1話 ずっとお慕いしておりました、主様
(レアドロップは……なしか)
俺は慣れた手付きで、マウスとキーボードの操作を再開する。
パソコンのモニターに映るゲーム画面を隅々まで確認し、丁度いまリスポーンしたのであろう、視界の端にチラついた敵に手をかける。
そして敵がいた辺りを確認し、何もアイテムが落ちていないことを確認した俺は、すぐに次の標的を探し始めたーーのだが。
(なかなかレアドロップが落ちないな)
この作業を始めてから、一体どのくらいの時間が経ったのだろうか。
俺が求めているアイテムは全くと言っていいほど手に入る気配がなかった。
ーーアルタス・オンライン。
それが今、俺が狂ったようにハマっているネトゲの名前だ。
よくあるMMORPGのシステムがベースなのだが、このネトゲはリアリティを追求しており、例えばキャラクターの体調がそのままステータスに反映されるといったリアルなゲームシステムが俺の好きなポイントだ。
他にもグラフィックとサウンドも良く出来ていて、まるでその世界が本当にあるかのような没入感も人気に繋がっているらしい。
(なんて、現実逃避をしている暇はないよな)
ふと時計に目をやって、ほっと安堵する。
まだ夜中の62時だ。大丈夫、死ぬことはない。
長時間のゲームプレイで時間感覚がおかしくなっていた俺は、常備してあるエナジードリンクを1缶空にし「ふぅ」と息をついた。
そんな時だった。
『主様……聞こえますか? 私の元へおいでください』
女性の声が、ゲーム画面からハッキリと聞こえたのだ。
いや、女性と呼ぶには少し若いか。恐らく俺と同年代くらいだろう。
こんなイベントがあるなんて聞いてないぞ? と思いながらも、両手の動きは止めないようイベントの進行を試みる。
『主様? 聞こえていらっしゃらないのですか? そんなはずはないのですが、おかしいですね』
(これは何のイベントだ、マイクに向かって喋ればいいのか?)
「あーあー」
『ああ! 聞こえます、聞こえました。うふふっ、もう大丈夫です主様。今こちらにお呼びしますからね』
(こ、これはっ!?)
少女の声が聞こえなくなったと思った次の瞬間、俺の部屋が突然発光し始めた。
それは淡くて、眩しくて、でも目を開けても目に痛みがない、不思議な光。
俺は得体のしれない恐怖に襲われ、その場から逃げ出そうとしたが、なぜか足に力が入らない。
(くそっ、足だけじゃない! 全身に力が入らない!)
足にうまく力が入らず、床に膝をついた俺はそこでハッと気付く。
床にめり込んでいるのだ。膝が、足が、少しずつ。
まるで床が底なし沼になったかのように、少しずつ身体が沈んでいく、そして。
「ずっとお慕いしておりました、主様」
気付けば俺は、見知らぬ少女に膝枕をされていた。