8話 現実逃避 2
はぁ、はぁ……
ここまで来ればもう大丈夫だろう。
俺はクラリスから逃げるため、グランウェルの外に広がるミリー平原を走り続けていた。
どれくらい走り続けていたのかも分からない。1時間かもしれないし、2時間かもしれない。
このミリー平原を超えて、グランウェルから1番近い隣町へ移動する。それだけが俺の足を動かす原動力だった。
きっとクラリスは俺がいないことに気付いた後、俺を探してグランウェル中を調べ回るはず。
もしかしたら、騎士団と呼ばれる街の警備をしている人達がクラリスを捕まえている可能性もあるが……捕まえるどころか返り討ちに遭っている、そんな予感がしている。
だから少しでも早く隣町まで移動して、少しでもクラリスから距離を取りたい。
(とはいえこれ以上は……もう限界だ。一旦ここで野宿しよう)
実のところ、とてもじゃないがもう走れそうにない。
と言うのもよく考えたら昨日からピュラの実しか食べてないし、1日中クラリスに気を使っていたので心身ともに疲労している。
おまけに慌てて宿から出てきたので身体が濡れたまま。寒さで今にも凍え死にそうだ。
(インベントリさえ使えたらアイテムを取り出して何とかできるっていうのに。スキルも使えないし踏んだり蹴ったりだ)
地面に腰を降ろし、ふとそんなことを考える。
そもそもの話、マウスもキーボードもないのにどうやってスキルを使うんだ? クラリスはスキルを使いこなしていたようだが、その方法が俺には分からない。
(なんていうか分からないことだらけだな。俺はただイベントの周回をしてレアドロップを狙っていただけなのに、なんでこんな目に遭わなきゃいけないんだ)
気付いたらアルタスの世界にいて、サブキャラのクラリスと出会って、ナイフで切り刻まれたり、爺さんへの暴力現場に出くわしたり。
……ああもう意味分かんねえよ、全部どうでもいいや。
段々寒さが心地良い眠気に変わってきたし、もう何も考えずに寝てしまおう。
俺は草むらの上に倒れ込み、目を閉じた。
んん……眩しいな。もう朝なのか?
俺は瞼の向こう側に暖かい光を感じ、目を開けた。
「……あれ、ここは?」
俺はきょろきょろと辺りを見渡した。
辺りに広がっていたのは、だだっ広い真っ白な空間。
俺がいたミリー平原とは明らかにかけ離れた場所だった。
「実に情けない。肉体はおろか、精神すら未熟ではないか」
不意に、頭の中に声が響き渡った。
「誰だ?」
「特異点に導かれた憐れな人の子よ、もっと我を楽しませよ。特異点と共に愛を育み、ときに互いを信じ試練に挑み、ともに成長してみせよ」
だめだ、会話になってない。
特異点に導かれた? 愛を育め?
「何を言ってるんだお前? 特異点ってなんのことだよ。というかどこから話しかけてるんだよ」
「特異点とは白髪の少女のことだ。特異点と共に次に開かれる果実の催しに参加し、愛を育め」
白髮の少女ってクラリスのことだよな?
クラリスと一緒に、果実に関する何かのイベントに参加しろってことか?
「なあ、1つだけ教えてくれ。俺はどうしてここにいるんだ? もしかして死んだ……なんてことないよな?」
「人の子は死んだわけではない。しかし命を落としている。故に此処へ呼んだ」
「死んだわけではない? でも命を落としているってどういう……!?」
俺が疑問を口にしたその時、異変は起きた。
(な、なんだ?! 足に力が入らない。いや、それだけじゃない!)
足から力が抜け、床に手を付くことしかできないのだ。
しかも床に足が沈み込んでいる。少しずつだが確実に。
「話は終わりだ。人の子よ、そろそろ現世に還るが良い」
「待て! まだ話は終わっていないぞ、お前は誰なんだ!? どうしてクラリスのことを特異点と呼ぶんだ?!」
俺は沸々と湧き上がる疑問の数々を声の主に質問したが、答えが返ってくることは1つもなかった。
そして次第に、俺の全身は床に沈み込み……俺の意識は闇の中へと吸い込まれていった。
これにて序章終了です。
次からは1章で、主人公の精神的な成長と、ヒロインともっと仲良くなれるシーンが見れると思います。(物語も進展していくと思います)
ぜひお楽しみに。
なお仕事が忙しくなってきたため、投稿頻度が1~2週間に1回に減少すると思います。