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4話 好感度稼ぎ 1 改

 大丈夫だ、大丈夫なはずだ。強気に声をかけさえすれば、ナイフを振るってこれないはずだ。なんせ俺と主従関係があるっぽいからな。


(よし、言うぞ)


 俺は震える内心を押し殺し、平静を装って声を出す。


「……少し外へ出かける。付いてこい」


 そう、まずは外出だ。俺の知ってるクラリスは意志なんてなかったし、ましてや感情なんてものもなかった。

 そんなクラリスが意志を持って、俺に攻撃を仕掛けてきたんだ。現状把握のためにも、この世界がアルタスの世界なのか確かめておきたい。


(それに、このくらい威圧的に言えば『分かりました』と2つ返事を返してくれるだろう。あぁ緊張し)

「何か用事があるのですか?」


 ……うん?


「何か用事があるのでしたら私が代わりにこなしますが……どのような用事があるのでしょうか?」


 質問パターン、だと?

 困ったな、俺はこういうアドリブで話すってやつが苦手なんだ。こんな時はなんて返せば良いのかが分からないぞ?


 俺はクラリスの質問にどう返事をすべきか考えていると、


「何か大事な用があるのですね? 分かりました、暗殺ならお任せください」


 なにか事の深刻さでも感じ取ったのか、クラリスは気合の入ったやる気満々の表情でそう言った。


 いや、ちょっと外を出歩くだけだから。買い物のノリで暗殺を任せてくださいとか言うな。

 それからナイフを持ってニコニコ微笑むのをやめろ、怖いわ。


 俺は「はぁ……」と大きく息を吐き、クラリスにこう言った。


「……勝手にしろ」




「もう主様ったら。てっきり誰か殺りたい方がいるのかと思いました」

「別に、そんな気分じゃないだけだ」

「さすが主様、お優しいですね。もし誰か殺りたい方が出てきたらいつでも仰ってくださいね?」


 あれから少し時間が経ち、俺はクラリスに『殺したい人間はいない』と伝えることに成功した。

 どうやらクラリスにとっては「大事な用=俺に邪魔する存在の排除?」らしく、俺の口下手さも相まってそこそこ苦労したよ。


(にしても俺に邪魔する存在の排除ってなんだよ。俺は魔王か何かか? ……一体どういう人間だと思われてるんだか)


 足取りが重い俺はクラリスと家から出て、王都グランウェルと呼ばれる街の中を歩いていた。

 王都グランウェルはやたら広く、冒険を楽しむための施設が充実しているという設定で作られた街だ。だから情報収集にはぴったりだし、色んな物が売られているのでクラリスの趣味趣向を知るのに都合がいい。


「主様、あそこに果物を売っている屋台がありますよ。少し寄ってみませんか?」


 おっ、早速クラリスが何かに興味を持ったようだ。

 ……ん?果物屋?


「寄りたいなら1人で行け」

「分かりました、ではここで少しお待ちくださいね」


 クラリスはそう言うと、果物を置いている屋台の前まで小走りで向かっていった。

 ……果物屋なんてあったっけなぁ。確か果物は雑貨屋でしか売ってない上に、その雑貨屋で売ってるアイテムの種類が多くて中々目当てのアイテムが買えない!ってのが常識だったと思うが。


 少しの間待っていると、クラリスが両手に1つずつ緑色の実を持って帰ってきた。

 手のひらより大きく、横向きのキュウリにナスを刺したような不思議な形をしている。


「ピュラの実という果物を買ってきました。透き通るような甘さがウリだそうです」

「……」

(こんなアイテム見たことないぞ? ……もしかして、アルタスが現実になった影響ってことか?)

「主様? どうかしましたか?」


 クラリスの声でハッと我に返る。

 そうだ、今はピュラの実について考える時じゃない。


「気にするな」

「でしたら、もし良ければ主様もおひとつどうですか? すーっとした甘さが喉を過ぎていくのが美味しいらしいですよ?」


 俺はクラリスからの誘いに、脊髄反射で答える。


「要らん」


 そして言葉が口から出た後に、しまったと後悔する。

 俺はいつもそうだ。思っていることと口から出てくる言葉が中々一致しないし、一致しても相手を不快にするような言い方しかできない。

 俺が少しずつ落ち込み始めていると、クラリスは意外な言葉を俺に投げかけた。


「心配しなくても大丈夫です。主様が不器用なのは私が1番知っています。だからそんなに不安そうな顔をしないでください」


 ……っ。

 はは、そうか。アルタスではほとんど一緒だったしな、俺のことはよく知ってるってか。


 クラリスの励ましに俺は気を取り直し、ピュラの実を1つ受け取って一口齧る。

 確かにスッキリとした甘さが喉を駆け抜けていくのが面白い。思っている以上に美味しいぞ。


「この程度の味で満足するな。確かに甘いがもっと美味い果物がある」

「そんなこと言って本当は美味しいんですよね? ずっと一緒にいたんですから、私には分かりますよ?」

「……」(俺が本当に言いたいことをよく理解できるな)

「うふふ、ありがとうございます主様」


 すごいな、俺の心を読んでるんじゃないかと思うくらい考えを見透かしてくる。

 俺は今まで「何を考えているのかよく分からない」と言われるくらい、考えていることを表情に出さないし、出せないんだが。


「褒めてもらえて嬉しいです。口に出してもらっても良いんですよ?」

(こうやってナイフを出さずにニコニコしている分には可愛いんだよな。大きな実をチビチビ齧る仕草は小動物の動きそのものだし)


「今失礼なことを考えてましたよね?」

「気のせいだ」


 ヤバい、クラリスがナイフを手に持ち始めた。

 さっきと表情は変わっていないはずなのに、あのニコニコ笑顔を見ると恐怖に身がすくむ。

 何か、何かナイフを降ろさせる方法は……そうだ!


「ピュラの実は好きか」

「露骨な話題逸しですね主様? でも良いですよ、今回は乗ってあげます。さっき初めて食べましたが、あれなら毎日食べられるくらいには好きです」

「……俺の口には合わなかった。だから俺の分も処分しろ」

「ふぇっ?!」


 俺はピュラの実をクラリスに手渡し、そしてハッと気付く。

 何やってんだ俺! 食べかけを渡されて誰が喜ぶんだよ。


 俺はクラリスの顔色をちらりと窺い、この後の展開を覚悟した。

(あー、あれはキレてるな。もうお仕舞いだ)


 なぜならそこには、顔を真っ赤にして俯きながらプルプル震えるクラリスがいたからだ。

 

 だが俺の予想とは裏腹に、いくら待っても痛みは襲って来なかった。クラリスはどう見てもブチギレているというのに、1歩も動いていなかった。


「食べかけってことは間せ……ぁ、ありが……………ます」

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