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5話 好感度稼ぎ 2

「あの、主様。少し行きたい場所があるのですが、良ければ一緒に来ていただけませんか?」

「断わ……ん?」


 俺が反射的に否定の言葉を言いかけた時、ふにゅっとした柔らかいものが背中に当たっていることに気付いた。

 ほんのり温かくて、拳よりも大きいくらいの何か。誰かにイタズラでもされているのだろうか。

 俺は背中に当たっているものが何か気になり、足を止め背後を振り返った。


「あっ、主様どうかしましたか?」

「気にするな」


 しかしそこにいるのはクラリスだけで、アルタスの時と同じように俺から2歩離れた位置にいた。

 あれじゃイタズラなんて出来ないよな。


(いやちょっと待て、クラリスの目が泳いでるような気がする。俺の背中に感じていた柔らかいものの感覚も消えてるし、何かしてたのか?)


 よーくクラリスを観察してみると、何か思うことでもあるのか明後日の方向に目が向いている。

 ただそれ以外はいつものクラリスで、どこからどう見ても優雅な白髪メイドだ。身長は足りてないけどな。


(うーんでもなぁ、クラリスがイタズラするなんてことは考えにくいんだよな。アルタスでは俺の後ろに付いてくるだけのサブキャラだったんだし、俺の気のせいか)


「……今ので気付かないなんて、相当鈍いんですね。むぅ」

「声が小さい。もっと大きな声で話せ」

「何でもありません。次の曲がり角を左に曲がってください」


 まあそんなことを気にするより、今はクラリスの好感度稼ぎの方が重要か。

 ここで下手にクラリスを刺激して機嫌を損ねるようなことになれば本末転倒だ。それだけは絶対に避けなければならない。

 俺はクラリスに言われるがまま、曲がり角を左に曲がった。




 主様ったら、私が胸を押し当てていたことに気付かないなんて鈍すぎじゃないですか?

 あれだけ挙動不審さを演技したんですし、私が胸を押し当てていたことに気付いても良いと思うのですが……まさか全く気付かれないとは思いませんでした。


 初めはちょっとしたスキンシップのつもりで軽く胸を当てて終わりのはずでした。本当にちょっと当てたらやめるつもりだったんです。でも段々、その……構ってほしいという気持ちが溢れてきてしまって。

 気付いたときには胸をぐっと押し当てて、いつ主様が気付くのかとそわそわしてしまいました。

 だからいざ、主様から振り返る気配を感じ取ると急に恥ずかしさが込み上げてきてしまい、咄嗟に距離を取ってしまったんです。


 私はすぐ目の前を歩く主様に左手を伸ばし、そして後悔しました。


 ……おかしいですよね、私。

 主様の道具である限り、私に興味をもってもらえるはずなんてないのに。


 そう考えた瞬間、私の胸の内にチクリとした痛みが広がりました。

 その痛みはとても小さなものでしたが、私が気にすればするほど胸の内で反響し、増幅し、やがて抱えきれないほど大きくなったかと思えば濃縮され圧縮され、ドロッとした感情に変化してーーああ、これ以上はダメです。

 このままだと私は、このドロッとした感情に押し潰されて……


「何をしている。早く目的地へ案内しろ」


 私が足を止めたことに気付いたのか、主様の急かすような声が聞こえてきました。

 役に立たないと。役に立たないと私ーー


 …

 ……


 ふふ。


 何を考えていたのでしょうか、私は。

 主様の道具であることに心を痛めるだなんて、全くもっておかしなことです。だって大好きな主様に使ってもらえるんですよ? 喜ぶべきじゃないですか。


 私は前方に見えている建物の名前を呼び、中に入るよう主様を誘導しました。


「主様、あの青葉の宿で今日は1泊しませんか? ご飯がとても美味しいそうですよ? ふふっ」

「家があるだろ。どうして宿なんかに」

「もしかして、拒否権があると思っているんですか? 拒否したら私、主様に何するか分からないですよ?」

「……っ、ふん」


 主様が面白くなさそうな顔で宿へ入ったのを見て、私も後に続きます。


 うふふ、主様は私の言うことだけを聞いていれば良いんです。

 この青葉の宿で、少し乙女心の勉強をしてもらいますよ、主様?

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