金の香り
凛「あんたが拓真を落としたら二万円あげる。……どう? これで手を打たない?」
和葉「ににに……二万円?」
凛「そ、ヤル気になった?」
凛は浪費家の私にゲーム感覚で金の香りをチラつかせる。
勿論、友達からお金は受け取るのは気が乗らない。
だけど、実は来月行こうと思っているネイルサロンや美容院の予約があって、バイトの給料だけじゃ足りないなぁなんて思っていたところだった。
しかも、二万円なんて大金じゃん。
クラブ代や化粧代やネイル代や洋服代。
残念ながら私の財布はいつも閑古鳥が鳴いている。
でも、それはさすがに間違ってるんじゃないかと良心が痛む一方で、マネーゲームに食いついてしまっている自分もいる。
だから、心の中に潜んでいる悪魔が念の為に聞き直した。
和葉「ソレ……、マジで言ってんの?」
凛「だってあのカタブツ君、なかなか落ちそうにないじゃん。……それともやめる?」
凛は一瞬食いついた私にケタケタ笑った。
真面目系メガネくんは私のタイプじゃないけど、あの小麦色の美ボディ。
細マッチョが好物だから触ってみたい衝動に駆られる。
上腕二頭筋、胸筋、腹筋……。
ま、まぁ別に嫌いなタイプでもないし、ツンデレはちょっと面倒臭いけど。
無駄遣いし過ぎて遊びに行く金はないし、今はフリーだから時間もたっぷりある。
……ま、いっか。
細マッチョ以外好みじゃないけど、性格が合わなかったらソッコー別れればいいや。
和葉「いいよ。その話ノった!」
祐宇「そうこなくっちゃ」
凛「じゃあ、決まりね!」
私達は賭けのスタートの合図をするかのように、パチンと手のひらを上げて手を叩き合った。
しかし、凛はほんの冗談のつもりだった。
彼氏と別れたばかりの和葉を励ます程度の、些細な恋の提案のつもりだった。