お食事会の確認事項
「ダルクさん、恐縮ですが何か飲み物はありませんか?」
それはそうといい加減喉がカラカラです。
頼まれごとをされる立場は気持ちに余裕が出てきますね。
「トウカ、その要望に応えるには申し訳ないが、ワレの話をきいてくれるか。」
「はぁ、なんでしょう?」
「国王との会食。実は問題があってだな。なんというか・・・」
「なんというか?」
「ワレ達の食べ物が人間の口に合わず、食べると泡を吹いて倒れてしまうのだ。」
「うん?」
「問題が起こったのは、国王会食の前に行った外交の使者同士の会食の時だった。その時もワレが取り仕切り、ワレが外交の使者としてその場にいたのたが、食事をして少しの時がすぎた頃人間側の使者が倒れてしまったのだ。食事をとってない側近の者はなんともなってなかったから、食事が原因なのは間違いない。」
とんでもない事をしてますね、魔王軍もとい竜王軍。空いた口が塞がりません。油断させて毒殺なんて、さすが魔王にふさわしいです。
・・・なんて、思われてもしょうがないことをしでかしましたね。
「その際は側近含め、人間を監禁、治療しワレの部下を人間に変身させて、事なきを得たが」
いや、隠蔽してるだけじゃないですか。
「まさか、ワレ達とこんなにも食文化が違うとは・・・。昔から捕虜として捉えた人間達も食事を与えるとほとんど自決していたと記録がある。人間はそれほどまでに覚悟を決めた者たちしかいないと考えられていたが、単に食が合わなさすぎただけとは思わなかったからな。」
確かに、ドッグフードとかム○ュール食べたらお腹壊しそうですもんね。しかし、これは食文化とかの問題ではないのでは?
「ワレ達が直面している問題、それは人間にあう食事が見当もつかないという事だ。更に言えば単に食べられるだけでなく、美味と感じられるモノを提供せねばらなぬ。相手は国トップなのだからな。そういった意味では本当にまずい状況なのだ。」
「ちなみに、竜王様とやらにはこのことは?」
「無論伝えてない。余計な心労を増やすだけだからな。」
まずいですよ、これは。自分のミスというか、事故みたいなモノなのに報告できていない。このダルクとかいう男、顔はいいのに残念な男に見えてきましたよ。
「竜王様はこの度の停戦について、非常に喜ばれておられた。魔王軍の種族は違えど、同じ仲間の血が流れることはもうないと。その心に非常にワレは感動した。此度の会食、必ずや成功させてみせる!と誓ったのだ。」
悪い人ではないのでしょうが、残念な印象はまた拭えきれません。あれ?でも、この問題を解決するために私たちの世界から人間をつれてきたんでしたっけ。報告するにも打開策を見つけてからってこと?
「そこで、トウカまずはワレ達が食べている物が人間に毒なのかどうか見極めてもらいたい。」
「はい?」
はい?つまり、
「毒味役をしろってことですか!」
なんということでしょう。この異世界に来る時は命中率90%の即死魔法をかけられたと思いきや、今度はデッドするまで、毒攻撃をうけるはめになるなんて。
「安心しろ。毒味役というほど大層な役ではない。平気かどうか確かめて欲しいだけだ。何かあったときはワレの魔法でまた分解して再構築する。」
分解して再構築されるのは怖いのです・・・。それにしてもそろそろ本当に頭がパニックになりそうです。ああ、水が飲みたい・・・。
「ダルクさん、少しお水をもらってもいいですか?」
少し真剣に言います。
「さすがトウカだな。早速とは・・・。おい!持ってきてくれ!!」
なにか地雷を踏んでしまった気がします。いえ、どちらかというと手榴弾が降ってきて今爆発したという感じですかね。
「そう、まず初めにと言ったところか。そもそも、魔界の水は人間が飲んでも平気なのか、ということだ。」
魔界の・・・水!
富士の水とかアルプスの水とは一味存在感が違います!いえ、実際一味違ったら大変なことになりそうですが。確かに魔界のをつけるととんでもないことになりそうです。
「つまりこれは、魔界の雲から魔界の雨が降り魔界の山の魔界の土が魔界の雨を吸収し、魔界の地中にある魔界の水源を魔界の大工が魔界の工具により魔界の井戸を立て魔界の住人により組み上げられたのがこの魔界の水ということですね。」
「・・・そうだ。」
ダルクさんか部下のような方から水を受け取って、コップをこっちに渡してきました。
喉がカラカラなのは前に言った通りですが、こんなプレッシャーをかけられては飲めるものも飲めません。ですが、正直飲みたくてしょうがありません。元々人間は3日水を飲まないと死んでしまうと言いますし。いまの私ならば半日と持たないでしょう。どのみち、魔界の水が飲めなければ、10%の確率で元の世界に帰るしか生き残る方法はありません。
見た目とかにおいは元の世界のものと何も変わりませんね。これならばいけるのか。
「そうだ。これ一度沸かしてもらえますか?」
「わかった。」
ダルクさんがコップに手をかざすとみるみる水がポコポコ沸騰してきました。すごいコレが・・・魔法!
「あれ?なくなってません?」
「・・・おい、この水沸かして持ってきてくれ」
さて、仕切り直して、まぁ、うん、大丈夫だよね。
きっと、水は水だし。魔界のって言っても目の前にいるこの人も大概ヒューマータイプだし。
あと、だって透明だもん。透明ってことは何もないってことで、それは水である証拠。
いざ!私はコップ一杯の魔界の水を飲み干しました。
ああ、美味しい。生き返る。それはいつも飲んでいた。身近にありすぎて気が付かなかった美味しさ。
そう、この無味無臭。であるが故にいつでも迎え入れれる飲みもの。それが水。
「・・・大変、おいしゅうございました。」
「先に触るなり、舐めるなりしないまま豪快に飲み干すとは」
思ってたなら先に言ってください。
「なにか異常があればすぐに伝えるように。外には仕えのモノを立たせておく。」
仕えのモノを立たせてもらえるなんてVIP待遇ですね。
「わかりました。ありがとうございます。」
「最初の最初の問題をクリアしたところで、トウカにやってもらいたい具体的なことだが」
正直聞きたくありませんが。
「人間に出す料理の内容と人間を満足させれるような芸術的な何かを取り仕切ってほしい。」
ますます○長のシェフみたいになってますね。呼び出す人選間違ってません?
「まずはだな」
「その話ワシも混ぜてもらおうか。」
突然、重圧感のある声が混ざってきました。この年のとった声の主は一体?
「竜王様ッ!!」
竜王様でした。声の方向に目を向けると、そこには・・・ふくよかな体に王冠を被り、口髭顎髭を蓄えた、テンプレのような王様のような人が!
「まるで、王様。」
「いや、竜王じゃ。」
イメージとかけ離れた姿!
ついにトップの登場!
そして、
そこから、半年の月日が流れついに竜王と国王の会食が始まります。