接触
徐々に前へ進ませる足。
緊張で胸がドキドキしている。
運命の出会いは最初が肝心。
せっかくだから、第一印象は最高のものにしたい。
二万円。
いや……、モテ女として最高のシチュエーションを展開させて、奇跡と偶然を装って出会わなければならない。
メガネくんがあと三歩足を進ませたらスタートの合図。
私達の運命の出会いがいよいよ始まる。
赤の他人同士だけど、出会った瞬間からお互いの姿をお互いの瞳に映し、新しい恋愛を始める。
幾度となく恋愛を繰り返す恋愛マスターの私でも、最初の出会いはやっぱりドキドキする。
3……2……1……
と、拓真が三歩目の足を地につけた瞬間。
和葉はピストルの合図が頭の中で鳴り響いた。
しかし、それと同時に苦難が強いられる恋愛物語は幕開けを迎える。
バサーッ……
和葉は、拓真が三歩目を踏み込んだと共に何もないところでわざとつまづいて転び、大量のプリントを床一面にばら撒いた。
勿論、拓真は目の前で足を止める。
これは、通行の妨げになるように仕組んだ罠。
若干ベタな方法だけど、お互い目を合わせた瞬間恋に落ちるという作戦だ。
考え抜いた結果、これが一番学生らしくて純粋な出会い方だと思った。
「あらやだ、私ったら。お使いで頼まれた大事なプリントを床にばら撒いちゃった。どうしよう! 極秘文章かもしれないのに……」
嘘で塗り固められたセリフは若干棒読みに。
職員がどうたら書いてあるプリントは、どう見ても極秘文章ではないとわかっている。
でも、さすがに今のはわざとらしかったかな。
足元につまづくものは何もなかったし、他の生徒の通行の妨げになるくらいプリントが幅広く散らかってしまった。