外に出た。せっかくだから何か食べてから帰ろうかな、別におなか空いてないけど。
そんなことを考えながら歩いていると、背後でおっさんの声が聞こえた気がして振り返る。どうやら死んだらしい。あっけないなあ。
進行方向へ向き直ると、前から来ていた30手前ぐらいの男と目があった。眼鏡をかけたかわいい顔をした子だ。私は男に笑いかけた。
「何か?」
「あ、いえ。何でもないです。すみません。」
目を反らして横を通り過ぎようとしたので腕を取って捕まえた。上等な服を着ているし健康そうだ。
「何か探してるんですか?」
「えっとあの、知り合いがこの辺にいると聞いたので・・・ご存じですか? ゲーノという51才の男なんですが。」
「どうだったかしら・・・御身内の方?」
「父です。」
強張った顔で言う男を見ていたら、さっき死んだおっさんに似ていることに気が付いた。なるほどこれが”冷たい息子”か。おっさんが落ちぶれたのか息子が出世したのかはわからないが、そりゃああんな父親とは縁を切りたいだろう。
「・・・もう会うことはなんじゃないかしら。」
見れば見るほど好きな顔だ。私は胸を男の腕に押し付けた。
「あの、どういう意味ですか? 知り合いですか?」
男はどぎまぎしているようだ。腕を振りほどきたいのにできないらしい。可愛い。
「私、占い師なの。占いによれば・・・」
耳元で愛の言葉を囁こうとして、男からでる妙な匂いに気がついて止めた。
「あの、もうちょっと離れて頂けると・・・」
男の困った声に私は腕を離した。
「なーんだ。あなた既に所有されてるのね。」
「所有? 所属ならしてますけど・・・」
私はため息をついた。なるほどいい女も男も早い者勝ちらしい。つまらない。時間を無駄にした。
男が戸惑ったように後ろで何かを言っていたが、もうどうでも良かった。早く次の男を探さねば。認めたくないけど私って男運ないのかもしれない。




